J2-4
メグミは意識を取り戻し、目を開ける。まだ川に浮かんでいるのかと思ったが、周りは石の壁。いつの間にか革鎧を脱ぎ、寝かされているらしい。身体は重く、頭はクラクラする。なんとか寝返りを打つと、こちらに背を向けて暖炉に薪をくべる人影があった。
不思議な女性だ。メグミの目に映るのは、長い黒髪、元の世界で着ていた制服のようなものを着ている。ここは日本?でも自分の耳を触ってみると、やはり穂長のエルフ種の耳。枕元には見覚えのあるエルフィンボウ。そうだ、私、川で溺れて……
「けほっ、けほっ……」
まだ肺に水が入っているのか、息を吸うと咳き込んでしまう。
「ん?気が付いた?」
黒髪の女性が振り返る。あれ?この子……テレビで見たことあるかも……でも、まさか、ね……メグミは身体を起こそうとして、また咳き込んでしまった。
「ほらほら、まだ寝てなって。」
「あ、あの、ティンクは?」
「てぃんく?あぁ、あの妖精さんか、外で焼いてる肉見てるよ。」
「……そう、無事なのね、良かった……貴女が助けてくれたの?」
「まぁ、助けたっていうか、晩飯探してたらでっけートカゲがいたからさ、ドカーンとやったらそいつの足元にアンタが倒れてた。そしたら妖精さんがアワワアワワしながら飛んで来たからさ、今日はここを宿にしたってわけ。」
「ご迷惑かけて、すいません。ありがとうございます。」
「ほっとけないじゃんよ!妖精とか、エルフとか、初めて見たし、倒れてるし、うるさいし……」
「……ほんとにすいません……」
多分、ティンクが迷惑かけたんだろう。でもいい人そうでよかった。やっぱり、人間みんなが悪い訳じゃない……
「あの、お名前、お伺いしていいですか?」
「ん?あぁ、私はまどか。冒険者ギルド、ツインホークスのメンバーだ。」
「まどか!やっぱり!あ、あの、こんなこと聞いて、変なヤツと思われるかもしれませんが、あの、ま、まどかさんって、その……日本人、ですよね?」
「!なぜ知ってる?まさか、いやエルフだし……」
「わ、私、見た目こんなですけど、めぐみ、森田めぐみって言います。都立女子高の3年生なんです!いや、だったんです!」
「え!日本人なのか?そうか、そうか……」
まどかは思う。この世界で日本人に会ったのは、正直嬉しい。だがこのまどかは仮の姿で、中身は初老のおっさんです。てへぺろ……なんて、言っていいものか?相手は女子高生だし、キモい!とか言われないだろうか?いくら溺れてたから仕方がないとはいえ、女子高生の着てる服(革鎧だけど)を中身おっさんが脱がせたわけだし……まずい、ここでのカミングアウトは、絶対不味い!
「よ、よろしく、ね、めぐみ。」
「よろしくお願いします。こちらでは、メグミ=ジーニアスといいます。」
「あ、あぁ、メグミ=ジーニアスね。あ、そろそろ肉、焼けたかもな。メグミ、食べれる?」
それから、こんがり焼けたレッサーワイバーンを齧りながら、メグミはこれまでの事を話した。ティンクは「心配したんだからー!」と半泣きでポカポカ殴っていたが、メグミが無事だとわかると、会話に割って入ってメグミの自慢話をまどかに話す。まるで自分の手柄のように……
sideJ後篇へと続きます。