R4-2
オーディション当日。
まどか達四人は、公爵邸の広間にいた。街で噂の踊り子がいる。という情報をメイドから聞き、侯爵自ら呼び寄せた。勿論、情報源はジョーカーなのだが、まどか達との関係を悟られぬよう、接点を匂わせる物は極力排除したかった。
吟遊詩人は、内容が湿っぽい。と不合格。手品師は、目新しいネタが無く、飽きた。と言って不合格。どれも納得のいく芸を披露する者がいなかった。まどか達が次に控えていた時、
「この痴れ者がぁ!」
侯爵の怒鳴り声。玉乗りジャグリングをしていた男が、バランスを崩し転倒、持っていたトマトが、侯爵の足元で潰れ、靴を汚してしまったのだ。杖を振り上げ、うち据えようとしたその時、
「エンフィー、弾いて。」
まどかは立ち上がった。エンフィーはその凛とした姿を見て、静かに目を閉じ、曲のイントロをゆっくりと弾いた。手を止める侯爵、その場にいたエンフィー以外の人間は、皆まどかに視線を向ける。その瞬間、まどかは指をパチン!と一つ鳴らした。
ハンスがハンドルを回す。軽快なリズムが広間に響き渡る。まどかが足でリズムをとる。メグミが手拍子を始める。つられて皆が手拍子をする。高まる心。エンフィーは曲を奏ではじめた。
優雅に、しなやかに、時に力強く、まどかの踊りに目を奪われていく。メグミに手を伸ばし、抱き寄せるように踊る……それは情熱の踊りだった。部屋にいた者達は、曲が終わったにも拘わらず、余韻に浸り恍惚としている。少しの間の後、一斉に拍手をした。
「よい、よいぞ!お前達に申し付ける!晩餐会にて披露致せ!他は下がってよい!」
出番の無かった者も、まどか以上の芸を披露する自信は無かった。それよりも、目の前で見たものの芸術性に感動し。そのまま侯爵邸を後にした。
「その方等、今日より三日の後、皇城にて晩餐会が開かれる。その席で芸を披露せよ。それまでの間、宿は用意致す。よいか!」
「ありがとうございます。拙い芸でございますが、つとめさせていただきます。」
「うむ。励むが良い!ジョーカー、案内してやれ。」
「かしこまりました。」
『皆様方、ここは知らぬもの同士ということで……』
『わかった。』
「馬車を用意してございます。こちらへ。」
ジョーカーは四人を連れて、貴族御用達、隣国の要人等が宿泊する宿に向かった。エンフィーは、
「凄い!凄すぎる!」
と、終始興奮状態で、時折口を開けたまま、首が痛くなるまで周りを見ていた。
部屋は一軒家のような作り。この宿でも中級レベルの部屋なのだが、寝室が四部屋、メインリビングの周りにあり、浴室が二つ、ウォークインクローゼットがあり、シャンデリアと天鵞絨の壁、昨日までの安宿とは別世界だった。
メグミもハンスも、落ち着かない様子でまどかを見ている。エンフィーに至っては緊張していた。まどかだけが、
「ふーん、まぁ、こんなもんだろ。」
と、ソファで寛いでいた。
「座りなよ。そんなんじゃ、三日ももたないよ。」
と言いながら、ベルを鳴らし、夕食を注文した。
「ま、まどか様、男前っす。」
「そうね。ハンスさんより、よっぽど、ね。」