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みんなでしりとり大会

 タダシは父親と母親を自室に案内した。

 そこには黄緑色にぼんやりと光を放つ球状の身体の、ヒューダがいた。テレビで何度も報道されている、コロギヌス星人の姿だ。


「――――本当にコロギヌス星人だ」


 父親はどこか感嘆したかのような口ぶり。


「お父さんっ、いじめたりしたらダメだよ。そいつが侵略者なんて嘘っぱちなんだ。コロギヌス星人は悪いやつじゃないんだっ」


 タダシの言葉に「まさかそんなことしないよ」と笑顔を返す。


「隠していたことは悪いことだけど、タダシがコロギヌス星人が悪いやつじゃないって言うなら信じてみるわ」


 父親も母親もヒューダに危害を加えることはないと分かり、三人は胸を撫で下ろす。

 一方、ヒューダはというと、三人から五人に。それも大人二人が加わったところでよりいっそう、おびえていた。小刻みに震えるその身体は、父親のひざの高さよりも少し高いかぐらいしかない。


「ニンゲン、オオイ。コワイ」


「コロギヌス星人は、本当は人間と共生するためにここに来たんだ。それを人間が裏切ったんだ」

「――――そうか、確かにこんな怖がりが、地球を侵略しに来たとは考えにくいな」


「じゃあ、お父さん、信じてくれる?」


 タダシの言葉に父親は、ああと頷いた。


「じゃあ、ヒューダをここでみんなで守ろう。ここでヒューダが見つからないように守るんだっ」


 タダシはミカとカケルの方を向きながら言う。それまで深刻な表情をしていた三人だったが、ぱぁっと晴れ上がった。


「……ごめんなさい。それはできない」


 しかし、三人の思い通りにはならなかった。母親はしっかりと頭を下げて、「ごめんなさい」と。それに続く形で、父親も頭を下げた。

 三人はきょとんとなった。


「なっ、なんでなんですかっ」


 ミカがまた泣きそうになりながら口を開いた。


「私たちがヒューダを守ることは、犯罪になってしまうわ。ヒューダを守ろうとしたら今度、あなたたちを守れなくなる。

 ヒューダを守りたくないわけじゃないの。私は、あなたたちを守りたいの」


 苦しそうな声で母は言った。「タダシ、わかってくれる?」と。タダシはそれを心のどこかで分かっていて、それでも分かりたくなかった。


「約束したんだ。ヒューダを守るって」

「違う、もっとでっかく俺たちで宇宙を守るって――――」


 付け加えようとしたカケルの口をミカが押さえた。カケルは、しばらくもごもごと言って、だまった。


「そうか、三人とヒューダは友達なんだな。――――せっかく友達になったんだ。みんなで一緒に遊ばないか」

「ちょっと、あなたっ」


 のん気な提案をする父親に、母親は食いつこうとする。父親はまっすぐな瞳でそれを止めた。


「せっかく宇宙人の友達ができたんだ。今はみんなで遊ぼう」


「ヒューダと遊ぶ……、俺っ、それ賛成っ!」


 真っ先に食いついたのはカケルだった。それにミカが乗り、タダシも頷いた。


「ヒューダ、何して遊ぶ?」


 落ち込んでいた三人だったが、ヒューダと遊ぶとなると、きゃっきゃと沸き立った。ヒューダは元気になった三人を前に、とまどっている。


「アアア、ア、アソブ。ア、アソビ、シラナイ。ソレニ、コトバ、ヘタ。ワカラナイ」


 そもそも地球の人間とあまり話したことのないヒューダだ。人間の言葉もなんとか覚えた程度でたどたどしく、完璧にしゃべれるわけではない。それに不安を漏らすヒューダを見て、ミカは何か思いついたように手を鳴らした。


「じゃあ、しりとりしよ! 言葉たっくさん覚えられるよ」


 カケルもタダシもこれには賛同した。

 

「シシ、シリト……リ……?」


 とまどうヒューダに三人は、しりとりのやり方を優しく教えた。四苦八苦しながらもヒューダに一生懸命に伝えようとする三人の様子を見て、父親と母親は静かに笑い合った。

 ようやく、しりとりのルールがつかめてきた様子のヒューダ。


 “しりとり”の“り”から、しりとりが始まった。

 タダシが「りんご」。父親が「ゴリラ」、母親が「ラッパ」と続いた。カケルが「それじゃありきたりじゃんか」と漏らしたので、続くミカは「パルメザンチーズ」と。


「ズ! ズ、ズズズ――――」


 まさかの変化球に、カケルはどもってしまう。その様子を見て、ミカはお腹を抱えて笑った。


「笑うなっ。あ、思いついた! ずる休みっ」


 そしてヒューダに順番が回った。


「ミ……、ミナト……」


 ヒューダのナイスパスを五人は拍手で称えた。ヒューダの顔から人間が表情を読み取ることは難しい。でも、五人にはヒューダが笑っているように見えた。

 それから、ときどきヒントを与えたりしながら、しりとりは続いた。三周、四周と続いた。


「えーっと、マスト!」


 カケルがそう言い放ったとき、タダシが「あ、十時だ」と漏らした。


「そうね。じゃあもう今日は寝ましょう」


 母親が、しりとりを切り上げる。

 しりとりは二時間近く続いていた。ヒューダと話しながらだから、あっという間だった。タダシの部屋にカケルの布団と父親の布団が敷かれた。ミカは、タダシの母親と同じ部屋で寝ることになった。ヒューダもタダシの部屋で寝ることになった。歯を磨き終わると「おやすみなさい」と言って五人は分かれた。

 一番早く寝着いたのはカケルだった。

 それはそれは早く、寝息を立てるまで数分もなかったのではないかというほど。


「カケルは早いなあ。しりとりの続きやろうと思ったのに」


 布団にくるまりながらタダシが言う。


「次はヒューダの番じゃないか。たしか、“と”で終わっていたよな」

「ト……、トマト?」

「残念、それはさっき出てきたんだ」


 父親が言った、一度出てきた単語は使ってはいけないという、しりとりのルールにヒューダはとまどった。そこでパニックになって、何も出てこないといった具合だった。


「モ、モウ……ワカラナイ。コーサン」

「えー。じゃあ。また、明日なっ」


 タダシはそこで、ヒューダに小指を差し出した。

 ヒューダがどこからが首なのかよく分からない丸っこい身体をもたげて、首を傾げるような格好をする。タダシはしびれを切らし、ヒューダの細長い腕を自分の小指に絡ませた。


「これは、約束のポーズだ」

「ヤクソク……」


「明日も遊ぶっていう約束っ」


 タダシとヒューダは指切りを交わした。指切りげんまんの歌をタダシは歌ったが、ヒューダにはそれがほとんど分からなかった。でも、指切りが終わるとタダシは満足して寝てしまった。

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