T4-4
ケーニッヒ邸。
まどかとメグミは、揃いのローブに身を包み、首に水晶を下げている。エントランスに停めた馬車の、扉の両脇に立ち、ケーニッヒ卿を迎える。
「道中、頼むぞ。」
「「はい。」」
「留守は任せたぞ、ハインツ。」
「かしこまりました。行ってらっしゃいませ。」
馬車に乗り込む。まどかが中を確認し、ケーニッヒ卿、マイヤー、メグミとまどかが入り、扉を閉める。ジョーカーは御者席に座り、用心のために結界を張った。
駅では、ナツとハンス達が、積荷の最終確認をしている。
「縄は張ったか!不審な荷物はないな!扉を閉めろ!しっかり鍵をかけろよー!」
「後ろの荷も異常なしっす!いよいよっすね!あ、ナツさん、足、もう大丈夫っすか?」
「あぁ、すっかりいいよ。ハンスの薬が効いたぜ!」
「それはよかったっす!」
機関士が様子を見に来る。画板のような物を持ち、指を指して確認しながら、何か書いているようだ。
「あ、ナツちゃん、本日はよろしくお願いしますね。」
「ヨークさん、オヤジの時はありがとうございました。これからもよろしくお願いします。」
魔導機関士のヨーク。魔導列車開業当初からの機関士で、ナツが産まれる前からの技術者。定期運行に漕ぎ着けるまで、失敗と調整を繰り返し、並々ならぬ努力をしてきた苦労人。
ナツの父親と酒場で口論となり、一歩も引かない芯の強さを見せ、逆に意気投合、気の荒い連中を束ねる力強いカリスマ親方と、職人気質で芯の通った頑固者が、心友と呼べる存在だった。
「立派に後を継いだね。おじさんびっくりだよ。何かあったら、いつでも言ってね!」
「ありがとうございます。」
「知り合いっすか?」
ハンスが横からナツに話しかけた。
「あぁ、あたしが小さい頃から世話んなってる人だ!魔導列車のエキスパートってとこかな!」
「おやおや、ナツちゃん!彼氏かい?隅に置けないねぇ……」
「え!ばっ!ち、違ぇし!か、彼氏とか、そ、そんなんじゃねぇし!」
「俺、ハンスっていいます。よろしくお願いします!」
「ハッハッハ……ハンス君、ナツちゃんをよろしく頼むよ!」
「な、何を頼むんだよ!ヨークさん、だから違うって!」
ナツは、ムキになって否定した。
「そうかいそうかい。ところで……まもなくケーニッヒ卿もご到着される時間だ。準備はいいかい?」
「はい。いつでも行けます!」
-馬車が駅へ差し掛かる。
駅前に人集りが出来ている。ケーニッヒ卿に一目会おうと、商人や官僚役人が押し寄せている。多くは顔繋ぎや立身出世、欲にまみれた連中であった。
駅員が人混みを掻き分け、恭しく赤い絨毯を運んで来る。正面玄関口に真っ直ぐ絨毯を広げて行く。その赤い線に両断された人々が、我先にその脇へと並んで行った。多分、ドローンで上から撮影したら、赤と黒の縞模様に見えるだろうか……
馬車が絨毯の端に到着した。人々は歓声を上げ、縞模様が波を打っている。御者が扉に手を掛け、ゆっくりと開いた。中から煌びやかな服を纏った者が降りてきて、手を上げる。
「はっはー!これはこれは!いったい何の集まりですか?みなさーん!」