B4-2
孤児院の食堂。
ハンスの旅立ちを祝って、壮行会を開くことになった。子供達にとってはお別れ会だろう、どことなく寂しげだが、ハンスに悲しい顔を見せれない!と、笑顔を作っていた。
「ハンス坊、よかったわね。」
「「「院長先生!」」」
そこに入って来たのはクレア。クレアは、孤児院の経営者だった。もっぱら町民の善意で、野菜や穀物の寄付が集まるが、教育の面ではお金がかかる。その支援をギルドが行っているのだ。ギルドと町が良い関係にあるのが手に取るようにわかった。
みんなでハンスを囲み、水で乾杯した。小さな子供達の面倒は、年上の子供達がみる。人手の足りない孤児院では、ごく自然な事のようだ。ハンスも子供達の面倒をみる。慕われる理由は、こういう所なんだろう……
「ハンス坊はね、手が付けられないやんちゃだったのよ……」
クレアがハンスの少年時代を語る。ハンスは赤面したり、怒ったり、冷や汗をかいたり忙しかった。
ハンスは12歳くらいの時、一度孤児院を出た。しかし子供に出来る仕事もなく、盗みをはたらく事で生活していた。初めは店先の食べ物をくすねるくらいだったが、次第にエスカレートして、14歳になる頃には、スリや置き引き、空き巣や詐欺紛いのこともした。
ある日、市場でスリをはたらいた時、冒険者に取り押さえられた。逃げ足には自信があったハンスだが、よそ見をした間に近づいた荷車を避けきれず、ぶつかって倒れた所を抑えられた。
ハンスはギルドに連れて行かれ、クレアの執務室に入れられる。クレアは、悲しい目でハンスを見つめ、ハンスを抱きしめた。
「ごめんよハンス坊、もっとちゃんと見ていてあげられたら……」
それからハンスは、持ち前の素早さと観察眼を買われて冒険者になった。迷惑かけた町の人の為に、一生懸命働こう!やがてその思いと仕事ぶりを 町の人たちは受け入れ、認められたのだった。
クレアの話しが一段落ついた時、少年がハンスの所にきた。
「ハンス兄ちゃん、後のことはオレに任せてよ!」
「お前もいっちょ前のこと言うようになったな!よし、俺の使ってたナイフ、やるよ。」
「え?いいの、兄ちゃん!やったー!」
「ただし!いいか、ナイフってのは、ただ物を切る道具じゃない。使い方を間違えれば、人の命だって奪う。だがそれはナイフのせいじゃない。使うヤツの責任だ。わかるか?」
「うん。わかるよ!兄ちゃん!」
「ん。俺がこのナイフをやるってことは、お前なら間違った使い方をしない男だと認めたからだ。いいな、今日襲ってきたヤツみたいな使い方、絶対するなよ!」
「わかった。男と男の約束だ!」
「おぅ!」
ハンスは少年と拳を合わせ、いい笑顔を見せた。ちょっと胸熱じゃないか!それを見て、みんな笑顔になった。
「いい男じゃない。」
「え!ま、まどか様!今なんて……」
「ハンスじゃないよ。そっちの少年。孤児院のこと、任せたよ!」
「おー!お姉ちゃん、ハンス兄ちゃんのことを、任せたよ!」
「あぁ、死なせるような真似はしないよ。」
「……そうじゃないんだよなぁ……まぁいいや!お姉ちゃん、ハンス兄ちゃんより強そうだし。(ハンス兄ちゃん、尻に敷かれるな。こりゃ……)」