20歳(自室)
「ふう・・・ふう・・・もうちょっと・・・入るかなあ・・・?」
空が白みかける朝の5時半、静かなアパートの一室で、「自由研究」の続きに勤しむ女子がいた。浅野みどり、20歳。11年前の自由研究で「たくさん食べると胃が大きくなるか」実験したところ、大食いの快感を忘れられずに今に至る。
壁にもたれかかっている彼女は全身ぐっしょりと汗をかいており、紺色のTシャツはぴったりと肌にはりついてめくれている。めくれたTシャツの下にのぞくのは、にわかには人間のものと信じられないような胴体の張り出しである。
大盛りピカタ定食と特盛りスタミナ丼、二郎系の大ラーメンを平らげ、チュニックの上からもお腹の膨らみが目立ち始めた彼女が部屋に帰ってきたのが22時半。既に普通の人の数人前を平らげたそのお腹の中へ、その後6時間近くもの間、彼女は食べ物を詰め込み続けていたらしい。1升炊きの炊飯器2台を交互に稼働させながら、特大のどんぶりにハヤシライスと盛り付けて黙々と頬張っていったところ、先にハヤシライスがなくなったようだ。空になった大鍋二つと、空の炊飯器1台、3合ほどのご飯が残った炊飯器1台が蓋を開けられたままで彼女の足下に転がっており、その横にある食べかけの丼には白米が数口分、大きなスプーンとともに残されていた。
彼女は浅い息をしながら、ゆっくりと背筋を反らす。胃袋が脚の付け根まで下がってきて前にぶら下がっているため、彼女は脚を開き気味にしてお腹を抱え込むように立っていた。154cmの彼女には決して釣り合わない腹部は、華奢な手足と相まって蟻や蜂などを連想させる。胃袋は正円ではなく、形容しがたい形にごつごつと張り出しており、彼女が姿勢を変えようとしても、もはやその形はほとんど変化しない。内圧がこれ以上ないほどに高まってカチカチになっており、胃の筋肉と腹部の皮膚、薄皮一枚で辛うじて支えられているようだ。
「うー、さすがに食べ過ぎた・・・痛い、けど気持ちいい!」
15分ほど時間を置いて、さらにもう数口食べ進め、丼の中身を空にしたところで、みどりはそっと炊飯器を閉めた。最後は痛くなることが分かっているのに、いつも抑制がきかず、横隔膜が押し上げられて呼吸が苦しくなるまで詰め込んでしまう。さすがに今日はここまでにしておくべきか--いくら「実験」を重ねたみどりでも、今の身体にあと3合の白米が押し込まれ得ないことは分かっていた。
容量が10kgを超えた頃から、胃壁が引き延ばされすぎたためか、嘔吐反射は起こらなくなっている。飲み物ならすぐに腸へ流せるが、食べ物はなかなかそうはいかない。お腹が楽になるには、まるまる1日かかるのが常だ。大食いの間興奮していた脳も、そろそろ眠いと信号を送っている。横になる余裕ができるまで、あと1時間ほどは、こうしてお腹を支えるか、風呂で水の浮力を利用して休まねばならない。
朝日差し込む脱衣所の中、ゆっくりとした動作で、みどりは風呂に水をはりはじめた。