抗う術
「 さ・よ・う・な・ら 」
敵に的確に自分の弱さを指摘され、ついには全身に力が入らなくなった。
拳に力を入れるがもう無理だよ、という諦めが募って動く気になれなかった。
私、負けちゃったな。でもしょうがないよね、私は半端な気持ちでここへ来てしまったんだから。
「 最後に言い残すことは? 」
アイリはわなわなと震える口に力を入れて、男を睨みつける。そして、アイリは言う。
出来れば私1人でやりたかったな。
「 私は確かに中途半端で弱いかもしれない。けど……そんなお荷物抱えて戦える我主はあんたなんかよりずっと強いから!! 」
今だ……!
アイリは男に差し上げるようにして、帽子を突き出す。
すると、その帽子の凹みから剛腕な拳のような物体が延びる。
そして、思いっきり男の顔面を直撃した。男はボーリングのピンの様に倒される。
「 アバドン!! 」
倒された男はピクリとも動かない。
余裕のある緩慢な様子だったもう1人の男が一気に構える。
周りの敵も動揺している。
「 大丈夫。気絶してるだけよ。 」
帽子の置かれた座標点に3人のシルエットが現れる。
ケイン。
ニナ。
志穏さん。
我主
間に合ってくれてよかった。
ケインのシェイルは自分の所有物のある所にテレポートできる能力だ。ケインに帽子を渡された時、そういうことだろうとは言われずとも分かった。
4人はアイリの前に立つ。
「 さて、ミアネ。どういうつもりなのか説明してもらえる? 」
セシルはいつもの穏やかさとは相対的に、とても憤っていた。怒りを押し殺し、なんとか冷静に話そうとしている様子だった。
だが、その様子に少し違和感を感じる。
「 セシル様。御無礼許し下さい。あなたにはここで死んでもらうのがこの世のためですので。 」
「 全員。セシルの首を狙え!! こいつを殺せば後はザルだ。」
男が吠えたぎる。そして、周りの敵が一斉に襲いかかる。
輪を描いていた敵が、セシルに向かって小さく収縮する。
「 よく抑えてくれたねアイリ、ガルラ。ありがとう。……後は私がやるよ。 」
我主ぃ……。
セシルが指をクイッと突き上げる。
すると地面がアイリ達の周囲を、大きく伸びた地面の表面が囲む。
それは自在に変化し且つ、我主の思い通りに動き鉄鋼の弾丸と化す。敵からは “ 触手 ” と呼ばれているものだ。
それが駆け寄る的に一斉に突出して、周囲の敵を吹き飛ばす。
我主の能力は敵に囲まれた状態だと使えるステージが増えてより効率的に敵を潰せる。
使える大地が多いなら囲まれようが我主にとっては十八番と言っていい。
大地を支配するにほぼ等しい力に、人間が抗えるはずもないのだから。
味方がチリジリになっているのを見たミサイルの男はこれまで見せたことの無い、苦い顔をした。
「 全員、あの気持ち悪いニョキニョキは俺が片す! 開けた瞬間に飛びつけるように距離を詰めろ! 」
男はミサイル爆弾を打ち込み、爆発させる。 “触手” を2つ粉砕するが、無尽蔵に湧くそれに到底追いつけない。
「 どうなってんだよ!? 」
それは、巣を守る働き蜂のようで近づく敵を矢継ぎ早につぶしていく。
立ち上がる敵兵も打つ手が無いようで、飛び込んでも無駄だ、と段々お手上げという感じになった。
「 ……!? おいてめえら壊してやってんだから攻めやがれ。 」
「 ミサイル君。君、遠距離攻撃型なのに近寄りすぎだよ。」
はっと、男は気付いてミサイルを地面に打ち込む。その衝撃をエネルギーにして、大きく宙を舞う。
遅い。そう言いたげに、セシルの “触手” は超速で伸び、男の腹をどつく。
「 ごっ!はぁ……。 」
意識を失って、地面に男は落ちていく。それを優しくセシルの
“触手” は受け取った。
中心を失った敵兵は残党でしか無かった。
攻め込む人が潰されていき、どんどん引き上げていく。
「 優しいのですね……。 」
ミアネは安心するような素振りで笑う。まともに立っていたのはミアネ1人だけだった。
「 ミアネ。逃げるなら今のうちだから。向かってくるなら、容赦しない。 」
近寄るな。そう伝えようとしてるんだ…。間違いなく我主 《がぬし》 はミアネさんを駆逐できる。
だが、理性で怒りを抑えて、選択肢を与えてあげている。
それだけの力の差が2人にはある。我主 《がぬし》 の勝利は確定しているだろう。
だが、ミアネは好戦の色を薄めなかった。
「 では遠慮なく。 」
ミアネはおそらく、わざと無視した。
そして、念動力で家の瓦礫を1箇所に凝縮し、思いっきりセシルへ向けて放つ。空気との摩擦で大量の熱が加わり、それはレールガンのようになる。
それをセシルは軽く防ぐ。
ミアネはミサイル男のありったけのミサイルの在庫を空中に漂わせ、一気に発射する。
四・五発のミサイルがギュンと音を立てセシルの胸元へ飛びつく。
セシルは指をくいっと折り曲げ、地面の ”触手“ を正方形の形にし、壁を作る。
「 ミアネ、あなたに勝ち目はない。あなたの能力は1体1の戦闘向きではない。 」
「 分かっています。それをもっと早く知っていれば、何も失わずに済んでいました。 」
セシルの眉が少し動く。
ミアネは懐から瞬時に小さなナイフを取り出す。
そして、念動力で家の瓦礫をばら撒く。それをセシルの視界に入る空中に留めた。
セシルは地面の “触手” でその障壁を大雑把にかき分ける。
視界が開けた瞬間、目の前にはナイフの先端があった。
「 ……! 」
“触手” をつま先辺りから這い出し、ギリギリの所で刃を止める。
ナイフの先端がカチンと壁にぶつかり火花を散らす。
「 私の念動力は自分自身にも使えます。力で体を押し出せば、スピードや力は10倍近くにも引き上げれます。 」
「 ……身体は耐えられるの? 」
「 どうでしょうね。試してみますか…ね!! 」
腕を念動力で押し出し、触手をナイフで切断する。
「 ……!? 」
セシルは爪先で地面を弾き、宙を舞って距離を取る。
「 逃がすか──」
ミアネは周りを見て驚愕する。
自分を中心にしてコンパスを描いたように、四方八方から地面の
”触手“ が延びてきていた。
逃げ道の無いミアネは頭を腕で囲って、防御体勢をとる。
そして、周囲の “触手” を自分に触れる寸前で念動力で止める。
だが、力で押し返す余裕は無かった。目の前で止めるのが精一杯の様子だ。
やがて、体力の限界か、ミアネの呼吸が荒々しくなって足腰がぶるぶると震えるようになっていた。
「 終わりよ。 」
セシルがそう呟くと、触手がミアネに激突した。
「 っ――!! 」
けたましい音が炸裂した。あらゆる角度からミアネは殴打され続けた。
そして、攻撃が止む。
攻撃を全身にまともに喰らったミアネは何度か立ったまま、ビクンと痙攣し、そのまま重心に任せて前に倒れる。
……こんな短時間で……ミアネさんを仕留めるなんて。なんていう桁の違いなんだろう。
だが、それ以上に心苦しい感情がアイリの内にあった。
必死に戦って、足止めしか出来なかったわたし。
息を吸うように、自然に敵を短時間で仕留めれる我主。
私は必要なのだろうか。
アイリは心の中で、状況の打開に喜ぶ気持ちと自分の存在意義を問う自答が葛藤となり、素直に前を見れなかった。
そのまま、ミアネが地面から立ち上がる姿をアイリは喪心状態で見ているのみだ。
「 ……くそ。 」
細い声でミアネは呻く。俺はまだやれる、と目だけは敵意を孕み、それをエネルギーにして強く光っていた。
「 ミアネ、もう良いよ。これ以上自分を傷つけないで。 」
「 何を言って……。 」
「 3年前の『フローリ村焼き討ち事件』のこと、私は知ってるよ。こうしてボロボロになることがあなたにとっての贖罪そのものなんでしょ? 」
『フローリ村焼き討ち事件』……!?
咄嗟にアイリは詳細を思い出す。
それは村の住人が大量に殺された、中央による大量殺戮事件の名称。
ミアネは息を詰まらせて数秒の間、目を伏せた。それはセシルに予想外なことを言われて固まったというより、下に写る自分の影を睨んでいるに見えた。
「 私はあなたが憎いです。 」
ミアネはセシルにそう言った。




