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さようなら、ヒューダ

 タダシとカケルの寝顔をぼんやりとヒューダは見つめていた。そして、背後を振り返る。そこに、寝ていたはずのタダシの父親はいない。

 ふと、ヒューダはタダシの部屋のドアが開いていて、すき間から廊下の光が差し込んでいるのに気が付いた。すき間から、タダシの父親が顔を出して、こっちへ来るようにと手招きをしていた。


 ヒューダが廊下に出ると、タダシの父親と母親がいた。

 ふたりはしゃがみ込んでヒューダと目線を合わせた。


「ヒューダ。ごめん。――――もう一緒にはいれない」


 口を開いたのは父親の方だった。ヒューダはしゅんとうつむいた。


「……ソウ……カ……」

「ごめんなさい。あの子たちは悲しむだろうし、あなたもひとりで逃げないといけない。見つかったら殺される。それを分かっていて、逃げてほしいなんて、ずるいけれど。――――ごめんなさい」


「――――タノシカッタ」


 頭を下げていた母親は、ヒューダの言葉に思わず「えっ」と声を出した。


「ヤサシイ、ニンゲン、イタ。ソレダケデ、トッテモウレシイ。シリトリ、タノシカタ。――――タダシニ、ミンナニ、ツタエテ。アリガトウ」


 母親の両の眼に静かに溢れるものが。それをぐっとこらえ、鼻をすすりながら「必ず、伝えるわ」と。父親が一階までヒューダを抱え、玄関に彼を下ろした。母親は、玄関のドアを開ける。


「さようなら、ヒューダ。素敵な時間をありがとう」


 冷たい夜風がびゅうっと家の中に吹き込んだ。

 少しだけ肩を落としながら、ゆっくりとヒューダは歩みを進める。そして、敷居をまたごうかというときに、声がひびいた。


「待って、ヒューダ!」


 ヒューダは振り向いた。

 いつの間にかタダシが下りて来ていたのだ。ミカとカケルもいる。カケルはうつらうつらとしていて、今にも寝入ってしまいそうなのを壁にしがみついてやり過ごしている。


「ね、寝てたんじゃなかったのか」

「寝ている間にお別れなんて、嫌だから」


「ちょっと、カケル。起きなさいっ! 宇宙防衛軍の自称リーダーなんでしょっ」


 ミカがカケルを引っぱたいた。

 カケルはびくんとなって、そのままよろめいてすってんころりん。そのショックでなんとか目が覚めたのか、廊下に倒れながら、しどろもどろの口を開いた。


「……また、しりとり、やろうぜ……」

「カケルはほんと、しまらないんだから」


 ミカは呆れて悪態をつく。

 ヒューダは笑っているのか、それとも泣いているのか、身体を震わせた。


「あの、ヒューダっ、これあげるっ」


 ミカが画用紙をヒューダにわたした。

 紙の中には、黄緑色の丸い生きものが描かれていた。クレヨンで描いたヒューダの似顔絵だった。


「うまく描けてるでしょ。思い出にとっておいて」


 ヒューダが父親と母親と話しているすきに、三人で描いたのだという。ヒューダはその絵をまじまじと見つめて、身体の震えを強めた。


「アリガトウ。アリ……ガトウ……」


 寒い寒い夜の闇の中へと、ヒューダは溶けて行った。

 その丸い背中を見送る五人の腕。みんなで手を振り続けていた。

 やがて、ぼやぁっと光っていたその身体は、真っ黒な夜の闇に吸い込まれていった。そこで、タダシはひと粒の涙をほほに伝わせた。


「さようなら、ヒューダ」


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