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あれはとても暑い夏だった。
雨が例年に比べて少ない年で、作物の生育もままならない厄年とも言える夏だった。
俺は念動力を使って力仕事や狩りは中心として担っていたし。村一番の番犬でもあった。
だからと言うわけではないが、この過酷な状況で、村の仕事は積極的に取り組み、村の中心に立ち皆を鼓舞して老若男女平等に手伝わせた。
これならなんとか今年の夏を越えれそうだ。
そんな時ーーー俺たちの村は中央に燃やされた。
理由はひとつだ。
中央の暴虐な政に俺達は暴動を企てたことだ。
国民管理システム、通称セントラルマグナ。
迫害民などを上層部の人間が操り、躾けるための奴隷量産装置の配備。ましてやそこに、名前通り、一般国民も標的に加わっていた。
それに対し、夏の渇水問題のおざなりな対応と相まって俺達の怒りは頂点に達していた。なぜたくさんの人が餓えている中、そんなことをやるのかまるで理解が出来なかったのだ。
食糧の確保がある程度出来たら、デモ隊を作って何日に動こう。
他の村とも協力して、やるべきだ。
村の村長と俺を含めた若手でそんなことを話しあってた。その夜俺たちの村は燃やされた。
突然の響く発泡音。仰々しい足音。そして村に侵入した軍服の男達が火炎放射器で家に火をつけた。あっという間に村は制圧されていた。
周りで、泣き叫ぶ子供の声とすすり泣くその子の母親の声に懊悩となる。
沢山の家の柱が叫ぶような音を立て、家や先祖の霊たちが俺を呪う念仏を唱えるように、バチバチと延々と同じ音を響かせていた。
中央の軍人達は村をあらかた荒し終えたようで、満足な顔をして隊列を整えた。
目を凝らしてやつらの姿を焼き付ける。
そこの中には、第8能力の能力者がいた。俺はその男に突然殴り倒され、地面に伏せていた。
奇襲だったから、村一番の番犬はあっさりと倒され、悔しさで泣いた。
「 いやーこんな時間に突然ごめんねぇ。俺達も仕事で来てるわけだから。まあそこんところは悪く思わないでほしいなぁ。 」
掌で炎を弄んで、俺にそう言う。
こいつは…第8能力、火炎操作。
クライツェ・アストレア。
クライツェは皆が混乱で逃げ惑ってる姿を見、ケラケラと乾いた笑みを浮かべていた。
手がわなわなと震える。
やっと理解した。こいつらはこの村がデモ活動を企てていたのを知ってここにきたのだ。脅しのために。
怒髪天を衝かれたような怒りがほとばしった。
俺は地面を思いっきり叩いて、念動力でクライツェの顔面を殴る。
──確実に、仕留めた音がした。
だが、俺の攻撃をものともせず、表情すら変わらぬままだった。
クライツェはこちらを一瞥し、にっこりと笑う。
全身に鳥肌が立った。
彼は満を持してと言わんばかりに部隊に命令する。
「 え~、隊に告げます。ここにいる見てくれが老人の奴らを全員殺せ。 」
はっ?
こいつなんて。
それを聞いた、皆は正気を保てなくなり、特にアローナさんやミーナさんを始め、ある程度の年のある人達が恐怖で発狂し始めた。
絶望に呑まれ、彼女達は色を失った。まるで蝋人形のようだった。
ここで何人か殺す気なのかよ──っ!!
村を燃やす炎が、ただ無情に激しさを増す。"お前らは終わりだ"そう言っているみたいだった。
更に理解した。こいつらは脅しにきたんじゃなかった。潰しにきたのだ。
命令を聞くや否や敵兵は前進し、泣き叫ぶ皆をお構いなく銃を構える。
俺の山菜の採りを手伝ってくれたアローナさん。小さい頃、朝の散歩を一緒にしてくれていたミーナさん。
ずっとここで支え合って生きてきた人達が、こんな奴らにすんなりと、殺されちまうのか……?
納得出来るはずも無かった。
「 待ちやがれ!! 」
頭の中の線がプツンと切れ、脳内が憎悪の炎で包まれる。
そして、俺は爆発的に能力を発動させた。
念動力の弾丸を放つ。
照準は心臓。……全員ここで殺さなきゃ、みんなが死んじまうんだっっ!!
「 !!全員先にあいつを殺── 」
弾丸は敵兵の分厚い胸板を貫き、水風船が爆発したような勢いで一気に血が吹き出る。
やっちまった。
一瞬、手が震えて、頭が真っ白になる。
だが、あれこれ嘆く暇はない。銃を向ける敵兵の胸板を無造作に貫いた
「 うぉぉァ!!!! 」
くっそ……。
これ程までに、身体より心が悲鳴をあげている実感を味わったのは初めてだ。
「 皆──ここは引き止めるから、逃げろ!! 」
頭上から、ものすごい熱風を感じる。
「 ──! 」
剣状の炎の塊が、俺目掛けて崩墜する。
まるで、ビッグバンが目の前で起こっているかのような、荘厳で圧倒的な力が自分に向かって落ちてきた。
俺は豆腐を切るような具合で、呆気なく地面へ殴打された。
「 っっ!! 」
俺は口から胃液と残留物を吐き出した。
必死に炎の塊を念動力で弾こうとするが、びくともしない。
こいつには勝てない。そう思うとはっきりと絶望を感じた。
そうすると、冷汗が全身から吹き出した。外肌は熱いのに、体の内側は冷たい。
早くこいつらを倒さなきゃ、俺が立てなきゃみんな死ぬ……。
年配の人達がこいつらからダッシュで逃げ遂せる訳もない。
俺はこの炎を払うのを諦め、泣きながらで必死に乞いた。
「 やめろ。頼むから……見逃してやってくれっ! 何もあの人たちは悪いことして無い!! 」
「 いやいや、中央に背こうとしたっていう、立派な罪があるでしょぅ。 」
「 安心して、君は殺さないから。 」
今にも吹き出して笑い出しそうなクライツェが
酔いしれたような表情で言った。
「 せっかくだから。その絶望を一生抱えながら、生きて行きなよ☆ 」
そう言うと、遂にクライツェは吹き出して笑った。
それは絶頂。とても気持ちよさそうな顔をしていた。
こいつ……人間じゃっ……ない。
燃え盛る炎に映し出される、そいつの影のシルエットは、まるで炎の上で踊る悪魔のようだった。
これが第8能力者。
悪魔だ。こいつらは悪魔だ。
悪魔なんかに元々勝てるはず無かったんだ……。
頭の中の憎悪の炎が、一気に鎮まる。
「 ああああああああぁぁぁ!! 」
俺は耳を塞いでタダ叫んだ。
何に対しての叫びなのか、分からずにただ叫んだ。
ごめん……みんなごめん。
近くで発砲音がして、それから、悲鳴が断続的に続く。
俺は更に強く耳を塞いだ。
耳から血が出る程、指を強く強く。
そして、さらに強く叫び続けた。
喉仏が口から吐きでてしまいそうな程強く強く。
どうか俺も殺してくれ。
頭の中が一瞬萎むような感覚がする。そして、目の前が真っ暗になり俺の意識は遠のく───
────────────────。
朝のぬくぬくとした斜陽が、瞼を撫でる感覚がして意識が戻った。
寝ていたのか。俺。
夢……か?
悪夢から解放された気がして飛び上がった。
だが、手の平にある冷たい土の感覚と──目の前に広がる、灰色の光景が──その考えを一瞬で否定した。
心臓の鼓動が激しくなる。俺はゆっくりと立ち上がる。バキバキに腫れた目と昨夜叫んだ喉が痛む。
俺は足を引き摺って、周りを見渡す。
やつれた顔の中年女性──ミーシャさんは、頭を撃ち抜かれ地面に転がっている──アローナさんの隣で「ありがとうございました。」と泣いている。
そんな光景が俺の視界のほとんどにある。気をしっかり持たないと、俺は今にも叫んでしまいそうだった。
皆俺を見ても何も何も言わなかった。
だが、目を見て感じた。”お前が弱いせいだと“ーーー。
昨日の昼まではあったこの村──皆の笑顔、家、田んぼ、笑い声。今はもう何も無い。
1番有り得ないのは俺が生きていること。
何も守れなかった俺が──。
不意に、あの悪魔の声が脳裏で囀る。
「 せっかくだから。その絶望を一生抱えながら、生きて行きなよ☆ 」
その通りだ。死ななければならないのに生き残った俺は、この絶望を抱えて生きていかなきゃ行けないんだ。
自殺なんて、身勝手だ。
自分を苦しめる以外、贖罪の仕方が思いつかなかった。
その日から二日経ち、この村に訪問者がやってきた。
薄茶色の髪の毛と天真爛漫な様子の少女だった。
俺と同じくらいの年齢か?その人は村の皆を集め集会を開いた。
「 私は第8能力者、セシル・ローネス。ここにはある目的があってきました。 」
仲間や家族を失い、絶望で陰鬱とした空間で不安をあおられたのだろう。皆の緊張は一気に高まった。
第8能力者。
そう聞いて、きっと皆一様に二日前の出来事を思い出した。
「 なんのようだ人殺し集団!! 」
皆は火がついたようにこの少女に敵意を向けた。
第8能力者。私達の中では殺人狂というイメージしか無かった。
だが、この少女は思いに反して意外な発言をした。
「 安心して下さい。私はあなた達の味方です。 」




