小さな「目撃者」1-1
「エンフィー、巻き込んでゴメンな。怖くないか?」
「う、うん。ちょっと怖いかな……」
まどかは、震えるエンフィーを優しく抱きしめた。張っていた気が緩み、エンフィーは泣き出した。
「ねぇ……お姉ちゃん、悪い人なの?」
「どうだろうな……エンフィーは、どう思う?」
「僕は……お姉ちゃん好き」
「そっか。私もエンフィー、好きだよ。」
「うん。じゃあ良い人。」
「そう?良かった。でもね、悪いことをしてる人には、私は悪い人に見えるんだ。変だね。」
「そっかぁー。じゃあ、あの貴族様が悪い人なんだね。」
「そうだね。でもね、その貴族様に悪いことさせてる、もっと悪い人がいるの。それを調べてたんだ。」
「ふーん、そっかぁ。」
話してるうちに、エンフィーは落ち着いたらしい。
「お姉ちゃんは、正義の味方?」
「違うかな。私達は冒険者。みんなの味方かな。」
まどか……辰巳の持つ、正義の概念、それはヒーローでは無かった。だいたい戦争なんか起こすヤツらは、必ず正義を口にする。敵対する者にも、自分なりの正義がある訳で、それを理由に人殺しを平気でやる……そんなの正義であるはずが無い!
結局、自分達の利益の為に戦争するのだ。正義なんて、その言い訳に過ぎない……だからまどかは、正義という言葉を否定した。
「とりあえず、みんなが困る事をする人は、やっつけたいって思うよ。」
「凄いや!」
「そう?だからエンフィーも、絶対助ける!」
「うん!」
「さてと、先ずはエンフィーの楽器を取り戻さなきゃ。壊されてなきゃいいけど……」
『あんた達、誰か忘れてなーい?』
突然頭に響く声。この声、聞き覚えがある!メグミの水晶が、淡く光を放つ。
『『ティンク!』』
『覚えてはくれてたみたいね。それにしても、やっぱあんた達、あたしがいなきゃなーんにも出来ないんだから。』
『元気になったのね!』
メグミが水晶を握りしめる。
『まぁね。メグミ、あたしの姿をイメージして。』
メグミは、頭の中でティンクをイメージする。水晶が強く光り、薄く透けたティンクの姿が現れた。
『お待たせー。ってもあんまり時間がないの。その子の道具探すんでしょ?』
『あぁ。頼むよ。』
『まっかせなさーい。』
ティンクはふわりと飛んで、エンフィーの楽器を探す。1分程で戻ってきた。
『あったわよ。あたしが目印付けたから、メグミなら感じれるでしょ。』
『うん。わかる。』
『あと……』
そう言ってティンクは、横で居眠りしているハンスをゲシゲシと蹴った。
「んぁ?なんすか?」
『ハンス!念話リンクして!』
『!な、な、なんなんすか!なんか飛んでるっす!』
『失礼ね!あたし、アンタの先輩よ。』
『ハンス、仲間だ。ティンク。』
『て、てんぐ?』
『アンタすばしっこそうだから、あたしの力、ちょっとだけ分けてあげる。感謝しなさいよね!』
そう言ってティンクは、ハンスの身体に吸い込まれていった。
『あたしの不可視化のスキル、アンタにあげる。んじゃ、帰るから。メグミ、まどか、まったねー!』
その瞬間、ティンクの気配が消えた。相変わらず小うるさい……とりあえず元気になって良かった。まどかはそう思った。