R1-4
まどか達は秘密基地に戻ると、ゴーンを呼んだ。武闘大会のことはゴーンも知っており、自分のブランドの売り込みもするらしい。さすがである。まどかが屋台を出すと言うと、商人の血が騒ぐのか、
「それは楽しみですな!まどか様のお料理は、どれも見たことが無く、味も格別です。どうでしょう、必要な材料はウチで揃えます。その代わり、お出しになる料理の製法、私に譲って頂けませんか?」
つまり、レシピを売ってくれ!と言っているのだ。今回まどかが考えているのは、豚骨ラーメンだった。ワイルドボアの骨が、手付かずで残っている。これを使わない手はない。こちらの世界にも、パスタのような麺はあった。ゴーンの提案にまどかは、
「とりあえずまだ試作に取り掛かる段階だ。作ってみて、味を確かめてから決めよう。」
「わかりました。ではその試食、私におまかせください!」
ちゃっかりしてると言うか、目利きの達人として、ここは自分で判断するということだろう。ただ食いたいだけ……ではないと思う……たぶん……
ゴーンに新しく鍋を用意してもらった。実は染料を作った時に、鍋がいくつか使い物にならなくなってしまった。
その新しい鍋に、ワイルドボアの骨を入れて、高温でグラグラと煮立たせる。その煮汁を捨て、骨の周りに着いている肉を綺麗に剥がし、骨だけになったところで、もう一度鍋に入れ、今度は弱火でゆっくり丁寧に出汁をとる。その間に麺を考えた。
最初はパスタで代用するつもりだったが、スープとの絡みを考えると、どれもピンとこない。そこでまどかは、ワイルドボアのミンチ肉と、香味野菜をみじん切りしたもので餡を作り、薄く延ばした生地でワンタンを作った。
半日掛りで作ったボア骨スープを、塩で味を調え、茹でたワンタンを入れた。試作品第一号の完成だ。弱火で丁寧にとった出汁は、豚骨スープのような白濁では無く、透き通った琥珀色をしている。ワンタンと香味野菜が浮かんだスープを、ゴーンがしげしげと眺め、匂いを嗅ぎ、一口飲んだ。
「……」
「どう?」
「美味い!」
どうやら、スープは合格らしい。続けてワンタンを口にする。
「うーん……」
「どっちのうーんなの?」
「悪くない。悪くないが、微妙にスープと合っていない気がする……」
まどかとメグミも試食する。いい出汁が出てる。でもワンタンを食べると、何か味がぼやけた感じになる……
「なるほど。ゴーンの言ってる意味がわかった。改良してみよう。」
それからまどかは、二度三度と試作品を作った。だがどれもピンとこない……思い付く食材を一通り試したあと、今日最後の試作品として出したのは、市場でもらったトマトだった。
「もう、結構お腹いっぱいだね……」
そう言いながら、メグミが一口食べた。
「こ、これ美味しい!」
「なに!ホントですか!」
ゴーンも食べる。笑顔で何度も頷いている。まどかも食べ、ようやく納得のいく味になった。
「よし。これでいこう!」
「しかし、よくここまでたどり着きましたな。この料理、是非買い取らせてください。」
「わかった。その代わり、食材の方頼むよ。」
「心得ました。ゴーンの名にかけて!」