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○○って呼んで  作者: 清風裕泰
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子心親知らずってまさにこのこと

ちょっとサービスシーンがありますが、けっしていかがわしいものではありませんからね!

 

 認めたくないが今の俺は子供である。小学校2年生のガキだ。

 つまり俺の言葉は他の人間には届かない。

 ただ一人、我が母なる藤井裕子さんを除いては。

 だからこそ作戦進行役として彼女が選ばれた。母である彼女以外に適任がいないのも事実だしな。


 南斗くんを藤井さんに戻す作戦は驚くほどスムーズに行われた。我が子を取り戻そうとする母の気持ちが神に届いたとしか思えないほどに。


 退院する日が近づいてきたあの日、藤井さんから作戦経過報告を聞く

 彼女の顔には嬉しさと複雑さが入れ混じった何ともいえないものだった。


「どうでしたか」

「親権を私に渡すといってました」

「やりましたね!」

「でも条件を出されて…」

「何ですか。それを飲んだんですか」


 クソが。どんな条件は分からないが我が子を欲しがる母性につけこんだか。思った以上に下衆な人間だった。


「東京に移住しろと…」

「はぁ?」


 あの野郎…自分の監視下に置きたいって腹か。やっぱりあんな大物を相手をするならもっと策を練るべきだったかもしれない。こっちは何が何でも子供を傍に置きたいっていう願い、つまり弱点をもっている。

 子供を取り戻すためには従うしかない。

 条件を出してきたってことは、虐待の件はいつでももみ消すことが出来るってことか。思ったより大物かも。


「私は…行ったほうがいいと思います」


 藤井さんがそう言ってきた。その目には既に覚悟が決まったようだった。彼女にとって一番の課題は南斗くんを取り戻すことだ。


「引越しするのも大変でしょ。仕事はどうするつもりですか」

「仕事は元々パートでしたから大した問題になりません。それに」

「?」

「あの人から引越しする家も職も全部与えるから従えと」

「はぁ?」


 益々イカレ野郎になり始めたぞ。完全に支配するつもりだ。従うべきではない。だけどそうしたら南斗くんを力ずきで取り戻そうとするかもしれない。

 甘く考えすぎた。神童であること意外にも南斗くんに価値があったってことか。


「私は、従うべきだと思います」

「藤井さん!」

「南斗と一緒にいられるなら私はどんな生活でも構いません」


 彼女の笑顔はとても穏やかだった。

 我が子を安心させようとする母親の笑顔だ。

 やめろ。俺はあなたの子じゃない。


「それに南斗が通ってた学校も気になります。そのまま通わせたいです」

「……」


 そうか。学校のこともあるか。親としてはそうのが妥当か。

 我より我が子。


「分かりました。あまり乗り気はしませんが、あなたがそう思うなら従いましょう」

「皆戸さん……」

「役不足かも知れませんが、出来るかぎるあなたは俺が守ります」

「……」

「藤井さん?」


 彼女は急に顔を逸らして頬を掻く。どうした。


「面と向かって守るって言われるとやっぱり恥ずかしいですね」

「何を恥ずかしがってるんですか。俺はあなたの…」


 子供、でもない。じゃ何と言うべきか。俺みたいなエラーが彼女の子になるのはおこがましいにもほどがある。


「…息子の守りですから」

「……」


 俺の意を汲んだのか彼女はそれ以上何も言わなかった。

 俺は彼女の子でもましてや子供でも何でもない。だから彼女の何かになろうだなんて、それは思いあがりも甚だしいことだろう。

 きっとそう言ったら藤井さんは「そんなことはない」と言ってくれるだろう。優しい彼女のことだ。想像しがたくない。

 だがこのままなのも埒が明かない


「でも確かに父親の前であなたを藤井さんって呼ぶのもあれでしょう」

「そう…ですね」

「流石にママって呼ぶのは俺が耐えられませんので、あなたを母さんって呼びます」

「……」

「泣かないでくださいね。どうしたらいいかわからないから」

「な、泣きませんよ! もう…」


 ちょっとすねた様子。母より妹を相手する感覚だ。


「あなたは俺をいつものごとくミナトって呼んでください。敬語もやめてください」


 これが俺の出した妥協点。俺は南斗くんでもないし皆戸でもない。何者でもない。

 だからこれでいい。



 ◈ ▣ ◈ ▣ ◈ ▣ ◈ ▣ ◈ ▣ ◈



 それからのことは驚くほどすんなり行われた。

 退院手続きを終わらせると黒いスーツのいかにも危ない人たちが俺たちを迎えに来た。黒い車に乗れといわれ藤井さん――母さんは大変怖がっていたが、俺が彼女の手を握り安堵させた。

 俺は出来るかぎり自然体に行動した。どう繕っても俺が南斗くんじゃないのは変らない。ならそれを最大限に活かすしかない。

 この車の中に父親はいない。ただ人たちをよこしてきただけだ。

 その黒スーツの人たちは父親の部下らしく、黙々と俺たち親子の引越しの準備を行った。そうやって引越しの手続きもすんなりと終わって、そのまま東京に引っ越すことになった。


 そしてついた東京。俺としては半月ぶりに戻った感じだったが、岡山から出たことがないらしい母さんは、あっちこっちを楽しそうに見ていた。そんな少女らしき姿に微笑ましいものを感じる。

 第三者からみたら、手をとって歩いてる俺たち親子は母に連れてこられた子供に見えるはずだが、残念なことにつれて歩いているのは俺のほうだった。

 母さんが物珍しさに釣られてあっちこっちふらふら歩くからだ。


「しっかり前を見て歩いてください」

「ほえ? ご、ごめんね。私ったら…」


 同じく黒スーツたちの黒い車に乗り、父親によって手配された家に着いた。目が回るほどの高級団地で母さんの目はこれ異常ないほど丸くなる。


「と、都会…」

「さぁさぁ早く荷物の整理でもしましょ」

「そうだね」


 俺と母さんの部屋は別々にした。それもそうだ。俺と彼女が親子関係でも俺の中身は彼女より年上のおじさんなのだ。間違いを起こす気はないが、だからと言って一緒に寝たりするのは悪い気がした。


 ある程度整理を終えた俺たちはリビングのソファに座っている。見るからに高級なこのソファも父親が用意したものだ。いったいあの野郎は何がしたいんだ?


「新しい生活が始まるわけですが、俺と母さんの間にルールを決めたいと思います」

「ルール?」

「はい。母さんにはすごく残念なことながら、俺の中身は28才のおじさんです。そして母さんは27才」

「すごいね」


 それで済ませたらどれだけ楽だろうか。母さん、俺に心許しすぎじゃありませんか。


「母さんがどう感じるか分かりませんが、俺から見たら凄く気まずいわけです」

「なんで?」


 首を傾げる。まるっきり理解していない様子。マジか。


「だ、だから… 男と女として一緒に過ごすのはアレだと言ってるんです!」

「…?」


 暫く考え込む母さん。目を閉じる。頭を傾げる。顎に手を当てる。そして、かぁぁぁぁっと顔が真っ赤になる。

 どうか理解してもらえ…


「そ、そんなのどこで覚えたの!? まだ8才なのに!!」


 てなかった。


「聞いてください。認めなくないでしょうけど今の俺の年齢は28才です。それに既婚者です。子もいます。つまり」

「聞きたくない聞きたくない聞きたくない!」


 耳を塞いでぶんぶん頭を振る。どっちが子供なんだ。

 そりゃ可愛い可愛い我が子供が、小学生2年生が男と女を知っていて自分を母ではなく異性と思うのは認めたくないっていうか、正直怖いだろう。


「ママは認めないからね! 一緒に寝るから!」

「いやいやいや勘弁してください」

「今日は一緒にお風呂に入るから!」

「それだけは許して…」

「だ、だって……」


 子供と一緒にお風呂に入ったり寝たりするのが夢だったんだもん。


「…!」


 それで思い出した。死に際の俺の夢を、未練を。

 我が子としたかったあらゆるものを。願いを。


 そう言われると言い返せないじゃないか。

 俺もそうしたかったんだよ。

 娘と一緒に寝たりお風呂に入ったりしたかったんだから、分かるから強く言い返せないんだよ。


「だ…めぇ?」


 だからどっちが子供かっつぅの!

 合掌して拝むみたいに目を潤す。やめろ。それには弱いんだよ。だから…


「お願ぁい~」

「くっ…」


 もしかして羞恥心を覚えるのは俺だけか。俺だけが意識してるのか。

 だったら馬鹿馬鹿しいにもほどがあるぞ。いいだろう。


「分かりました…」

「やった!」


 奏、誤解しないでほしい。俺は彼女を母と思ってるからな。

 いや、確かに年下の女性を母と認識してる時点で物凄く背徳な何か感じざるを得ないが、それは今置いておくとしよう。


「息子とおっ風呂ー!おっ風呂ー!」


 物凄く喜んでる…


「それは今置いておくとします。それ以外にも大切なことがあるでしょ?」

「大切なこと?」

「斡旋された仕事先とか俺の学校のことです」

「そ、そうだね」


 忘れてた!みたいな顔するなよ。物凄く不安になるな。

 俺たち親子を愛してないあの父親のことだ。母さんを変なところで仕事させるのではないか心配になってくる。


「まず携帯を買います」

「携帯電話?」

「はい。俺のと母さんのを。何かあったときすぐ連絡が取れますから。たかるなら一層清々しいほどたかってやるんです。あの父なら買ってくれるでしょう」

「それは悪い子だね…」


 気が引けるみたいだが俺はこれっぽちも悪く思わない。こっちはそれ以上のことをされてきたと自覚しないといけませんよ母さん。


「学校の先生には俺は記憶障害だといっておきます。母さんもそう思ってください」

「うん」

「まぁ俺の学校などより母さんの仕事先が心配です。何かあったらすぐ電話してください」

「わ、私はお母さんだよ? 心配するのはこっちの方!」


 はい?

 腰に手を置いて胸を張る。母の威圧感を出そうとするが、正直俺から見ると、けっこう可愛い。


「ミナトくんが私より年上なのは分かるけどね? でも私がお母さんだからね? 心配するのはお母さんの仕事!」


 何ムキになってるんだ。だいたい俺は子供じゃな…


「お母さんを頼ってよ」

「……」


 やれやれだな。


「…わかりましたよ母さん。お互い助け合いましょ」

「むぅ」


 まだご不満のようだが、俺が彼女に助けてもらう場面がどれほどあるだろうか。いや別に彼女を無視してるとかそんなわけではないぞ。俺としては自分のことは自分で何とかできると思ってるだけだ。それで尚且つ彼女のことも守らなくてはならない。


「未来のことなど今悩んでも仕方ないもんね」


 雰囲気を帰るためか合掌しながらそう言い出す母さん。


「だからお風呂に入りましょ?」


 またそれかよ。振り出しに戻ってるじゃないか。


「ママと一緒に入りましょうね~」

「は、はなせ!」


 小さい俺は母さんに抱かれてお風呂に向かわせられる。

 まず脱衣場だ。無駄に広いし、無駄にでかい洗濯機もついてある。最新式のドラム洗濯機だ。一体いくらするんだ?

 そしてその奥の浴室にはでかい風呂も着いてある。物凄く無駄に豪華な施設だ。


「こんなお風呂に入れるなんてね」


 脱衣場についたと思ったら、


「なっ!? なななっ!?」


 母さんが脱ぎ出した。豪快に脱ぎ出した。

 服を着ているときは分からなかったが、すごく…でかいです。

 じゃなかった!

 俺はさっそく背を向く。


「何脱ぎ出してるんですか!」

「何ってお風呂に入るなら脱がないと」

「や、やっぱり俺一人で入ります!」

「だ~め」


 逃げようとしたが簡単に掴まれ、脱がされる。

 俺より大きい女性に捕まって上着が脱がされ、ズボンが下ろされる。

 何だこれは!

 病院のナースさんに脱がされるのは仕方ないからあまり恥ずかしくなかったのに、これはやばいぞ!色々やばい!


「ぎゃー!」

「騒がないの!」

「えっち! 破廉恥!」

「暴れないの!」

「ぎゃーー!!」



 ◈ ▣ ◈ ▣ ◈ ▣ ◈ ▣ ◈ ▣ ◈



「くすん…」

「気持ちいいね~」

「……」


 結局母さんと一緒にお風呂に入ってしまった。

 母さんは着やせするタイプらしく、脱いだら凄かった。

 普通の男性なら喜ぶシチュエーションだが、俺は違う。俺には奏しかないんだ! 決してほかの女性に目移りなんかしないぞ!

 だからこれは浮気でもなんでもない!


「100数えないの?」

「…俺はガキではありません」

「むぅ…」


 頬を膨らませる。どっちがガキなんだよ。

 背中越しに、頭の後ろにでかくて柔らかなものがあたるのがわかって心臓がうるさいほど早く脈を撃つ。身体がまだ子供でよかった。幸か不幸か血が股間に集まらずに済んだ。


「ママと背中洗いっこしようねー」

「しません」

「するの!」

「……」


 だからどっちが子供かっつーの!

 断ったが俺の意思とは関係なく洗いっこは盛大に行われたが、逆に俺の心は汚されてしまった。奏より大きいそれを目にして俺があたぶたしてる間、全身を隈なく現れたのだ。股間まで。


 そしてそれが終わりではなかった。


 お風呂から出てようやく解放されるのかと思いきや、今度はベッドにイン。

 言っておくが、決してエッチな意味ではないからな!


「パジャマ可愛い!」

「ぐぅっ…」


 でかいおっぱいに抱かれ眠る羽目になってしまったのだ。

 こんな状態で寝られるかー!!

 今はまだ身体が子供からいいものの、二次性徴なんか来たら目も当たれなくなるぞ! 精々そのときまでに彼女を完全に母として認めるか、南斗くんに戻ってもらうしかないか。その時がきたら俺は…


「はぁ…」

「すぅ…すぅ…」


 母さん……。俺の気も知らずさっそく寝落ちしやがって。

 子心親知らずってまさにこのことだな。

 これが毎日続くのか。

 俺はいったいどうなってしまうんだ!?

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