T3-4
倉庫脇の休憩室。
ナツはソファに横になり、濡らした布キレを顔に当てていた。ぶつぶつと独り言を呟きながら……
「ったくなんだよ!なんであんなちんちくりんに、あたしがドキッとしなきゃいけないんだよ……これは、あれだな!弱ってる時に優しくされて、勘違いするってヤツだ!そうに違いない!あのちんちくりんめぇ……人の弱みにつけ込みやがって!今度ツラみたらぶっ飛ばしてやる!」
「あのー、ナツさん……大丈夫っすか?寝てます?」
ハンスが入ってくる。動揺するナツ……
「な、なんだよ!」
「来たばっかりでなんなんっすけど、ナツさんに、二人っきりで、聞いてもらいたい話があるっす。」
「は、話?(うそ、まさかいきなり告白か?いやいやいや、ここでナメられるわけにはいかねぇ……で、でも……結構積極的なヤツだな……)」
「じ、実はですね、ナツさんに……俺のことを知っといて欲しいっていうか……」
「(キターッ!)」
「協力して欲しいんす。」
「……ん?協力?」
「はい。実は、二週間後の帝都行きの列車に乗せて欲しいっす……」
「は?はぁ?」
それからハンスは、ナツに事情を説明する。なぜか最初は、気の抜けた顔をしていたナツだったが、次第に真剣な顔になり、最後にはニヤリと口角を上げ、鋭い目付きになった。
「なるほどな、帝都のバカ貴族に、一泡吹かせてやろうってことだな……わかった!そういうことなら任せろ!
アイツら、荷の状態が悪いとか難癖つけやがってよ、運賃値切ってきやがるんだ!貴族なんて腐るほど金持ってるくせに、しみったれてやがんだよ!どうせろくでもねぇことに金使ってんだろ!
それにケーニッヒの旦那には、返しきれねぇ恩がある。協力させて貰おうじゃねぇか!」
「あ、ありがとうございます!」
ハンスはナツの手を取り、両手で握手した。
「ば、バカヤロー、顔近ぇよ、」
「あ、すいません……」
二人は赤面し、目を合わせられなくなった……
「お嬢!荷の確認、終わりやした!……あ、お邪魔でしたか?へへ……」
「ば、バカヤロー!変な気ぃ回すんじゃねぇ!ぶっ飛ばすぞ!」
「すいやせんでしたぁー!」
慌てて出て行く男。それを見て二人で笑った。
「なぁ、ハンスっつったか?名前?」
「そうっす!」
「ハンス、この件は、他のヤツらには言わねぇ方がいいのか?」
「そうっすね、列車に乗るのは、ナツさんの信用出来る人達なんでしょ?何人かには、知っといて貰わないと、入れ替わった時に騒ぎになっても困るんすよ……」
「よし!現場を仕切る何人かには知らせよう。あと、あたしも行く!」
「ホントっすか?嬉しいっす!頼りにしてるっす!」
「おう!任せろ!(嬉しい?今嬉しいって言った?あたしと一緒に行くの、嬉しいって……)」
「じゃあ、仕事に戻るっす!」
「あ、あぁ……頑張れよ!」
「ナツさんに言われると、元気出るっすね!」
「……」
「……(今の、どういう意味?あたしの頑張れで、元気になれるって……もう!どうすりゃいいんだよ!モヤモヤが止まんねぇよ!)」
ハンスは男達の所へと戻った。時折冷やかされているようだが、本人はキョトンとしている。ナツはその日、眠れない夜を過ごすことになった。