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「くっ!まさかヤツら、壁を壊したな!」
「いかがなさいますか、まどかお嬢様。」
「まどか、やっぱり私達で止めないと……」
「そうだな。MJ2、出るよ!」
まどか達は基地を出ると入口を塞いだ。これでゴブリンの侵入を防げるだろう。
メグミは樹木魔術で櫓を作り、その上に立つ。洞窟の入口が狙える位置だ。まどかは洞窟の前に巨大な穴を掘り、余った大量の土で囲うように壁を作る。穴を水魔術で満タンにして、
「結構マナ使ったな……ジョーカー、頼む。」
「かしこまりました。」
まどかが作った人口池にジョーカーが降り立つと、死毒魔術を掛ける。池の側面にはあらかじめ毒の結界を張ったので、地中に染みでる事は無いだろう。毒の沼完成だ。後は這い出て来たヤツらをメグミが撃つ。
ここに来てまどかが疑問に思う。ジョーカーは、精神、毒の魔術が使える。それはつまり、精神支配や毒による攻撃に耐性があるということ。ではなぜ、男めしの睡眠薬で眠ったのか?
ジョーカーは答える。
「お嬢様方に毒を盛るなどという不届き者を 根絶やしにしてしまおうと思いまして、潜入のため、寝たフリをしておりました。」
おいおい……連れ去られ無かったかもしれないって事じゃん!
「わたくしも反省致しました。わたくしがお出しする物以外をお嬢様方がお召し上がりになる場合は、お毒見の必要があると。」
そこじゃねぇよ!いや、まぁ、うちらも無防備過ぎたのは反省かもな……
「私達も、注意するように心掛けるよ。」
「お願いいたします。」
『まどか、来るよ!』
「よし!休憩終わり。」
ゴブリンの洪水が溢れ出す。毒沼の水が壁ギリギリまで飛沫を上げる。やがて沼の表面は、ゴブリンの死骸で埋め尽くされる。あるものは溺れ、あるものは死毒によって……
「うーん、想像以上だ……」
「うん。凄いね!」
この時、メグミはまどかの言葉を取り違えた。まどかは想像以上に効果があった!と言ったのだとメグミは思った。だがまどかが言った意味は……
「想像以上の数だ!このままでは沼は埋まり、死骸を踏み台にゴブリンが壁を越えて来る!」
「え?え!」
この意味の取り違いが、メグミの油断を誘った。
「メグミ!一旦屋敷まで戻るよ!櫓を降りて!」
そう言って走り出すまどか。山道の右は崖、左は、山肌だ。基地は山肌の窪みに作ったので大丈夫だろう。ゴブリンの迎撃には、屋敷裏の山道出口付近しかない。それ以上下がると、町に拡散して迎撃どころではない!
メグミは一瞬理解が遅れた。慌てて櫓を降りようとする。梯子状に編み込んだ蔦に足を掛けた時、ゴブリンの津波が櫓に押し寄せた。スローモーションのように倒れて行く櫓。
「まどか……ごめん……」
蔦にしがみついたまま、為す術もないメグミ。ゴブリンの奔流に飲み込まれ、姿を消す櫓……
……目を開ける。ふわふわと空に浮かんでいる感覚。足下にはゴブリンの川が流れている。崖下の谷へ滝のように流れ落ちるものもいる。その景色をただ呆然と見つめて……
(私……死んじゃったの?)
耳元で声が聞こえた……
「お待たせ致しました、メグミお嬢様。」