R4-1
広場に流れるメロディ。
少年は必死に奏でるが、誰も振り向いてくれない。
「いい曲なのになぁ……」
メグミが呟いた。少年が回す木箱には、ベルトが付いている。本来、肩からさげて使うリズム楽器らしい。一人で両方扱うのは、無理があるのだ。
「見てらんないっす。」
ハンスは少年を噴水の縁石に座らせ、木箱を肩からさげた。ハンドルを一定の速度で回すと、軽快なリズムが流れる。少年は笑顔になり、目を瞑ると、ハンスのリズムに合わせて、アコーディオンのような楽器を奏でる。先程までと違う、軽快でワクワクするメロディだ。
メグミは鼻歌交じりに手拍子をしている。それを見てまどかは、踊り出した。街ゆく人々が足を止める。次第に輪が出来て、メグミと一緒に手拍子をはじめた。
「メグミ、おいで!」
まどかがメグミの手を取り、一緒に踊り出す。曲は一番の盛り上がりを見せ、まどかとメグミが綺麗にターンを決めたところで曲は終わった。
「「うぉー!いいぞ!」」
「素晴らしい!」
「楽しかったわ!」
「ブラボー!!」
人々の歓声に答え、まどかとメグミは一礼をした。投げられたチップをハンスが集めると、少年に渡した。
「ありがとうございます。久しぶりに無心で弾けました!」
「楽しかったわ!」
メグミは少年と握手をした。そのまま縁石に座り、みんなで話す。
少年の名はエンフィー。祖父と二人で大道芸人をしていたが、今年の初めに祖父は病に倒れ、帰らぬ人となった。ひとりぼっちになったエンフィーは、祖父の形見の楽器を持ち、芸を続けることにしたらしい。だが一人では上手くいかず、落ち込んでいた所に三人に出会ったのだ。
「なぁエンフィー、私達の仕事、手伝ってくれないか?」
「仕事?」
「私達と一緒に来て、さっきの曲弾いて欲しい。それだけでいい。」
「そんなのお易いご用だよ!どこに行くの?」
「ん?皇城。」
「えーっ!無理無理!無理だよそんなのー」
「今日と変わらないよ?さっきみたいに弾くだけ。」
「変わらなく無いよー!周りは、皇族とか貴族なんでしょー!」
「じゃあさっき、お客さんの顔色見ながら弾いてた?」
「それは……」
「リズムを感じて、心のままに弾いてた。だから私も踊りたくなったし、みんなも楽しくなった。違う?」
「う……うん。そうだね。」
まどかはエンフィーの顔を両手で挟むと、顔を近づけて目をじっと見る。
「出来るよ。エンフィーなら。どこででも。」
「あっ、ちょ!羨ましいっす……」
それから三人は、エンフィーも連れて衣装を作りに来た。まどかとメグミは、色違いのドレス。鼻から下は、ベールで隠すことにした。ハンスとエンフィーは、タキシード。それぞれ同じ素材で同じデザイン、なのにエンフィーには良く似合って、ハンスには七五三感が出てしまう。ハンスの方が年上なのに……
思えば市場のおばちゃんに、旅の踊り子と嘘をついたが、まどかとメグミは、本当に踊り子として公爵邸へ向かうこととなった。その間だけ四人で、街の宿に泊まることにした。ハンスは年下の面倒見がいいから、エンフィーを任せても大丈夫だろう。二人部屋を二つ、これから一週間、四人は大道芸人として、街中に知られることとなる。