R3-1
ハンスが捕らえた男を 衛兵に引き渡す。
まどかの元へ戻り、ハイタッチした。
「完了っす!」
「よし。皇子達が心配だ。行くよ!」
三人は皇子達の席へと向かった。途中に居た兵士達は、三人を見て最敬礼する。席にたどり着くと、椅子に項垂れ、飲み物を飲みながら、汗を拭いている皇子と、横で扇いでいる公爵が居た。
「戻りました。公爵様、御無事ですか?」
「おぉ、賊は!捕らえたか!」
「はい。衛兵に引き渡しました。」
「そうか!よくやった。」
「そのほうが我の命を救った者か!礼を言う。我は帝国第二皇子、アレクセイである。」
「勿体無いお言葉。皇子様、まだ痺れが残っておいででしょう。お休みになられてはいかがですか?」
「うむ。だがその前に、皆に伝えねばなるまい……」
皇子は身体を起こし、立ち上がると、良く通る声で告げた。
「皆の者!此度は余興とは言えぬ邪魔が入った!試合は我が預かる!後日再試合を行うことにしよう!体調の悪い者は申し出よ!身分は問わぬ!身体を治して帰るがよい!」
まだ十代前半の皇子が、凛とした姿で場内に告げた。その風格は、さすが皇族と言えよう。騒然としていた場内は、皇子の言葉で無事を知り、心を知って歓声を上げた。顔役達も、その見事な対応に感心している。
「そのほう、名は?」
「まどか、メグミ、ハンスでございます。」
「公爵、後は任せる。この者達に全て詳らかにせよ。まどか、メグミ、ハンス、この国を頼む。」
そこまで言うと、皇子はフラフラと椅子にもたれ掛かる。気を張っていたのだろう。全てを託し、意識を手放した。
「まどか、メグミ、ハンスよ、場所を変えようぞ。屋敷に来てくれぬか。」
「わかりました。伺います。」
「ハンス、屋敷は知っておろう。馬車を使うがよい。お前が案内致せ。我は先に戻る。」
「わかりました。では、後ほど。」
「うむ。」
それから三人は、ケーニッヒ卿の元へ。皇子達の席から少し離れていたおかげで、被害は無さそうだ。
「ケーニッヒ卿。」
「うむ。この騒ぎはなんじゃ。」
「はい。 恐らく、皇子暗殺を企てた者が居るようです。」
「なんと!大それたことを……」
「幸い皇子様は御無事です。賊と思われる者も捕らえました。ジョーカーが引き続き調べております。」
「そうか!よくやった。してまどかよ、公爵の件はどうなった。」
「はい。今からお屋敷に向います。」
「うむ。まどかよ、暗部には気をつけよ。必ず次の手を打ってくるに違いないぞ。」
「ケーニッヒ卿、暗部とは、いったい……」
「うむ。元は帝国統一戦時、集められた特殊部隊じゃ。存在だけは知られておるが、決して秘密は漏らさず、その為なら仲間の命すら奪い、死体も残さぬ。皇帝陛下直属の部隊じゃったが、それがなぜ今頃……」
「恐らく、今その暗部を使っている者がいる……ということでしょうか?」
「そうじゃのう……まどか、その辺も調べよ。」
「わかりました。」
三人は、ケーニッヒ卿の元を後にした。場外の裏手には、公爵が用意した馬車があった。まどか達は馬車に乗り込み、公爵邸に向うべく、闘技場を出たのであった。