B2-3
「よし、では第二段階に入ろう。」
黒いローブの男は、森の入口にいた。公爵が目論む計画……それは、精霊界の支配。その足がかりとして、精霊界への入口を確保しようというのである。イフリートを従え、結界と封印で守られた精霊界への門を解放する為に、森を結界ごと焼き払って門を出現させるつもりだ。後は待機させてある兵士達により、門を制圧し、確保する手筈である。
「そろそろ行くか……」
男が懐に手を入れ、森へと歩き出した瞬間、
「一人でこの森に入ろうなんて、どう考えても不審者だね。」
「誰だ!」
「それはこっちのセリフです。」
「!お前は!生きていたのか!」
「私の姿にその反応をするとは、やはりジーニアスを追っていた人達なんですね!」
「ということは、良からぬ計画を企む不届き者ということでございますな。」
「聞きたいことが山ほどある。今なら一発殴るだけで勘弁してやる。大人しく魔石を渡せ!」
「ふん!小娘に何が出来る!やれるもんならやってみな!」
男は魔石を取り出し、天に掲げる。その時、
「頂きー!」
影から飛び出したティンクが、男の魔石を奪った!
「詰みだよ。それでも抵抗するかい?」
「調子に乗るな!全隊姿を現せ!国敵を殲滅せよ!」
そう叫ぶと、男も剣を抜き構える。周りには100を超える兵士、一瞬で取り囲まれた。ってか、国敵はそっちだろ……
「やれ!」
その号令で兵士達が切り込んで来た。まどか達は迎え撃つ!勢い込んでくる兵士達の足元に、高さ50cm程の土壁を作る。兵士達は足をかけ、倒れた所に後ろの兵士が躓き倒れて折り重なる。
「邪魔。」
「ぐぇっ……」
倒れた兵士を踏み台に、まどかは跳躍した。
「雹弾!」
拳程の氷が、兵士の一団に降り注ぐ。
「ローズウィップ!」
メグミの樹木魔術で生み出された茨が、兵士達を打擲する。
「痛覚倍化。」
ジョーカーの術で倍化された痛みに、兵士達は悶え苦しむ。うーん、えげつない……
ティンクは、魔石の封印を解こうと、術の無効化を詠唱していた。傷の痛みに顔を歪め、一瞬目をつぶった時、
「見つけたぞ!羽虫め!」
ティンクは魔石ごと鷲掴みにされた。
「蹴散らしてやる!いでよ!イフリート!」
魔石から紅いオーラが立ち上る。燃え盛る炎のような髪を振り乱し、褐色の巨人が咆哮を放つ!
「ウォォーーッ!!」
空気が肌を刺すように振動する。男はティンクを魔石から剥がし、地面に叩きつけ魔石を懐にしまう。
「ティンク!」
メグミはティンクを両手ですくい上げ、跳躍して戦線を離脱すると、そっと寝かせてポーションを振りかけた。
「うっ……うぅ……」
「ティンク!」
「メグミ……ごめん……あたし、ドジばっかり……」
「ティンクは頑張ったよ。少し休んで。」
ティンクはメグミの指を掴み、フラフラと立ち上がって言った。
「メグミ、力を貸して。イフリートを止めないと……あたしに、メグミの身体を貸して。」
「でも、そんなことしたら、ティンクは……」
「大丈夫、なんとかなるよ……今イフリートを止められるのは、あたししかいないから!」
ティンクの決意を目の当たりにして、メグミは言った。
「私達でしょ!二人で止めよう!」