中3
中途半端にお腹へ詰めたら、かえってお腹が空いてしまった。
もちろん、定食屋のおじさんが食べさせてくれた量は、ゆうに普通の人の10人前くらいあったけれど、今の私のお腹にとっては中途半端な量だ。
膨らんだお腹をコートで隠しながら、ペンギンのように歩いて家へと帰る。
都内の女子校へ通うため親元を離れて、はや3年。一人暮らしなのをいいことに好き放題大食いしていたら、胃を膨らませるのが癖になってしまった。牛乳や安いお米を使っていた時期もあったけど、量も増えてきてお金が足りないので、この1年は水ばかりだ。
「今日は3本でいいかなー」
慣れた手つきで塩3グラムと砂糖40グラムを量り、2リットルのペットボトルに入れる。ガチャガチャと振って溶かせば、経口補水液の完成だ。砂糖を入れた方が美味しいと、親切な友人が教えてくれた。
ペットボトル2本を空にしたところで汗が噴き出してきたので、制服を脱いで楽な格好になる。
小3のときに始めた実験で満腹中枢が麻痺してしまったのか、みどりはそれ以来一般的な「満腹感」というものを感じたことがない。
脚の付け根が膨らみ始めたら腹八分で、汗が噴き出してきたらそろそろ限界。お腹が全然凹まなくなり、痛みでこれ以上入る気がしなくなったらおしまい、というのが、みどりにとっての満腹の指標である。
ゆっくりと立ち上がり、背筋を伸ばすと、食べ物が胴体の隙間を見つけたのか、下にさがって少し楽になった。はじめはお腹の上の方が膨らんで、次第に下へさがってくるのだ。
ちびりちびりと、皮膚が伸びて作られた胃の隙間へ、20分ほどかけて3本目の水を注ぎ込んだ。浅い息をしながら、みどりはいつものように、脱衣所で自分のお腹を確認する。皮膚の張りは痛いが、それを上回る征服感だ。こうしてみると、へそ回りよりもお腹の上の方が大きく張り出しているのがよく分かる。
脱衣所の体重計は、鏡越しに液晶を確認できる位置に置かれており、そっと上に乗ると液晶が動き始めた。
登録No.1・・・年齢 15歳・・・性別 女性・・・身長 152 cm・・・体重 62.3 kg・・・体脂肪率 エラー・・・
このところ、満腹になると体脂肪率は出ない。15 kgも食べ物が入っている身体の体脂肪率を、体重計も計算できずにいるのだろう。まあ、今朝はちゃんと 47.2 kg 22% と表示されていたから問題はない。
振られて落ち込んでいたはずだが、たくさん食べたら元気になった。やっぱり落ち込んだときは、やけ食いに限る。
今日もいい夢が見れそうだ。