T2-1
メグミは戸惑っていた。
まどかに抱き寄せられた時のときめきと、包み込まれる安心感に。
(私、どうしちゃったんだろう……まどかにドキドキするなんて……だって、まどかは女の子だよ。それなのに……)
元の世界でも、人を好きになったことはある。弓道部の先輩に憧れてて……部活の練習の時、私が弓を引く後ろから、そっと手を添えられて、気が遠くなるほどドキドキした。でもそれは、好きになった男子だから。告白は出来なかったけど、ずっと想い続けてた……今それに似た感情が、メグミの心に湧き上がっている。まどかに向けて……
「まどかが男の子だったら……はっ!何言ってるんだろ私……」
メグミは大きく深呼吸した。
「今は気持ちを切り替えよう。こっちに来て、まどかも、ジョーカーさんも、ティンクも、ハンスさんも、みんな家族みたいなもんじゃない!そうよ。家族、みんな家族だから。」
メグミは少し落ち着きを取り戻し、ブレスレットに手を添えた。
-まどかは男を衛兵に引渡した。
雇い主の見当はつくが、確かな証拠はなにもない。ただ一つ言えるのは、これで終わりでは無い、ということ。相手はメグミの顔を知ってる。水晶の存在も。その利用価値も。今回の失敗で、水晶だけを手に入れることは出来ないと認識したかもしれない。そうなると、次は必ずメグミ自身が狙われる……メグミのそばを離れてはいけない。まどかはそう思った。
まどかとメグミは、ギルドにある宿泊施設に泊まることにした。食堂も併設されているし、何より周りはほとんど冒険者だ。昼間のまどかの威圧を見た冒険者達は、女の子だからと下心で近寄るような真似はしない。稀にニヤニヤして立ち上がる者も居たが、仲間に引き止められ、諦めるのだった。
「大きい声じゃ言えないけど、やっぱりジョーカーのご飯のが数倍美味しいよね……」
「ホント。ジョーカーさんのご飯二週間も食べれないなんて、痩せちゃうかもw」
二人でクスクス笑っている所に、空気を読まないギルマスが来た。
「楽しんでるかい!子猫ちゃん達!これは僕からのプレゼントだよー!」
ギルマスが小さな箱を渡す。
「おっとー!中身は部屋に帰ってゆっくり見てね!なんなら僕も、部屋に行ってあげるよー!」
「「結構です。」」
「冷たいなぁー!まぁそんなところも嫌いじゃない!あと、部屋に着替えも用意しといたよー!安心して!受け付けのハニーが用意したヤツだから!」
「もういいですか?ご飯冷めちゃうんで……」
「はっはー!これは失礼!ごゆっくりー!」
ギルマスはくるくると舞うように去っていった。
「やれやれ……サッサと食べて部屋に戻ろうか……」
「そだね……」
呆れた雰囲気の中、カチャカチャと食器の音以外聞こえない食堂で、二人は早々に食事を済ませ、部屋へと戻って行った。
部屋にはベッドが二つ、間に文机と照明、壁にはハンガーに掛けられた、フード付きのローブが二つ、同じデザインの物があった。
「そういうことか!ということは、この箱は……」
まどかがプレゼントの箱を開けると、メグミの水晶と同じデザインのネックレスと、小さく畳んだメモが入っていた。