side M1-1
「おい!女、ちょっと来いや。」
「やめてください!何するんですか!」
「何するっておめぇ、ナニだよ。ちょっと相手してくれりゃいいからよ。金なら払うぜ。うっひゃっひゃっひゃっ……」
(あー、外が騒がしい。これさっきの村人Aが絡まれて、俺が助けるパターンのやつ?めんどくせぇ……)
(いや待てよ、別に俺じゃなくても良くね?なんか騎士とか冒険者風のヤツとか、その薄汚れた手を離せ!とか言って颯爽と登場するパターンだよな?)
「だれか、だれか助けてー!」
「呼んだところで、誰も来やしねーよ!おとなしくしろ!」
「いやーっ!」
(ほら、そろそろ……)
「……」
(引っ張るなぁ……)
「……」
(え?ホントに誰も来ないの?)
「……」
(いやマズイって。俺の穏やかな生活が……)
「……」
(あー、めんどくせぇ……)
「ちょっと待った!……方がいいと思う。かも?」
「ん?なんか言ったか?ほーぅ、可愛い姉ぇちゃんじゃねぇか。おめぇが相手してくれんのかい?」
(あーあ、出ちゃった……しゃあねぇか……)
「嫌がってるみたいだし、やめときなよ。みっともないぞ?」
「あ゛ァ?」
「まどか!来ちゃダメー!」
「ほぅ。まどかちゃんっていうのか。なかなか威勢がいいが、そんな女を屈服させんのがまたたまんねぇ。売り飛ばしてもいい金になりそうだな……まぁその前に、イイ声で泣きやがれ!」
(あー、雑魚のテンプレだね……ってか村人A、こんな簡単に名前ばらすんじゃねぇよ……変に拗れてお尋ね者的なやつになったらどうすんだよ!)
「一応聞くけどさぁ、黙って帰ってくれたり……しないよね?」
「はぁ?てめぇナメてんのか?ここいらじゃ俺様に逆らうヤツなんかいねぇんだよ。てめぇも黙って来やがれ!」
「あー、そうですか……(なんかこっち飛ばされて、色々改造されたんだよなぁ俺。かいなぢから高いって言われたし)まだこちらの世界に慣れてないんで、試しにちょっと殴ってみていいですか?」
「上等だ小娘!俺様に逆らったヤツがどうなるか、教えてやんよ」
ナイフを出す俺様さん。あ、コイツもなんか名乗ってたけど忘れた……まぁいいだろ、興味ないし
「切り刻んでやる!」
「はぁ……んじゃ、殴るね。痛かったらゴメンね。せーの、ふんっ!」
「どパーンっ!!」
圧縮された空気が破裂するような音。細くしなやかな指を痛めないように、軽いジャブ程度のパンチ。それがソニックブームを起こし、俺様さんとの間に、衝撃波を生んでしまった。
-辰巳は元の世界では子供の時、所謂いじめられっ子だった。
それに気付いた父親が、
「男だったら、やられっぱなしでナメられてんじゃねぇ!」
という理由で、半ば無理矢理空手を習わされた。
(子供のケンカに空手を使うのはどうなん?)
と、子供ながらも冷静に思ってはいたが、反論せず自分がやりさえすれば、難を逃れられる……という、いじめられっ子特有のスルースキルが成長著しい少年は、言われるがまま通うのだった。
黒帯手前の、茶帯に昇段する頃には、いじめられる事は無くなったが、人に暴力を奮う事に抵抗があった少年は、通う理由も無くなったので、空手を辞めてしまった。
以来、大人になるまで(大人になっても)、ゲームとアイドル、時々グルメに没頭するヲタク道を極めたのだ。
まさかここに来て、昔取ったなんとやら……を発揮することになろうとは、辰巳本人も思わなかっただろう。
他の作家さんと、多少なりとも毛色の違うものになればいいなぁ……
10/12 改稿