T2-4
「では、始めてください。」
最初のナイフの若者は、無闇に斬りかかった。ジョーカーは事も無げに躱し、
「当たりませんねー」
と、涼し顔をしている。
「お一人では無理でしょう。同時にいらしてください。」
ジョーカーに促され、もう一人のナイフ使いが突いてくる。それでも当たらない。ここまでジョーカーは後ろに手を組んだままである。5分も経たず二人は息を切らし膝をついた。
棍棒使いもサーベル使いも動揺だった。ハインツが見てくればかりと言った理由がわかる。多少訓練はしたのであろうが、形にハマり過ぎて、攻撃を読みやすいのだ。だが、鞭使いは少し違った。足元を狙い、泥をはね上げる。汚せば勝ちという考えからの狡さがあった。しばらくはジョーカーを押しているように見えたが、鞭を引き戻す瞬間に合わせて、一気に間を詰め、鞭使いの目と鼻の先に立った。その動きに圧されて、鞭使いは尻もちをついた。これで終了である。
「なるほど。わかりました。決して良いとは申せませんが、それぞれに光るものはありました。しかし執事としては、ご主人様をお守りするのが役目。次はわたくしが攻撃いたします。躱せばご主人様に当たってしまいますよ?受け流すか、捕らえてくださいませ。」
ハインツが指導して欲しかったのは、正しくその部分だった。その意を正確に汲み取り、ジョーカーは執事としての本質を理解させようとしたのである。
「流石ですな。」
ハインツは思わず呟いた。そして理解する。この御仁は、以前自分と同じ立場の者であったろう。そしてその指導力は、自分を上回ると。だがハインツは、そこに嫉妬するような真似はしない。優れた指導者には敬意をもって接する。それが自分のスキルアップにもなり、ご主人様のお役に立てる事だとわかっているからだった。
木の柱に布を巻き付け、縄で巻いた物が立てられる。訓練の打ち込み用に、普段使っている物だろう。ジョーカーは次に若者達に石を10個ずつ拾わせる。
「今からわたくしが、この石を的に向かって投げます。的はご主人様だと思ってください。石は暴漢どもの矢玉、毒が塗っているやもしれません。下手に受ければ戦闘不能になり、ご主人様をお守りすることが出来なくなってしまいます。皆さんなら、どう対処しますか?」
ジョーカーは若者達に考える時間を与えた。それぞれの能力を把握し、連携をとる。最善の方法を自分達で導き出すのだ。普段から考えるクセを付け、仲間を理解すれば、咄嗟の状況判断に役立つからだ。若者達は的を背に陣形を組んだ。
「悪くないですね。後は咄嗟の判断を臨機応変に対応出来るか……参ります。」
ジョーカーは石を弾いた。投げる動作を見せず、縦横無尽に位置を変え、指先で石を弾き飛ばした。
若者達は神経を研ぎ澄まし、石礫をたたき落としていく。
「では。」
ジョーカーは石を上へ弾く。その落下に合わせ、石を同時に二発撃ち込んだ。鞭使いが上空の石を打ち落とし、棍棒を回転させこれを防いだ。やがてジョーカーの攻撃を全て打ち落とすと、動きを止めたジョーカーが言う。
「不合格ですな。」