J3-4
話は少し遡る。
セバス、魔界より地上を見ていた。
まぁ、見る。と言うよりは、思念を集中させて感じる事が出来る。というのが正しいかもしれないが。
ふむ。先程よりエルフ、いえハーフエルフでしょうか、銀髪の少女が竜種と戦っていらっしゃいます。絶対的不利な状況にも拘わらず、その姿は凛として、まるで名工が鍛えし業物の剣、鋭く、それでいて美しい。
川に投げ出され、竜に捕まったようです。惜しいですね。若くして命を落とすとは。まぁエルフ種は長命なので、本当に若いのかはわかりませんが……
おや?なんでしょう、黒髪のお嬢さん、人間に見えますが、本当に人種なのでしょうか?いやー、お強い!お美しい!面影がなんとなく、以前お仕えしていたお嬢様に似ていますね。
魔界の者かとも思いましたが、明らかに人種、もしくは亜人でしょう。勝気で男勝り、多少粗野な部分もございますが、困っている者を放っておけない、お優しい心根の方のようですね。エルフのお嬢さんも、どうやら命拾いしたようで、ようごさいました。
それにしても、人の身で在りながらあの強さ!実に興味深い。あの華奢な身体のどこにあんな力があるのか、なんと!アンデッドの召喚まで出来るのですか!実に多才な方ですね!心惹かれますねぇ……あのような方にご奉公出来たら、わたくしの執事スキル、余すところなく発揮出来そうです!
どれくらいぶりでしょうか、こんなに興奮したのは。丁度いい具合に、魔狼や竜種の死骸が出来ましたね。アレを使って、受肉というのを試してみましょうか……
「だーいじょうぶだって!コイツなかなか使えそうだし、連れて行こうよー!なんかあったらあたしがシメるから……」
いや、無理だろ。このおじさん、悪魔だ。しかも、あんだけあった魔狼達の死骸が一欠片も残っていない。まぁ、そのおかけで他の魔物が寄って来なかったのかもしれないが……明らかにデーモンの上位種だ。
妖精さんが適う相手じゃない。だが悪意や禍々しいオーラもない。口振りからして、元人間の転生者のようだが。他で暴れられても困るし、監視の意味でも同行させた方がいいのか?ふむ……
「メグミ、いいか?」
「まどか、ティンクが勝手に、ごめんなさい!」
「まどかお嬢様、有難うございます!メグミお嬢様、ティンク様、よろしくお願いいたします。」
「んで?あんた、名前は?」
「魔物や魔族というのは、本来名を持たぬものです。元の世界での名はございますが、今はこちらの習慣に則って名を捨てました。宜しければ、わたくしに名を下さいますか?」
うーん、名前ねぇ……コイツの強さ……敵になろうが味方になろうが、厄介だ。使いようによっちゃあ、切り札にもなるだろう。切り札……トランプ……違うな……ジョーカー……
「ジョーカーなんて、どうだ?」
「おぉ!なんということでしょう!その名を聞いた瞬間、力が漲ってまいりました!今日からわたくし、ジョーカーと名乗らせて頂きます!何なりとお申し付けください、まどかお嬢様。」
ジョーカーは恭しくその場で跪き、右手を胸に当て一礼した。どうやら魔族の上位個体というのは、`名を持つ'事で力が倍増するらしい。一種の契約のようなものだろう。
「ちょっとちょっと!なんでまどかなの?あたしが子分にしてやるって言ったじゃん!」
「ティンク様、わたくしはまどかお嬢様に名を付けて頂きました。故にわたくしは、まどかお嬢様の下僕ということになるのです。」
「えー!ちょっと、却下!やり直し!」
「出来ません。」
「もう、諦めなさい、ティンク。」
「だってだって、メグミ!あたしの子分がぁ……」
「もう無理よ。」
「ここを抜けると町がある。まずはそこへ行こう。」