C4-2
突如現れた骸骨の兵士達に、王国兵は武器も投げ捨て逃げ惑う。
魔導師の放つ毒の槍も、骸骨兵には効果がない。王国兵が捨てた武器を拾い、骸骨の兵士達は、国境まで追い立てて行った。
「た、退却!退却だぁ!」
銅鑼が打ち鳴らされ、王国軍が去っていく。それを見た骸骨達は、くるりと方向を変え、帝国側へと移動した。まどかはゴルメスと共に、皇子の元へ急ぐのだった。
まどかはジョーカーに、ゴルメスとの会話を思念リンクしていた。ジョーカーは思う。
(まどかお嬢様は多分、命というものの概念が、我々とは少し違うのでしょうか……お嬢様は常日頃から、わたくしのような下のものにまで、死ぬなよ!と声をかけてくださいます。
お嬢様の心の中では、命というものは、何人のものでも等しく、尊いものなのですね。それがたとえ死人であっても……
もしや、まどかお嬢様は、聖女様なのでしょうか?いやいや、このような気さくな聖女様はおりますまい……)
そこでジョーカーは、考えるのをやめた。まどかはまどか、自分が仕えると決めた主には違いないのだから。
「アレクセイ皇子様、不躾ではございますが、少しお話しよろしいですか。」
ジョーカーは、皇子に耳打ちする。皇子はその話しに頷くと、
「あいわかった。」
と応えた。
-骸骨の兵士達に戦き、帝国の兵士達は、蹲って震えている。徐々に近付いて来る骸骨達に、貴族達も恐怖した。悲鳴をあげるるのを押し殺し、冷や汗を吹き出しながら立っているのがやっとだ。
やがて貴族達の目の前まで迫る骸骨達。すると、整然と隊列を作り、武器を収めて立ち止まる。貴族達は固唾を呑み、硬直して見ている。その間を割って、皇子は前に出た。
「此度の戦、皆の働きにより、我が帝国の勝利である!長きにわたり、我が国に仕えてくれた兵士達よ!その忠義、我は決して忘れぬ!大義であった!」
その時、地平線から朝日が昇った。皇子の言葉を聞いた骸骨達は、オォォ……と唸るような声を上げ、朝日を受けてサラサラと崩れていった。その様子を見ていたエンフィが、楽器を取り出し、目を閉じて心のままに奏でた。
それは鎮魂の調べ。その音色を耳にした皇子や貴族、兵士達も皆、誰からともなく祈りを捧げる。まどか達も例外では無かった。
-それから二日ほど雨が降る。
帝都の復興は、その後始まった。皇城の跡地は、巨大な池になっていた。まどかは池の中央まで飛ぶと、両手を下に翳し、土魔術を唱える。直径5m、高さ20m程の石柱が現れた。
「これでよろしいですか?」
「うむ。色々すまんな。」
アレクセイ皇子の意思により、皇城再建は見送られ、しばらくは元正侯爵の屋敷を没収、仮住まいとし、戒めとして石柱を建て、これを慰霊碑とした。
貴族達はと言うと、アクト公爵はそのまま、次侯爵が正侯爵となり、エンフィが伯爵となった。皇家の血族だが、皇子という扱いを嫌ったエンフィが、街に戻ると言うのを説得して、無理矢理伯爵にしたのだ。後見にケーニッヒ卿が就くということで、納得して貰った。
子爵には、戦争で総指揮官を務めた騎士団長が、最大の功労者であるゴルメスは、男爵になった。
とりあえずの人数合わせのような爵位が、ここに決定した。