最終ベルが鳴る時1-1
発車のベルが鳴る。
ケーニッヒ卿の一行は、既に客室にいる。策士まどかの計画で、見事に有象無象を翻弄したのだ。
ニコライの馬車に、人々が殺到していたのと同時刻、ケーニッヒ卿の馬車は、客車の真横にいた。駅の裏手の、作業員が整備資材を搬入する通路を通り、車体の陰に入った。
レッドカーペットを悠々と歩き、駅の入口で優雅に一礼をしたニコライ。列車の動き出しと同時に、貨物車に飛び乗った。大成功だ。
元の世界での、アイドルのライブ会場、出待ち、入り待ちをするファンをはぐらかし、移動車両に乗り込むアイドルとスタッフ。まどかはそれを再現したのだ。
発車前、まどかはハンスに包を渡した。
「なんです?これ?」
中にはメグミの水晶に似せたネックレスと、おにぎりが入っている。
「入れ替わった時バレないように、ネックレスを作って貰った。それを必ず付けて。あと、おにぎりは移動中食べて。」
発車後、ハンスは包を開いて確認する。ネックレスを付けてニヤニヤしている。
「(まどか様とおそろいだ!)」
それを渋い顔で見ているナツ。一緒に入っていたおにぎりを見て言う。
「なんだそれ?米を丸めて固めたようなヤツ。」
「まどか様が作ってくれたっす!一つ食べるっすか?」
「食えんのかそれ?なんか不味そうだぞ?」
「俺もまだ食ったことないっす。」
二人は恐る恐るおにぎりを口にする。ハンスはまどかが作ったというだけで満足だろうが……
「ん!なんだこれ!もちもちで、塩加減がちょうどいい、美味いじゃねぇか!」
「ホント美味いっすね!中になんか入ってるっす。」
二人はおにぎりの具を見せ合いながら、あっという間に完食した。たまに、そっちも食わせろ!と言って、半分づつ分け合ったりした。ナツは思う、
「(やっぱり、女って、こういうこと出来るヤツが好かれるよな……)」
まどかの女子力に嫉妬するナツ。
「な、なぁハンス、私がコレ作ったら、食ってくれるか?」
「え!作れるんすか!もちろんっす!」
「そ、そうか!よし!今度作ってやる!」
客室内。まどかもおにぎりを取り出していた。
「なんじゃそれは?」
ケーニッヒ卿が興味を持ち聞いてきた。
「はい。これは、おにぎりという携帯食です。中に干物などを入れて、米を丸めたものです。」
「ほう、見たことがないな……」
「私の産まれた国の食べ物ですから、ご存知無いかもしれません。」
「そうか、味をみてやる。一つ所望じゃ。」
「なりません。」
マイヤーが諌めた。得体の知れない物を 主の口に入れるような真似は出来ない。マイヤーが止めるのも当然だった。
「構わぬ。」
何度かのやり取りがあったが、ケーニッヒ卿の好奇心に、マイヤーが折れた。
「そのまま齧り付いてください。」
と手渡すまどか。なんて野蛮な!と顔を顰めるマイヤー。言われた通り齧り付くケーニッヒ卿。
「ほう!美味いぞ!旅には持ってこいじゃな。マイヤー、そちも食してみよ。」
嫌々ながら口にするマイヤー。だがその表情は一変した。
「なんと!これは家人にも作り方を学ばせなければ……」
「早速手配せよ。」
マイヤーも気に入ったらしい。後日まどかは屋敷にて、米の炊き方から指導することになる。