S1-3
その日の夕食は、客室内でとられた。
いつもなら、中間地点にターミナルのような物があり、魔獣被害に会った時などの整備をする間に、貴族専用の食堂でディナーを楽しむのだが、魔獣被害も無かった今回、ターミナルに長時間停る必要もなく、走らせることが出来た。
とはいえ、積荷の点検など、少しの時間は停る。そのついでにハンスの顔見せも済ませた。ド緊張のハンスの横で、ナツが尻を叩き、一緒に挨拶をした。
いつもなら荷役達は、ターミナルの片隅で携帯食などを食べるのだが、ケーニッヒ卿の計らいで、荷役にもワイルドボアのミソスープが配られた。それぞれ自前の、木製のボウルのような器を持っているので、それにジョーカーが盛っていった。
客室内のメニューは、ミソスープの他に、香辛料を効かせたステーキ、薄切りして湯に通したワイルドボアで、千切りの野菜や果物を巻いて食べるしゃぶしゃぶ風であった。
「どれも美味であるな!我はミソスープが特に気に入ったぞ!」
「わたくしは、しゃぶしゃぶ風でございますわ!」
「ありがとうございます。ワイルドボアの肉は、味は良いのですが脂が少々キツく感じる時がございます。しゃぶしゃぶ風は、湯に通すことで余分な脂を落としております。逆にミソスープにしますと、その脂が甘味を増し、深みを加えるのです。」
「なるほどのぅ、最善の調理法と言う訳じゃな。うむ。見事である!」
「勿体のうございます。」
「さて、我は少し横になるとしよう。皆の者、後は好きに寛ぐが良いぞ。」
「ありがとうございます。おやすみなさいませ。」
食後の片付けをするジョーカー。ミソスープを見ている。
「少々作りすぎましたかな……」
それを見てまどかは、あることを思いついた。今日は貴族の食事ということで、内臓を使うのをためらっていた。まどかは調理台へ行き、内臓の下処理をして、一度茹でた。湯を切ってミソスープに入れると、鷹の爪を入れ火にかける。弱火でゆっくりと、時折茹で具合と味をみながら……
「マイヤーさん、ちょっとお尋ねしたいのですが、貴族の方々は、内臓を使った料理など、お召し上がりになりますか?」
「北方の国には、そういった風習があると聞き及んでおりますが、帝国内では庶民が食す物とされております。」
「そうですか……では、これはお出し出来ないですね……ハンス達にやるか……」
「先程から良い匂いがしておりましたが、内臓を使った料理だったのですか、残念です。でも良い匂い……」
「味見してみますか?」
「だって内臓でしょ?わたくしは結構。」
「私食べるよ!モツ煮込みでしょ!」
「そっか。メグミは知ってるよね。ジョーカーも食べてみる?」
「後学の為にも、いただきます。」
まどかは小皿に盛り、二人に渡す。
「美味しい!トロトロ!絶対ご飯に合うよね!」
「ほう、ミソスープが更に濃厚な味わいに!煮込みでごさいますか、奥深い……」
「これはケーニッヒ卿には申し訳ないけど、私達で食べちゃお。」
「そうするか。」
こうしてモツ煮込みは、ケーニッヒ卿の口に入ること無く、まどか達の飯の友になった。
「……あの……やはりわたくしも……いただけますか?」