S1-2
おにぎりの一件で、すっかりまどかを気に入ったケーニッヒ卿。あの後まどかは、おにぎりに味噌っぽい調味料を塗り、手のひらに火魔術を灯して炙り、焼きおにぎりまで出した。器に入れ、出汁をかければ茶漬けになることも説明した。
「一つの料理が三度楽しめるなど、我は聞いたこともないぞ!汝の国の食文化は、我が国の遥か上を行っているのやもしれんな。」
えらい気に入りようだ。そのうちおにぎりが宮廷料理の仲間入りするんじゃなかろうか……それはないか。
移動中、窓の景色を眺めていると、土煙が見えた。同じタイミングで鐘を鳴らす音がする。列車は減速し、そのまま止まってしまった。
機関士が説明に来た。
「ワイルドボアが現れました。ヤツは動くものを見ると突進する性質がございます。列車を停めて様子を見ます。」
ワイルドボア。体長2m〜5mの、イノシシのような魔獣。鋭い牙を持ち、動くものを見ると、一直線に体当たりする。毒や臭みはなく、その肉は美味。
「こっちに来る。」
まどかが言った。
「まずいですね、あの巨体に体当たりされたら、車両は横転してしまいます!」
「では、夕食のメインにしましょう。ジョーカー、卿をお守りして。メグミ、いける?」
「心得ましてございます。」
「いいわよ。」
まどかは、メグミの傍に立つ。メグミは、弓を構え、矢を番える。集中しているメグミの横で、まどかは雷鳴魔術を矢に纏わせた。
「「サンダーボルト!」」
横向きの雷が、ワイルドボア目掛けて走る!ワイルドボアの左目から、尾の付け根まで、一直線に貫いた!ワイルドボアは地面にヘッドスライディングし、5mほど滑って止まった。
まどかは客車を飛び降り、解体ナイフを取り出す。血抜きをし、内蔵と肉を切り分け、水魔術で血を洗い流し、収納アイテムに納めて帰って来た。
「機関士さん、行きましょう。」
一連の行動を、マイヤーは手で目を覆い、声にならない悲鳴をあげ、ケーニッヒ卿は目を輝かせ、時折驚きの声をあげた。
機関士のヨークは、あんぐりと口を開け、呆然としていたが、まどかに声をかけられると我に返り、再び列車を動かした。
「まどか、お帰り!」
「ただいま、メグミ。」
「うむ。見事である!」
「ありがとうございます。マイヤーさん、この客室には、調理出来る設備はあるのですか?」
「へ?え、えぇ。簡易の調理台と、小型の炉ならございます。」
先程まで震えていたが、ようやく冷静さを取り戻したマイヤーが答えた。
「ジョーカー、これで美味しいの作って!」
「かしこまりました。ただ焼くだけでも良いのですが、ここはまどかお嬢様に教えて頂いた、ミソスープ仕立てにいたしましょう。」
「そだね。それがいい。」
「まぁ!ジョーカーどののお料理を頂けるのですか!」
「マイヤー、どういう事か?」
「ご主人様、ジョーカーどのがお屋敷にこられた日、料理人に手ほどきをお願いしたのです。その時作って頂いた料理が事の他美味でございました。」
「そうであったか。ここ数日、屋敷で出る物が美味くなったと思おておったが……ジョーカーには料理の才もあるのか。しかもまどかの国の料理であろう、うむ、期待しておるぞ!」