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20歳(二人の秘密6)

「ねえ・・・ほんとに、もうやめようよ。あとは俺が食べるからさ・・・」


肩で浅い息をしながら「いただき…ます」と「ごちそう…さま」を繰り返しているみどりさんの脇腹をさすりながら、俺はそっと声をかけてみる。


全身にぐっしょりと汗をかいているみどりさんは、おなかが痛いからと言って20分ほど前に立ち上がり、壁に両手をつけて背筋を逸らせ、軽く開いた脚の間からその重そうな腹部を重力に任せて垂れ下がらせる体勢になっている。


俺はみどりさんの横に立って、彼女の求めるまま、その背骨一つ一つがはっきり触れるほど華奢な背中や、それとは対照的に横の方までパンパンに張り出したガチガチの胃袋などをさすっているわけだが、さきほどからみどりさんは、いただきますとごちそうさまを繰り返すばかりで、ほとんどバーガーに口をつけていない。半分残っているハンバーガーは俺の手の中で冷え切って、萎れかかってしまっていた。


「だめ・・・それは・・・私が食べたいの・・・」


上目遣いにこちらを振り返るみどりさんの頬は紅潮していて・・・だめだ。直視できないほどに可愛い。横から見ると妊娠したホルスタインみたいな胴体はなのに、このギャップは反則だと思う。


俺は少し手を止めて、みどりさんの後ろへ回る。Tシャツを胸の下までたくし上げているみどりさんを後ろから見下ろすと、余計な贅肉のないみどりさんの、背骨と背筋がくっきり見える。その下に大きく張り出した、膨らむだけ膨らんだお腹。これを何に例えたらいいのかは分からないが、小学校の頃教室で育てていた、タマゴから孵ったばかりのメダカ--栄養の入った卵黄をお腹にぶら下げたやつ--が、そういえば似たようなシルエットをしていたなといま思い出した。


「ねえ・・・なにやってるの? そのままさすっててよ・・・おなかの皮が痛いから・・・お願い・・・」


さっきからみどりさんは、さするのをやめると俺に懇願してくるようになった。当初は終始命令口調だったみどりさんが、ところどころ懇願口調になるのは役得な気がする。


「いやぁ、あらためて、後ろから見てもすごいなあ・・・って。どうしてこんな膨らむのか不思議だよ」


「・・・ほんと・・・だよね・・・どうして・・・こんなに・・・大きく・・・なっちゃったのかな?」


「どうして・・・って、自分でやったことでしょ?」


「それは・・・そうだけどさ・・・でも私だって・・・研究始めた頃は・・・こんなに大きくできるなんて・・・思わなかったんだよ。・・・そうだ、記録つけよう! 脱衣所まで・・・行くのしんどいから・・・持ってきてくれない・・・その・・・体重・・・計・・・」


体重をはかることに一瞬ためらいが生じたのか、戸惑った様子も可愛かった。


「そこの扉・・・右に入ったとこにあるから・・・」


女子の脱衣所へ入ることに一瞬気は引けたが、心配や期待をしたようなものはなく、脱衣所は綺麗に片付いていた。白とピンクの体重計は床の真ん中に置かれており、難なく見つけることができた。それをみどりさんの両足のすぐ左にセットする。


「1・・・2・・・3・・・。よっこい・・・しょ・・・」


自分のおなかの重さによろけるように、みどりさんは一瞬壁から手を離し、体重計の上に脚を置いた。華奢な脚も、おなかを抱えた両手もぷるぷると震え、体重計のデジタル表示がなかなか定まらない。


「お願い・・はやく・・・目盛り、呼んで」


おなかの膨らみがすさまじいせいで、みどりさんには体重計の表示が読めないようだ。


「そんなこと言われても、目盛りが定まらないから、ちょっと動かないで。てか、いつもどうやって確認してたの?」


「・・・鏡越しに・・・」


なるほど。それであの位置に体重計が置かれていたのだと俺は納得した。みどりさんは日常的に、ひとりで大きなお腹の重さを確認していたということだ。


「ななじゅう・・・はってん、きゅう・・・」


「・・・え? そんなに!?」


「どうしたの?」


「いや、わたし・・・今日そんなに食べたんだな・・・って・・・」


「いつもは?」


「私・・・今年のはじめの健康診断は・・・49kgなかったのよ・・・」


「多少、役にたった?」


「うん」


「そしたら、あの・・・分不相応なお願いかもなんだけど・・・みどりさん、僕とおつきあいしてもらえませんか?」


ずっと温めていた台詞を言った瞬間、みどりさんの表情が固まった。


「え!? え!? いや。。。なにそれ。今日10年ぶりに会ったとこなのに!? ば・・・ばっかじゃないの!?」


完全に失敗した・・・これで終わりだ。もうみどりさんの顔は見ることができない。


「ご、ごめんなさい!! 僕! 帰ります!!」


残り半分になった食べかけのハンバーガーを机の上に置き、荷物を慌ててつかんで扉を出ようとした俺の耳に、一瞬遅れて言葉が届く。


「ちょっとちょっと! ・・・つ、つきあうとか早すぎるけど、大食いの助手は続けてくれていいんだからねっ! てか、まだ半分残ってるし! もうちょっと、さすってくれてもいいんじゃないの!? ねえ!」

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