表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

プロローグ

 夜空に浮かぶいくつもの丸い円盤たち。――――UFOです。

 宇宙人が地球を侵略しにやって来ました。丸い丸い円盤は次々と地上に降り立ち、階段を地面に下ろしました。中から出てきた宇宙人は、ねずみ色の光る皮ふをしています。大きな頭に大きな目をぎらぎら。

 そして光線銃を取り出してかまえたのです。


「やい、人間。今すぐこの地球をあけわたせ。我々はこの地球を征服しに来たぞ」


 ずばんという大きな音。放たれた光線は、周りの草木を焦がしました。ばりばりと音を立てて燃え盛る木が倒れます。人間たちは大パニック。みんなみんな宇宙人に恐れをなして、逃げまどいます。


「助けてっ!」

「宇宙人がやって来た。地球はもうおしまいだっ」


 ――――だけどそのとき、円盤に砲撃が当たりました。炎が上がって、水平に着陸していた円盤は、傾いて地面に突き刺さりました。


「おい、宇宙人。地球は渡さないぞ」


 ずどんずどん。地球を守る軍隊が、戦車団を率いて円盤を攻撃しました。宇宙船よりもうんとたくさんの戦車で、あっという間に宇宙人たちを囲ってしまいました。宇宙人たちは大きな目をぱちくりさせて、やがて人間たちの兵力におびえ始めます。


「ひぃ、人間を怒らせた。こっちの兵力じゃ全然かないっこないや」


 うってかわって、今度は宇宙人たちが人間から逃げようとします。

 でも残念、戦車団たちは宇宙人たちをとっくに包囲しているのですから、逃げようなんてありません。宇宙人たちはみんな光線銃を手放して地面に伏しました。「降参だ。降参だ。許してくれ」――――だけど宇宙人たちは、私たちの地球を奪いに来たのです。許すわけにはいきません。

 ずどんずどん。人間たちは砲撃をやめません。宇宙人たちが、みんなみんないなくなってしまうまで砲撃は続きました。

 こうして、すべての円盤は大破。宇宙人たちはひとり残らず人間たちにやっつけられたのです。こうして、私たちの地球は守られたのです。


「はい。ユウスケくん、よくできました」


 国語の時間。生徒のひとりの男の子がそこまで読み上げると、教室に拍手が沸き起こった。物語は地球を侵略しに来た宇宙人が、やっつけられてしまうお話。――――ありきたりな物語だ。生徒の皆も、内容にこれといって疑問はわき起こらない。ひとりを除いて。

 ひとりの男の子が手を挙げた。


「どうしたの――――」


 男の子の顔を見たとたん、若い女教師の顔はゆがんだ。


「はい、タダシくん。どうしました?」


 ろこつに声の調子を下げる女教師。またかと顔に書いてある。そう、このシーンはいつもくり返される日常のひとコマ。

 タダシという男の子は、宇宙人が出てくる話になると決まって同じ疑問を先生にぶつける。


「――――どうして、宇宙人は悪いやつばっかりなんですか」

「これはそういう物語なんです」

「じゃあ、じゃあ。どうして宇宙人が降参しているのに、人間は攻撃をやめなかったんですか?」

「それは宇宙人が悪いからです。宇宙人は地球を乗っ取りに来たんですよ。タダシくんも、自分のものがとられたりしたらいやでしょ?」

「でも、ぼくは相手が降参してきたら、許してもいいと思うんです」

「許しても、乗っ取ろうとしたことには変わらないのよ。それに、宇宙人の方から攻撃してきたのですから。それを許すことはできないんです」


 タダシと先生の問答は、もはや見慣れた光景だった。

 他の生徒たちは、タダシを応援するわけでもなく、問答には興味がないから関与したくないといった様子。消しゴムをころころと転がしたり、窓の外をぼうっと眺めたり。問答が始まった途端に机に伏して寝てしまう者もいる。


「タダシくん、わかりましたか」


 先生は半ばにらむような目つきを返す。

 タダシは、「はぁい」とふてくされがちに折れて、立っていたところから席に着いた。


「やっとだよ」

「ほんと時間のムダよね」


 小声がひそひそと聞こえて教室がざわめき始める。先生がわざとらしく咳払いをすると、生徒たちは黙った。

 教科書の次のページをめくるよう先生が言う。

 これまでのお話に出てきた漢字や言葉の意味のおさらいだ。漢字を大きく黒板に書く先生の背中を見つめながら、タダシは顔をしかめていた。

 あそこで先生の言葉に納得したわけではないのだ。


(……いい宇宙人がいたっていいじゃんか)


 タダシは子供心にそう思うのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ