弱さ
1番私達の近くに居て、生活面諸々のサポートしてくれた、村長さん。そんな身近にいた存在がいつの間にか敵側に居た。
埋まっていたはずの枠が突然空っぽになっている。そんな違和感が強すぎて、吐き気すらして来た。
「……村長ぉ、正気ですか。」
怒りはあまり湧かない。中央に逆らった時点で敵しか居ないんだ。それは百も承知だった。
だが、寂寥感が自分の胸を掻き回す。
今まで一緒に居た時間は何だったんだよ。
「ええ、至極正気です。」
「だそうだ、残念だったな。お前らに元々味方なんて居ねえんだよ。」
「グレイブ様とカルディア様なら爆発した館の中です。今頃焼死体でしょうね。」
「……てんめえ!」
激昂したガルラがミアネ目掛けて巨人の一振を降ろす。
押し潰したかと思えたが、巨人の一振がミアネにぶつかる数センチ程前で止まった。
「……!?」
「私の能力は"念動力"。強く念じることで、他の物体へ干渉する。あなたの巨人の一振を止めるなど造作もことないです。」
止めた巨人の拳に目を這わせるように、ミアネはゆっくりと巨人の全体を一瞥した。
「巨人操作。素晴らしい能力です。……あと、背後に気を送ってみては?」
ゾッとした。咄嗟に振り向く。
そこには不発弾だろうか、さっきの男のミサイルが1本放置されていた。
「……!?」
それが内部から膨張するように広がって、やんぬるかな、大きく爆発した。
声を上げるには遅すぎた。もう爆発の炎がアイリの元へ瞬きも許さぬスピードで駆け寄ってきていた。
ガルラの巨人が身を呈して2人を爆発から守る。
「くそ!!」
背後で巨人が爆炎を食い止める最中、前方からは大量の敵が突撃してきた。
はっきりと絶体絶命の状況に立たされていることを自覚した。
すると、血が冷水になったのかと思うほど、全身が冷たくなって一瞬硬直した。
こんなの捌ききれない。
アイリは如意棒で剣士を殴打する。
「……!!」
ゼロアの時のように、甘い敵ではなかった。剣士は首元へ伸びた刃先を難なく剣で守った。
力勝負に負けたアイリの如意棒は、羽交い締めされるようだった。一方的に地面へ振り落とされる。
歯を食いしばって、押し返そうとする。だが、力勝負で勝てる筈も無い。案の定、剣を動かせない。
一人一人の戦闘スキルが今までと比較にならないほど高い!!
如意棒を抑えられてジリ貧になったアイリへ容赦なく他方から剣戟が迫る。
食いしばった歯と歯の間を吐息が吹き抜ける。
「らあ!」
全筋細胞を呼び起こす。そして、のしかかった剣を空中にまで持ち上げて振り払う。
その勢いのまま、向かってくる剣士へ次々に脇腹に打撃を加える。そして、振り抜いて敵を薙ぎ払った。
───!!
人の骨がバキとへし折れる感触が如意棒を通じてまざまざと自身へ伝う。
やってしまった。そんな焦燥と罪悪感が一瞬過ぎるが、振り払う。仕方ないんだ、これも。
振り抜いた如意棒には凹んだ跡ができていた。
続々と剣士はアイリの元へ飛びつく。だが、巨人の一振で近ずいた剣士を吹き飛ばした。
やはり相手は施術の出来なかった人間だ。巨人の殴打を耐え抜くほどの頑強さはないらしい。
「アイリ!! どうだ相手は。」
「どうでしょうかね。少なくとも今の巨人のサポートが無ければ、かなりやばかったですのでサンキューです。」
如意棒をぐっと握ると、さっきの人を粉砕した時の感覚が鮮明に掌を這う。
激しい振動と呻き声、嫌な情報が自然と彷彿されてしまう。
今まで闘ったテロリストなどは基本的に手を抜いても勝てる相手ばかりだった。だが、今回は違う、王直属の特殊部隊だ。
少し気を抜けば私が首元を突かれる。
極限のやり合いの中で私は立っているんだ。
──だから人を"殺す"感覚は初めてなんだ。
それ故か、敵が本気で殺しに来てるのに対し、こうして私は戸惑いと動揺に足元を救われてる。
敵と私じゃ、実力差もある上に心構えが違う。あっちは、人を殺し慣れてる。
「どうしたんです?顔が引き攣ってますが。」
長い槍を持った男が余裕のある笑みを浮かべて言う。白く長い髪、華奢な体、女性のような出で立ちの男だ。
「やはり、"自由の狼煙"とは対弱小テロリスト専門の戦闘部隊ですね。セシルが居なければ、なんてことも無い烏合の衆だ。」
「黙って聞いてりゃ、随分言ってくれますね。」
具体的な反論を見いだせないアイリは負け犬の遠吠えのようで、弱い言葉しか出せなかった。
「でも、事実そうでしょう。全員下がってください、私とグロウスターで仕留めます。」
その男は前方へ体と槍を傾ける。イノシシの突進のような形だ。
「グロウスター、本職頼みますよ。」
そう言うと、男はアイリの元へ突っ込んでくる。
「アイリ!!」
「はい!!」
ガルラの操る巨人は大きな躯体からは信じられない程、小回りが利く。
攻撃だけでなく防御、関係ないところも含めればダンスも出来る。
アイリを防御しながら攻撃をするのも、フットワークの軽さや俊敏から来るものだ。
巨人の攻撃を生身で受けきれる常人は居ない。避けた瞬間を追撃する!!
だが、予想外なことが起きた。
男の槍は巨人の拳をサイコロ状にバラしたのだ。巨人が拳を振るう前に、滅多切りにされていた。拳を振るう前に腕の断片がボロボロと地面に流れ落ちる。
「……嘘。」
巨人の装甲を槍如き、ましてや能力者でもない人間が破壊するなどありえない!!
巨人はガルラの苛立ちを通じて怒髪天をつかれたように暴れた。
巨人は地面の槍男目掛けて地団駄を踏む。
だが、巨大な足が幾度と落ちてくる猛撃を男は華麗に、涼しい顔で避け続ける。
足の速さも常人のものでは無い。50mなら4秒近くで走れそうな、尋常ではないスピードだ。
「……!!」
ミサイルが激突し、巨人の大脚は砕け散った。バランスを失い、地面に卒倒する。
男は待ち構えていたように、倒れた巨人をズタズタに引き裂く。
──巨人が殺られた、やばい。
逆立つ鳥肌と早くなる心臓の鼓動は明らかにセシルへのSOSを送っていた。
上擦る声でガルラへ呼び掛ける。
「ガルラ!! 撤退です。このままじゃ──」
槍がアイリの喉元へ伸びる
──!!
身を捩って、突きを躱す。男はそのまま刃先を横へ振るうが何とか避ける。
アイリは如意棒を剣と同じ長さへ調節する。そして、思いっきり頭へ叩き付けた。
「──!!」
一瞬、男の顔面がその衝撃で歪む。
だが、男はその勢いのまま地面に転がると思いきや、ぐっと堪えた。
「やっぱり攻撃が軽い。……力入んないんですか?」
図星をつかれて、声が出そうになった。
男は無表情でアイリを見やる。
「あなたの攻撃からは迷いと躊躇しか感じ取れません。だから、こんな中途半端な攻撃しか打てない。」
「自分を殺しにかかる相手を殺すことも出来ないなんて……。あんた本当に兵士ですか。」
自分で分かっていたことを相手に改めて言われた。
「──え。」
「え。じゃないんですよ。自分でも分かってるでしょ。」
「アイリ!! 聞くな。」
泣きそうだった。全くその通りなんだ。ウチは我主に従ってこの戦場に降り立った。
自分には戦う、敵を殺す、覚悟がある。そう自分に説き伏せてここへ来た。
けど、事実こうして最大のチャンスがあったとしても殺せなかった。
──ウチには覚悟なんて無かったんだ。小さい頃、我主に助けられ、そのままここまでやってきた。
だが、そこにホントに覚悟や信念といった一貫とした何かがあっただろうか。
あると思い込んでいただけなんだ。
あったのは、ぬるま湯のような中途半端な我主に従属する意志だけだった――――
不意に理解する。すると、アイリは空気が抜けていく風船のように、みるみる萎む感覚に襲われた。
「自問自答、終わりましたか?」
「アイリ、おいっっ!!。」
男は大きく刃を空を突いた。その刃が自分の首を突き刺している映像が突如目に浮かぶ。
「さ・よ・う・な・ら」
刃が落下する。




