T4-3
倉庫街。
ケーニッヒ卿謁見の翌日、まどかとメグミは、執事筆頭のハインツと共に、ナツに会いに来た。ハインツは、列車に乗り込む荷役に不審者が居ないか、見極めるのも仕事だった。
「ナツ様、お久しぶりですな。こちらが今回同行する冒険者様です。」
「ハインツさん!親父が逝ったあと、色々お世話になりました。ケーニッヒの旦那には、あたしの後見になってもらって、返しきれねぇくらいの恩が出来ちまった。」
「まどかです。」
「メグミです。」
「二人のことはハンスから聞いてるよ。ナツだ。よろしくな!」
ナツはメグミと握手し、続いてまどかの手を取ると、引き寄せて耳元で囁く。
「まどかは、その、ハンスと付き合ってんのか?」
「は?いいや、私は誰とも付き合う気は無いよ。そういうの苦手だし。」
「そっか。よろしくな!」
ナツは笑顔でガッチリとまどかの手を握った。
「じゃ、列車に乗せる連中を紹介するよ。付いてきな!」
休憩室へ案内される三人。倉庫を一つ通り過ぎようとした時、ガゴン!と音がして、樽が転がって来た。
「お嬢!危ねぇ!」
声が聞こえた時には、樽が間近に迫っていた。まどかは咄嗟にナツの手を引き、右腕で抱きとめると、左手を伸ばし樽を受け止めた。
「ドン!」
辺りに衝撃が走り、樽はピタリと止まった。
「怪我は、ない?」
「あ、あぁ、うん。」
皆が呆気にとられている中、積み樽の奥に動く気配がある。ハインツはいつの間にかその影に立ち、よく通る声で誰何する。
「ここで何をしているのです?」
驚いて飛び上がる男。それを見る屈強な男達。
「てめぇは、バッケスんとこの!」
「小細工しやがったな?野郎ども!ふん縛ってやれ!」
「「うぉー!」」
「……知ってるやつか?」
「あぁ。あたしらの商売敵だ。ウチのオヤジが逝っちまったあと、取引を全部カッさらおうとしてたヤツらさ。ケーニッヒの旦那のおかげで、あたしらは守ることが出来た。」
「ギルドに連れてくか?」
「いや、いい。商売のことは自分らで方付けるさ。あたしらにも矜恃ってもんがあるからな。樽に詰めて、バッケスに叩き返してやる!」
そのやり取りを見てメグミは、少しの嫉妬と、少しの安心が入り交じった気分だった。
「(まどかは誰にでも優しいのね……)」
騒ぎを聞いて、ハンスがやってきた。
「あ、まどか様ー!ふべらっ!」
両手を上げて抱きつく勢いのハンスを まどかは樽と同じように弾いた。
「(あ、誰にでもじゃなかった……)」
転がるハンスを見て、メグミはクスクスと笑った。
休憩室で、荷役と顔を合わせる。中に腹をさすっているハンスの姿もある。
「問題ないようですな。」
ハインツの言葉で、確認は終わった。いよいよ明日、帝都行きの列車に乗る。荷役には、ナツから事情を説明された。メグミが頭を下げると、男達が色めき立つ。
「俺たちに任しときな!何かあったら、絶対逃がしてやるからな!なぁみんな!」
「おぉ!もちろんだぜ!安心していいぜ、メグミちゃん!」
「てめぇ、色目使ってんじゃねぇ!」
「おめぇこそ、鼻の下伸ばしやがってよ!」
賑やかにその日の顔合わせは終わった。