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正侯爵の屋敷。
闘技場より戻った正侯爵は、憤慨していた。
「何をやっておるのだ!皇子様より借り受けた暗部の者、失敗したではないか!あの邪魔をした者は何者だ!まったく使えん!しかも捕えられたそうではないか!」
「申し訳ございません。しかし、あの者も暗部、決して口を割るようなことは……」
「取り調べなどよい!即刻処刑するように伝えろ!」
「かしこまりました。」
「それよりあの邪魔者じゃ!一刻も早く見つけ出し、始末するのだ!」
「その者でございますが、どうやら公爵邸へ向かったようにございます。」
「なんじゃと!あの忌々しい公爵めの手の者か!むむむ……彼奴は皇子様の素晴らしいお考えを知らぬ。隣国より持ち帰られた秘術によって、我が国の兵力を倍増出来ると言うのに!」
「誠でごさいますな。」
「彼奴まさか、皇子様に対し謀叛を企てておるわけではあるまいな!」
「そのようなことは、無いとは思いますが……皇子様のやりように、理解を示さぬとは、由々しき事にごさいますな。」
「次じゃ!次の手を考えねばならぬ。」
「それでしたら、既に……」
この時ジョーカーは、隣りの部屋にいた。いつ侯爵に呼び出されても良いように、待機していたのだ。おかげでこの会話を聞くことが出来た。
「おい!誰ぞある!」
「お呼びでございますか?」
「茶を持て!それと、少し腹に入れたい。」
「かしこまりました。では、甘いものをお持ちしましょう。」
「うむ。それで良い。」
ジョーカーは、厨房へ行き、お茶の用意をする。
「お待たせ致しました。」
「うむ。それと、使いを頼む。この手紙を伯爵邸へ届けよ。」
「かしこまりました。では、行ってまいります。」
ジョーカーは、他の執事に外出を伝え、そのまま伯爵邸へ向かう。道すがらまどかへと思念リンクをする。
『まどかお嬢様、よろしいですか?』
『ジョーカー、何かわかった?』
ジョーカーは、侯爵邸での会話をまどかに伝えた。
『ジョーカー、その秘術、どうやら魔族召喚らしい。部分的に召喚して、力だけを使おうというものだ。』
『なるほど……不可能ですな。』
『そうか、ジョーカーは、魔族だったな。』
『はい。魔族とは精神生命体、言わば意思の塊でございます。意思そのものが力、意思のない力など、存在しません。それに、召喚とは言わば、扉を開く行為。その扉から出るのは、呼び出した魔族ではない場合が多いのです。』
『どういうこと?』
『開かれた魔界の扉に、近くにいる魔族が一斉に詰め寄り、力に勝るものが扉に飛び込むのです。それを制御など、出来るはずがございません。』
『そうか、ということは侯爵は……』
『騙されている、ということでしょうな。』
『ジョーカー、もうしばらくそっちで調べて。』
『かしこまりました。まどかお嬢様、暗部の者が次の手を打ってくるようです。お嬢様方も狙われております。お気を付けくださいませ。』
『わかった。ジョーカーも気を付けて。』
『ありがとうございます。』
まどかは公爵に、ジョーカーの報告を告げた。いくら利用されているとはいえ、王国の陰謀を知らない限り、必ず命を狙ってくる。被害を広げぬ為には、早急に陰謀を暴く必要があった。