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アクト公爵邸。
ケルビム次侯爵邸の改修を終えたビーンとハンスは、早々に屋敷に招かれた。現在の庭の状況を見ながら、公爵の希望を聞き、図面をおこした。入邸の許可証も貰い準備は万全だった。
今二人は、庭木の植え替えをしている。屋敷内の見取り図は手に入れてある。使用人達と馴染むのにも、そう時間はかからなかった。
「必ず尻尾を掴んでやるっす!」
だが、ここ数日、目立った人の出入りはない。駅で取り囲んで来た者も、倉庫街の爆発騒ぎの者も、それらしい人物は居なかった。
「焦りは禁物ですぜ、ハンスさん。」
屋敷に常駐するのは、執事三人、メイド五人、近衛の兵士が十数人である。その兵士も、小細工など出来そうな者は居なかった。どちらかと言えば、剣一筋の武骨者ばかりである。
「ここには居ないのかな……」
その日は突然やってきた。公爵は、庭の改修の出来を見るため、表へ出て来た。辺りをぐるりと見回し、にこやかに頷いた。
「ほう。流石であるな。あと何日かかる?」
「はい。3日のうちには仕上がると思いやすです。」
「そうか!楽しみなことよ。」
その時、神のイタズラか、突然風が吹き、植える前の苗木が、ハンスに倒れてきた。その枝でハンスの付け髭が削ぎ落とされてしまう。
「大丈夫か!」
「はい。折れてないっす!」
「そうじゃない!顔……」
苗木を支えるハンスを 公爵が見た。
「ん?お前は手配中の!そうなのか!そうじゃな!」
「やばいっす!こうなったら、ひと暴れして逃げるっす!」
ハンスは公爵に向かい、構えをとる。辺りに衛兵の気配はない!ナイフに手を伸ばそうとした時、公爵は慌てて言う。
「待て!我はお前達を探しておったのだ。話がしたい。そして、力を貸してほしい。」
意外な言葉だった。ハンスは躊躇う。
「決してお前達に危害は加えぬ。我の名において誓おう。」
「ハンスさん、ここまで仰ってんだ。話だけでも聞いてみちゃどうだい?」
ビーンも何かを感じたのだろう。横から口を挟む。
「我は帝都を 民を守りたいのじゃ。その為には、どうしても頼れる力が欲しい!」
「そのために……精霊の森を焼き払おうとしたんですか?」
「なに!焼き払うじゃと!知らぬ!確かに我は精霊の力を借りようとした。じゃが焼き払うなど、そんな指示はしとらんぞ!」
「え?だって、黒いローブの男が……」
「黒いローブじゃと!そうか、まさかそこまで手を回しておったとは……」
公爵は考え込む。
「それは恐らく暗部のものじゃ。こうしてはおれぬ!一度ゆっくり話がしたい。お前の仲間達も一緒に。明日、闘技場で武闘大会があるのは知っておるか?。我は皇子様と共に出席いたす。それが終わった後、お前の仲間達と会う機会を設けてくれ。頼む。」
公爵は、身分も考えず、ハンスに頭を下げた。貴族が平民に頭を下げるなど、あってはならないことだろう。公爵の焦りがそうさせたに違いなかった。
「わかりました。仲間に連絡を取ってみます。」
「おぉ!我を信じてくれるか!皆が揃った時、全てを話そう。今帝都に起きておる厄災の全てを……」