宇宙大好き三人組
びゅうびゅうと寒い風。吐く息は白く、街に植えられた木々には、赤、黄に橙の色が。
冬の寒さの忍び寄る秋晴れの空の下。肩を落として、歳に似合わない難しい顔をしながら歩く男の子。年齢は八歳かそれくらい。さっきまで学校で授業を受けていたタダシだ。
強い風が吹くたびタダシは肩をこわばらせながら、家に向かって歩いていく。
ろくに前も向かないで歩きながら、十字路にさしかかかろうとしていた。
十字路のタダシから見て右手の方で、男の子と女の子が、タダシを見つけてくすりと笑った。そして息をひそめて、ふたりして出合い頭にタダシの前に「わーっ」と大きな声を出して飛び出した。
「うわっ!」
下を向いて考え事をしながら歩いていたところに、いきなり前から大きな声を出しながら人が出てきたのだ。タダシは大きな声を上げてすってんころりん。
アスファルトの上に尻もちをついた。痛そうにするタダシを前に、けらけらと笑う男の子と女の子。三人とも年齢は同じくらいだ。
「もう、タダシくん。驚きすぎだよぉ」
とくに女の子の方はツボにハマってしまったらしく。お腹を押さえて笑っている。タダシはあまり愉快ではない。
「笑いすぎだ。ミカもカケルも」
女の子の名前はミカ。もう一人の男の子はカケル。三人の中では成長の早い女の子のミカが一番背が高い。そして、カケルが一番小さい。
カケルが手を差し出すと、タダシはそれを払いのけて立ち上がり、ひざをはらった。
「そう、怒るなって」
カケルに「怒ってないよ」と低い声を返す。明らかにタダシは不機嫌だ。
「国語の時間のことでしょ」
ミカが、タダシの不機嫌の理由を言い当てた。
むすっとしながらタダシは、小声で「そうだよ」と漏らす。民家の塀にもたれながら、「みんながぼくをバカにする」とぶつぶつと呟く。
「タダシくんは宇宙人が好きだもんねー」
ミカの言葉をタダシは否定した。「好きなわけじゃない」と。
「でも、宇宙は好きなんでしょ」
今度はミカの言葉を否定しない。
「だって俺ら、“宇宙防衛軍”だもんなっ」
カケルが自分の中だけで使っている三人組の呼称を持ち出した。「はいはい」とミカが呆れ気味に流す。カケルがとたんに不機嫌になった。
「ああっ、そう言えば。もうすぐ“しし座流星群”が来るよねー」
そんなカケルはさておいて。ミカが流星群の話をする。三人はわき立った。
「今年は夜遅いかもしれないんだっけ?」
「夜中の一時っていつだよ?」
一時は昼にしかないと思っているカケルが頭を悩ませる。
「真夜中に日付が変わるでしょ。そこから一時間たったところよ」
「ええー。起きてらんないよー」
カケルが地団駄を踏むと、ミカもタダシも一緒になって地団駄を踏んだ。
「もっと早く来てほしいーい」
三人で声を合わせる。そう、三人は宇宙が大好きなのだ。親の予定が合えば、保護者付きで夜に出かけて天体観測もする。今年のペルセウス座流星群は三人で見た。しし座流星群もといいたいところだが、観測が夜半を過ぎると予想されているそれを拝むことは難しいのだった。
でも、もし流れ星を見たら絶対に報告するように。家から電話をかけてきた者には、栄誉をたたえて勲章を与えよう。ふざけてタダシがそう言うとミカとカケルは、タダシに敬礼を送った。
そして三人は分かれ、それぞれの家路につくのだった。