J1-2
毎日連載継続中
エリスの話は続く。
「ここからは私の憶測です。ですがほぼ間違いないでしょう。おそらくジーニアスは、魂魄に直接ダメージを受けたのでしょう。長命なエルフの血を引く彼女が、外傷もなく倒れるなど、有り得ないことなのです。多分、秘術や禁呪などを使われたのでしょう。そして魂魄が肉体から剥がされる時に、貴女の世界に干渉出来たのだと思います。」
めぐみは、黙って話しを聞いていた。現実離れした話しだが、エリスの言葉が理解出来た。夢を見ている訳でもない、今この状況が現実なのだと。エリスの言葉には、説得力あった。
「そしてこの事はめぐみ、貴女にとっては絶望でもあり、希望でもある。私にとってもね。貴女が話してくれた事、貴女の魂魄がここにある事、それはつまり……」
エリスは深く目を瞑った。潤んだ目を開けると言葉を続けた。
「めぐみもジーニアスも……死を迎えた。貴女の肉体は滅び、ジーニアスの魂魄も滅んだ。そしてジーニアスの抜け殻に貴女の魂魄が宿った……そう考えます。」
その時、めぐみと並べて横たえてあった弓が光る。エリスが何かを感じ、弓を抱きしめる。
「ジーニアス?ジーニアスなの?」
弓が発する光りは、エリスに語りかけた。耳に聞こえる声ではなく、エリスの心に直接響くように……
「あぁ、ジーニアス……」
「生きてるんですか?」
「……めぐみ、ジーニアスはハーフエルフだったの。純粋な人間だったら、魂魄は輪廻の輪に戻っていたかもしれない。だけど半分残るエルフの血によって、魂の残渣がこの弓に宿っているわ。輪廻の輪に戻り、転生することをせず、エルフィンボウとして戦うことを選択したのね……」
ジーニアスがめぐみに託そうとした意志、共に戦うことを選択した魂、めぐみの心は揺れ動いていた。
「めぐみ、貴女にお願いがあります。私は、人種全てが敵対すべき悪だとは思っていません。精霊達の中には、警戒を強めて人種に攻撃的な者もいるでしょうが……元々人種のめぐみに、こんなことを願うべきでは無いかもしれませんが、ジーニアスが魂魄を見極め、意志を託した貴女を私も信じてみようと思います。ただ貴女にも思う所もあるでしょう。強制は出来ない……そこで先ず、この森の精霊達と触れ合ってみては貰えませんか?そしてこの森に仇なそうとした人間を見てきてくれませんか?」
「……少し、森を見ても、いいですか?」
「構いませんよ。では、案内を付けましょう。ティンク!」
エリスの周りを飛び交っている綿毛のような光りの1つがフワッと揺らぎ、小さな人の姿になった。蜻蛉のような4枚の羽根を忙しなく羽ばたかせ、めぐみを値踏みしている。
「エリス様、コイツ誰ですぅ?姿形はジーニアスのヤツに似てるけど、魂魄は人間だ……」
「ティンク、この方は……メグミ=ジーニアス。めぐみという人種の魂魄を持ち、ジーニアスの身体を持つハーフエルフ。」
「へんなのー」
「あなたはこの方を連れて、森を案内してちょうだい。それから、精霊達が攻撃しないように見張るのですよ。」
「えーっ!精霊達を見張るのはいいけどさー……トレントはムリだよ……あたしには……」
「トレントはユグドラシルが見ています。気を付けて行ってらっしゃい!」