B2-4
メグミは心を解放した。ティンクはメグミに語りかける……
『メグミ、あたしの本当の姿は、風の精霊なの。風の精霊、シルフ。』
『うぅん、ティンクはティンクだよ。どんな姿になっても。私の友達。』
『そっか。うん、ずっと友達。ずっと一緒。』
『うん!』
ティンクとメグミは重なり合うように、一つの光の繭になる。やがて羽化するように、中から少女の姿の光が立ち上り、ゆっくりと四枚の羽根を広げる。手を胸の前で組み、唄うように澄んだ声を出した。
「ソニックブレード!」
シルフは一つ羽ばたくと、風の刃が兵士達を斬り裂いた!
「あれは、シルフ!」
「左様でございましたか。ティンク様はシルフ様だったのですね。」
『シ、ル、フ、?』
イフリートは声なき声を出した。封印が解けかかってるのか?
「何をしてるイフリート!森を焼き払ってしまえ!」
イフリートは森に向い、掌に火球を作り出すと、森へと放った!
『ダメ!』
シルフは竜巻を起こし、火球を空へ巻き上げる。上空高く巻き上げられた火球は、爆発し、空を赤く染める。太陽が近づいたかのような灼熱で、真夏の直射日光のように肌がひりつく。
「があぁぁ!」
イフリートは両手を上にし、直径2m程の火球を作る。
『そんな、目を覚ましてイフリート!』
イフリートはその大火球を森へ投げた!シルフは森を背に風の障壁を張り、大火球を受け止める。
『くっ!障壁が……もたない……』
大火球は障壁をミシミシと破り、シルフに直撃する。それでもシルフは、羽根を焦がしながら大火球を止めている……
「待っててシルフ!」
まどかは大火球の下に潜り込む。
「炎陣反転!アイスバースト!」
まどかは拳に冷気を纏わせ、大火球を下から打ち上げた!大火球は大気圏に突入し、大爆発を起こす!大地は震え、落雷のような轟音が響き渡る。
シルフはメグミの身体を離れ、消え入りそうな姿でイフリートに抱き着き囁いた。
『帰ろう。精霊界へ。』
シルフとイフリートは、光の粒子となり、森の中へ消えて行った……
「馬鹿な!馬鹿な馬鹿な馬鹿な!」
男は、光を失った魔石を叩きつけると、まどかとメグミを睨む。力を使い果たしたメグミをジョーカーに預けると、まどかはゆっくりと振り向き、男を睨み返す。
「馬鹿はお前だ!手加減は出来ない、死ぬ気でこい!」
「舐めるな小娘ぇ!」
男は剣を水平に構え、全力の突きを放つ。まどかは剣線を見切り、横から拳で剣を弾くと、そのまま腕を畳んで男の顔面に肘を打ち込んだ!
「ふべっ!」
男は顔を支点に回転するように足を跳ねあげ、仰向けのまま地面に落ちた。
「そんな突きが当るか!」
顔の陥没した男は、そのまま気を失った。僅かに残った兵士は、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「まどか様ー!」
ハンスが冒険者を連れて走って来る。
「ここは任せていい?」
「わかりました!」
まどかは森から少し距離を置き、基地を作ると、ジョーカーと共にメグミを運んだ。
「……ティンク……行かないで……」
魘されるメグミの汗を拭き、まどかは丸一日付き添った。ジョーカーは時折枕元の水を替え、スープを火にかけていた……