20歳(みどりの秘密1)
「私、どうしよう・・・あんなことを言っちゃったけど、戻ってきてくれるかなぁ・・・」
Tシャツでは隠しきれなくなったお腹をさすりつつ、みどりは一人つぶやく。大樹が買い物に出てからもう1時間。みどりはその間に、鍋を空にし、ふりかけご飯で1升ほどを平らげていた。
8年ぶりの再会。わざと素っ気なく応対したつもりだったが、失礼が過ぎたかもしれない。よく勘違いされるが、みどりは男性経験豊富な訳ではない。中高は女子校で出会いがなかったし、大学でも週末は、デートより大食いの方を選んでしまう自分がいる。前日までの限界を超えたパンパンの胃袋を携え、今にも破裂しそうなお腹を抱えつつ体重計に乗る時間が、みどりにとって至福のひとときだった。
学校の友人には決して見せられないコンプレックスだが、大食いしていないとき、みどりのお腹の皮膚はシワシワにたるんでいる。日々の拡張訓練で皮膚が伸びきってしまっているため、空腹時には皮膚が余ってしまうのだ。小学校3年の頃から毎日少しずつ時間をかけて引き延ばしてきたため、幸い肉割れや妊娠線のようにはなっていないが、海やプールでも頑なにビキニは拒否してきたし、温泉のある宿泊施設も何かと理由をつけて休んだり、入浴時間をずらしたりしてきた。
「そろそろ皺、なくなってきたかなぁ?」
少し猫背になってTシャツをめくり、お腹の様子を確認する。そこには妊婦のような張り出しがあり、おなかの皺はちょうどなくなりかけていた。長くスラッとした白い指で、みどりはそんなお腹の皮膚をつまんでみる。小学生の頃はこの程度で限界を迎え、皮膚や胃袋の張りで苦しんでいたが、今のみどりにとってこの程度は序の口。お腹の皮は薄い皮下脂肪とともにモチモチと伸びて「まだ余裕だよ、もっと詰め込んで!」と訴えているように見えた。大食いモードになったみどりが食事を止めるのは、この皮がピチピチに張り詰めて少しもつまめなくなったときだけだ。そのときは胃袋も大きく飛び出し、皮膚越しに詰め込んだ食べ物が透けて見えるような感じさえする。
「ま、心配してても仕方ないか。 まだ余裕だし、気長に待とう。 引き続き、いただきまーす!」
みどりはそう呟くと、もう一つの一升釜の蓋を開け、大きな丼に山盛りの白米をよそいはじめた。