C2-3
屋敷の中は埃っぽく、黴臭い。
だが、所々人が歩いたり、何かを引きずった形跡がある。間違いない。ここが潜伏先だろう。
『ジョーカー、何か見える?』
『まどかお嬢様、書棚の奥に空間がございます。そこに人影が一人分。』
『待ち伏せか……メグミ、書棚から蔦を延ばして、人影を縛り付けよう。ジョーカー、距離感をメグミに教えて。』
『メグミお嬢様、書棚のすぐ後ろ、右側に寄っております。』
『わかったわ。』
樹木魔術に絡め取られる潜伏者。そのまま書棚ごと倒れ込む。倒れた衝撃で、頭や胸を強く打ち、気を失っている。
「こいつ……暗部とか言ってた奴か……」
まどかは、違和感を感じる。だがここで躊躇する訳にはいかない。今取り逃がしたら、取り返しのつかない事になる。意を決して書棚の奥を調べると、地下へと繋がる階段があった。
階段を降りると、隠し部屋と呼ぶにはあまりに広い空間があった。おそらく土魔術で部屋を拡げたのだろう。そこに居たのは20人程の人影、そのうちの一人が声を出す。
「やはり来たか。どれ、こんな暗がりでは顔も見えんな。灯りをつけてやろう。」
指を一つ鳴らすと、部屋の壁に等間隔で火が灯る。その顔を見て、まどかは違和感の正体に気付く。
「そうか。そういう事か。まんまと騙されたよ。」
「中々の演技だったろう?」
「あぁ。だけどここに来た時からずっと違和感があったんだ。暗部を操ることが出来る人物、皇子に見聞を拡げるために留学させた皇帝、王国の脅威、貴族の派閥争い、皇子の変貌、魔族の召喚、メルクシティにいた魔導師の目的……
繋がりそうで繋がらない、芯になる思惑が見つからなかった。話してくれるんだろ?ニセ皇子。」
「そうだな。冥土の土産というやつか。よく私が皇子では無いと見破ったな。顔まで変えたというのに……我が別邸へようこそ。」
声の主は、子爵だった。だがその姿は、微笑みを宿した青年。第一皇子その人であった。
「我は帝国統一前の、小国の貴族だった。父は皇帝と内通し、帝国の犬に成り下がった。そんな裏切り者の息子が、どんな仕打ちを受けるかわかるか?耐え難い苦痛とはこの事だ。元の国の者からは批難され、帝国の者からは蔑まれる。父が死に、家を継いだ私は覚悟を決めた。この国の全てを奪ってやると!」
「復讐か……」
「そうだ。それから、我は暗部に入った。戦争が終わった後の暗部など、貴族の監視くらいしか仕事が無かった。我は情報を操作し、貴族を対立させ、暗部を掌握した。顔を変え、皇子になりすまし、魔導研究所を手懐けた。アイツら戦争したがってるのさ。自分達の技を発揮出来る舞台を求めてな。」
「めんどくせぇ……」
「暗部に入り立ての頃、皇子の護衛で王国に行くことになった。そこで魔族召喚を学んだのさ。皇子は危険な力に危機感を抱いてたが、我には魅力的に見えたよ。やっと復讐のチャンスが来た!そう思ったな。そこで我は皇子を殺し、顔型を採り、帝国に戻った。」
「殺したのかっ!」
「後は貴族を誑かし、手駒を増やした。ようやく実行……って時に、思わぬ邪魔が入った。お前だ!」
「皇帝陛下はどうした!」
「もうこの世にはおらぬ、後は邪魔な貴族を根絶やしにするだけだ!」