T3-3
女の子の名はナツ。細身だがメリハリボディ。髪は少し赤い黒、目はパッチリしていて少しタレている。男達と同じような動きやすさ重視の服を着ていた。いわゆるタンクトップだ。胸がはだけないように、サラシのようなものを巻いている。言葉遣いが乱暴だが、黙っていれば相当に可愛い。
「おい!お嬢に見取れてボーッとしてんじゃねぇ!サッサとこっちこい!」
「は、はいっす!」
「若ぇの、お嬢は無理だぜ!諦めな。どうしても射止めてぇなら、力を見せるこった!」
「そ、そんなんじゃないっすよー」
「ハッハッハ、まぁいい、その荷物に数字が打ってあんだろ。同じ数字んとこにもってって積み上げるんだ。いいか、キチッと角を合わせねぇと荷崩れするからな!手ぇ抜くなよ。」
ハンスは言われた通り荷物を運び、丁寧に仕事をこなした。自分がクビになるような事があれば、全ての計画がダメになる。是が非でも認められなければならない。その為にしっかり働いた。
「ガラガラガッシャーン!」
荷物の崩れる音がする。それを聞き、みんなが駆けつけた。見るとナツが倒れている。そばには縄の束があった。足が荷物に挟まっているようで、動けない……
「お嬢!……誰だここの荷を詰んだヤツは!」
「いや、あたしがドジった!縄を掛けようとして滑ったんだ……うっ……」
「そんなことより退くっす!」
ハンスは近くにあった丸太を ナツの足と荷物の隙間に差し込む。
「みんな!丸太を上げるっす!」
男達が次々と丸太を掴み、力を合わせ持ち上げた。
「せーの!」
「ギギ……ゴゴゴッ……」
少し浮いたところで、ハンスはナツの所へ滑り込み、抱えて引きずり出した。
「大丈夫っすか?ちょっと触るっす……折れては無いみたいっすね……」
ハンスは収納から、ポーションとしびれ薬を出した。
「しびれ薬は、量を調整すれば痛み止めになるっす。これをポーションと混ぜて……ちょっと縛るっすよ。」
意外なことに、ハンスは薬の知識がある。子供の頃、なかなか薬が手に入らない中、ある物で代用する知恵を身につけたのだ。
「これでいいっす。まだ痛むっすか?」
「あ、あぁ、大丈夫だ……」
ナツは顔を赤らめた。周りの男達に見られたくなくて、顔を背ける。
「顔赤いっすよ。熱あるんすか?」
ハンスは手をナツの額にあてる。ナツの顔はもう真っ赤だ。
「だ、大丈夫だよ!触んな!」
ナツはハンスの手を払い立ち上がろうとしてよろけた。ハンスはそれを抱きとめる。
「無理しちゃダメっすよ。」
「う、うるさい!はなせ!」
ナツは足を引きずりながら、倉庫脇の休憩室へ入って行った。
「……とりあえず、荷を積み直す!野郎ども手ぇ抜くなよ!」
「じゃあ、縄は俺が張るっす!」
「おい!新入り!おめぇなかなかやるじゃねぇか。気に入ったぞ!」
巨漢の男が、バナナのような手でハンスの背中を叩いて言った。
なんとかハンスは受け入れられそうだ。第一段階はクリアした。だが帝都でメグミと入れ替わらなければならない。ナツに事情を話して、協力してもらう必要がある。仕事が片付いたらナツに相談しに行こう!とハンスは思った。