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「「「ありがとうございます!」」」
スープを受け取り、皆口々に礼を言う。足りない食器は、まどかの土魔術で形を作り、火魔術で焼き固めて作った。使い捨てくらいにはなるだろう。
「みんな、2日くらいすればギルドから応援が来る。その時にここで起きた事を全て話して欲しい。それまでここで避難しててくれ。」
人々は安堵の表情を浮かべ、涙しながらスープを啜った。
ようやく落ち着いた頃、
『まどか大変!ジャラジャラ男爵が大勢連れて来てるよ!』
『妖精さん、悪いけどそのまま監視してくれる?』
『わかった。』
「みんな、男爵が来たらしい。落ち着いて、ここを動かないで。」
山道の途中。男爵がズカズカと歩いている。その後ろにはソーアと取り巻きの荒くれ者達。
「女共に逃げられ、今度はゴブリンだと?ソーア、何とかしろ!」
「男爵様、この町からは逃げられるものではありません。女共もじき捕まるでしょう。ゴブリン騒ぎも誤報やも知れません。最近冒険者が嗅ぎ回っているようですからな。」
「その冒険者とやらは捕らえたのか?」
「はい。何やら魔道具で話をしていたようですが、問題ないでしょう。只今拷問をかけております。」
「ふん!おおかた騒ぎを起こして、魔晶石を掠め取ろうとでもしたのであろう。あさましい。現にゴブリンなど居ないではないか。」
「左様でございますな。」
鉱山にたどり着く男爵達。ゴロツキが中を調べる。
「ソーア様、奴隷共がいません!見張りのヤツらも!」
「もっと調べろ!奥はどうなってる!」
「壁です!壁で塞がってます!」
「そうか、ヤツら騒ぎを起こして奴隷共を逃がしたな……おい!壁の向こうに見張りの奴らがいるかもしれん……」
「これでは魔晶石が取れぬでは無いか!即刻壊してしまえ!」
「男爵様のご命令だ。お前達、壁を壊せ!」
「「「へい!」」」
ゴロツキ達は、武器やその辺にあった道具で、力任せに壁を壊し始めた。ツルハシを突き刺し、大槌を叩きつけ、壁を削り続ける。一際巨躯の男が、巨大なメイスを叩きつけた時、
「ビキッ!バキバキっ!ゴゴゴゴ……」
壁は亀裂を広げ、地響きと共に崩れ出す。奥から圧力が掛かり、弾けるように壁が吹き飛んだ。
「やりましたぜ!ソーアさ……フゴッ!」
ゴブリンの雪崩に飲み込まれ、数人のゴロツキが押し潰された。慌てて武器を奮う。力自慢のならず者も、ゴブリンの圧力に押されている。
「何をしておる!早く片付けろ!ソーア!なんとかしろ!」
「男爵様!お逃げ下さい!」
男爵は従者に引かれ、逃げ出した。時折、
「吾輩の鉱山が、吾輩の鉱山が……」
と呻きながら、ソーアの屋敷へと逃げ込んだ。
力任せの攻撃は、長くは続けられない。次第に飲み込まれて行くならず者達。巨大メイスを奮う大男の後ろに、隠れるようにしていたソーアだが、頼みの大男もゴブリンに飛び付かれ、足にしがみつかれ、ついに倒れ込んだ。ソーアは大男の下敷きになり、呆気なく命を落とした。
それを見た残りのならず者達も、逃げる間もなくゴブリンの大波に飲み込まれるのだった。