J2-1
森の外れ、ここを一歩出れば人間の世界だ。
「先ずは近くの町へ行こうかな。」
「まてまてまてまて、待ったぁ!」
相変わらずの騒がしさ、あの妖精しか居ないな……
「まさか、あたしを置いていく気じゃないでしょうね?」
「……ティンク、あなた森を出られるの?エリスに怒られない?」
「へっへーん!アンタを守るのがあたしの役目だって言ったでしょ?森の外だって、お使いに行ったことあるんだから!アンタより詳しいわよ!」
「私は元人間だから、人間の世界がどんな所か、少しは知ってるわよ。トレント達より怖い、強い、悪ーい奴だって居るかもよ?」
「え、そ、そうなのか?」
ティンクは、散々トレント達の間を飛び回り、メグミの自慢をしたもんだから、トレントの反感をかったらしい。今メグミに出て行かれると、その反動が必ず来る。フルボッコで羽根を毟られる未来しか見えないのだった。
ティンクは、考える。例えトレントを上回る邪悪な強者が現れても、メグミの傍に居れば何とかなるんじゃね?最悪メグミが戦ってる間に逃げればなんとかなるかも?
森に残ってトレントにフルボッコよりは、遥かにマシじゃね?エリス様には……後で謝ろう。なんならメグミに連れ去られた……ってパターンも……とにかく、なんとしてもメグミについて行かなければ……実に浅い、自分勝手な考えである。トレントのフルボッコを想像し、ぶるりと震えると、
「……あ、いや、あの、あたしにはメグミの監視とか、護衛とか、その、色々……お願い!連れてって!メグミ!メグミ様!連れてってください!」
「……ふぅ……怖い目に遭っても知らないよ?」
「大丈夫だってー。メグミも居るし、あたしだって絶対役に立つから!そのうちあたしに感謝する日が来るわよ!」
「……もう、勝手にしたら?」
メグミは、押し切られた。まぁ、そのうち飽きて帰るだろう……と、深く考えないようにした。
「あたしがついてるから、大船に乗ったつもりでいていいわよ!」
「ティンク、船見たことあるの?」
「な、ないけど……ものの例えでしょ!」
こうして、ティンクの同行が強引に決まったのだった。
「……あ、そうだ、町に行くけど、町にいる間はなるべく姿を見せちゃダメだよ。」
「え?なんで?」
「多分、人間から見たら、ティンクは珍しいと思うのよ。悪い人間に捕まって、売り飛ばされるかもしれないでしょ?」
「そっかぁー、あたし程の美貌、そりゃ人間には神秘的でしょうね!手に入れたくなるのも頷けるわ。でも独り占めはダメだよー!だってあたしは、みーんなのアイドル!だから……」
「ま・も・れ・る?約束。」
「わ、わかったわ。でもちょっとくらい、あたしも人間の世界、見てみたい……」
「私が町を調べて、大丈夫そうなら、いいわよ。」
「よし!メグミ、早く調べて来て!大至急!急いで!」
「まだどこに町があるか分からないわよ……とりあえず、道を探しましょ。人間が行き来する所には、必ず道が出来ると思うのよ。その道を辿れば、町に行けるんじゃない?」
「アンタ冴えてるじゃない!道よ。道を探すわよ!グズグズしないでメグミ!」
「はいはい……」
二人の旅は、始まったばかり。これからも度々ティンクに振り回されるんだろうな……なんとなく覚悟を決めるメグミだった。
「急ぎなさいよー!」
やれやれ……