T2-2
ケーニッヒ邱。
敷地はドーム球場の1.5倍、3階建ての屋敷のエントランスには、噴水を中心にシンメトリーのガーデニング、屋敷の裏手には池と林があり、池の脇にある小屋には、馬が4頭飼葉を食んでいる。
ジョーカーは玄関には行かない。裏へまわり、勝手口の戸をノックした。
「どなた?」
「わたくし、クレア様の紹介でご奉公に上がりましたジョーカーと申します。お取り次ぎ願えますでしょうか?」
しばらくして、勝手口の戸が開く。この間ジョーカーは、周りをキョロキョロ見回すこともせず、正しい姿勢で立っていた。
「お入りください。」
「失礼いたします。」
既に面接が始まっているようなものだ。部屋に通されるまでの姿勢、目の動き、脚の運びから足音に至るまで、全てを見られている。
「こちらでお待ちください。」
「かしこまりました。ありがとうございます。」
部屋の扉が開いた瞬間、ジョーカーは、目に入ってきた情報を全て記憶した。どうやら執務室のような部屋らしい。清潔に保たれた、いわゆる行き届いた部屋だ。メイドや執事の技量の高さが窺える。
ジョーカーは椅子に座ることはしない。この椅子には歴とした持ち主がいる。そこに客人面して座るなど、執事として有るまじき行為だからだ。ジョーカーは、椅子の斜め後方に立ち、呼び出しを待った。
30分ほど経っただろうか、部屋をノックする音がした。
「ジョーカー様、ご主人様がお目通りを許されました。こちらへどうぞ。」
「かしこまりました。」
次に通されたのは応接室だ。正面のソファに老齢の紳士が座っていた。その後ろの扉に、人の気配がする。
「こちらへどうぞ。」
「ありがとうございます。」
そう言ってジョーカーは、やはり椅子の斜め後方に立った。ソファの紳士の横に、案内に付いたメイドが立つ。
「なるほど。君はどう見るかね?マイヤー」
「はい。申し分ないかと。」
「そうか。では合格としよう。」
「ありがとうございます。精一杯、ご奉公させていただきます。」
「うむ。」
「では、改めて。わたくし、メイド長をいたしております、マイヤーと申します。御屋敷の家事全般、全てを取り仕切らせて頂いております。」
「この屋敷で分からないことがあれば、マイヤーに尋ねるとよい。」
紳士のその一言を受けて、ジョーカーは口を開いた。
「では、恐縮でございますがお尋ね申しあげます。わたくしは、いつになったらご主人様にお目通り願えるのでしょうか?」
「ん?どういう意味だね?」
「失礼ながら、そちらの紳士は、執事を取り仕切られる方かと、お見受けいたします。扉の奥のご主人様には、お目通り願えないのでございましょうか?」
すると、扉の向こうから笑い声が聞こえた。ガチャリと扉が開く。
「ハッハッハッハー!見事だ!流石はクレアどのが紹介するだけの者。全てを見抜いたか!」
「お目通り頂き、恐悦至極にございます。」
「ん。我がケーニッヒである。そやつは執事筆頭、ハインツじゃ!」
「ハインツと申します。ジョーカーどの、お見逸れしました。」
「執事の嗜みでございます。」