J4-2
まどかは頬杖をついたまま、片手で攻撃を払い、受け流す。ジョーカーは併設されたカフェで飲み物を受け取ると、左手にトレーを乗せたまま最小限の動きで剣や斧をかわした。
呆気に取られているメグミの背後から男が近づく……
「お、姉ちゃん、いい弓持ってんじゃねぇか。よこせ!」
「ジーナに触らないで!」
顔を伏せ、両手を突き出したメグミの掌底を鳩尾にくらい、男は五メートル程吹き飛んで椅子やテーブルを撒き散らした。そこにジョーカーが戻って来て、テーブルに上半身をうつ伏せに気を失っている男を 埃でも取るように掴んで捨て、ポケットのハンカチでサッと拭くと飲み物を並べた。
五分程で辺りは、男達のゼーゼーと喘ぐような呼吸と、まどか達の談笑の声だけしか聞こえなくなった。結局まどかは椅子に座ったまま、一歩も動くことは無かった。
「もうこの辺りでヤメにしませんか?」
そう言ってジョーカーは、散らばった椅子やテーブルを元の位置に戻してゆく。冒険者達はジョーカーが近づいて来る度、情けない声を漏らし後退るのだった。椅子やテーブルを戻し終えると、
「お騒がせいたしました、どうぞおかけ下さい。」
と、胸に手を当て、流麗に一礼をした。この言葉の裏には、
「大人しく座ってろ!雑魚共。」
という意思が込められていると冒険者達は感じて身震いし、皆一様に背筋を伸ばして座り、なるべく目を合わさないようにした。
「とりあえず魔物から剥ぎ取った素材なんかを売って、必要な物を買いに行こうか?メグミとジョーカーも来るだろ?」
「でしたらわたくしは、お嬢様方にお出しする茶葉や茶器、食材などを買い求めたいと思います。ここの茶は香りも申し分ないので、良い茶葉が手に入れられると思いますので。後はそれらを収納するアイテムなどあれば良いのですが……」
「あ、あの、お買い物が済んだら、ジョーカーさんに、お願いが、あるんですけど……」
「かしこまりましたメグミお嬢様。わたくしで宜しければ、何なりとお申し付けください。」
話が一段落ついた頃、入口の扉が開き、一人の女性が入ってきた。三十代前半くらいの見た目、日に焼けた健康的な肌、引き締まった体型に豊満な胸、髪は赤く少しウエーブが掛かっていて、後ろで一つに結んである。勝気そうな目でホールを見回して……
「なんだい?今日はヤケに静かじゃないか?」
「ぎ、ギルマス!」
「おや?見かけない顔だねぇ……しかも揃いも揃って明らかに強い。冒険者かい?」
「はじめまして。ツインホークスのまどかと言います。帝都に行く途中、町に立ち寄らせてもらいました。今日はそのご挨拶に。」
「へえ、ギルんとこの。このバカ共に絡まれなかったかい?ここんとこ大した依頼も無いから、弛んでんのさ。コイツらまだまだ相手の力量を見る目が無いからねぇ……節穴ってヤツ?何かあったら直接私に言っとくれ。あぁ、私はカスリン。一応このギルドのマスターだ。」
カスリンは握手をして奥の部屋へ入って行った。ふぅ……という冒険者達の溜め息と同時に、ホール内の緊張感が少し緩んだ。そしてジョーカーを見て、また背筋を伸ばすのだった。