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姫と侍女達の宴

あれやこれやと大騒ぎになった次の日。

一応は、平穏になった様に思えるが、俺を見る侍女の目が羨望の眼差しに変わっていたのだった。


「おはようございます、姫様」


まるで何もなかったかの様に、侍女長のアーニャが起こしにきた。


「おはよう」


同じ様に挨拶をして起きる。

カーテンは既に開いており、昨日と同じ様に良い天気だということが伺える。

ベッドから降り、大鏡の前に向かう。

何やら、背中がムズムズする。何かが絡みつく様な、変な雰囲気が背後から感じられる。

何気なく振り向き見ると、アーニャがこちらをジッと見ている。

アーニャだけじゃない、他の侍女も全員がこちらを見つめている。

その目は、キラキラと輝いているものから、トロンと蕩けた感じや、焦がれる様な熱い目線まで様々だ。


「「「「「おはようございます、姫様」」」」」


一斉に挨拶をする侍女達。昨日までと雰囲気が違うのは、その声に色々な抑揚というか、感情みたいなものが含まれているからだろうか?

しかも、明らかに昨日より支度の侍女の数が増えている様な気がする。


侍女達は、前と同じ様に髪を梳き、寝間着を脱がせ、ドレスを充てがい、装飾品を選んでいる。

だが、やはり昨日より熱心というか、侍女達がお互いに言い争っている姿も見える。

以前にも増して、姫度が高くなった姿になり、朝の挨拶の為に大広間へ向かった。



大広間の奥、謁見室の前にいる鎧姿の衛兵が扉を開く。

アーニャが、俺を謁見室へ誘うと。


「国王様へ、朝のご挨拶をお願いいたします」


そう言って、扉の外に下がっていってしまった。

できれば、一緒にいてほしかった。

何故だって?

だって、謁見室にいたのは国王だけでなく、魔族の王子ヴァゼルもいたからだ。


「国王陛下に至りましては、本日もご機嫌麗しゅうございます」


昨日と同じように挨拶をする。

くるりと、華麗に向きを変えヴァゼルにも挨拶をする。


「イロリ姫、ご機嫌麗しゅうございます。本日も、その美しい姿を拝見できたこと眼福にございます」


そういって、魔族の王子は深くお辞儀をする。


「ふむ、では、皆で朝食を摂るとするかのう。ヴァゼル殿も一緒にどうかのう?」


国王は昨日のこともあってか、嬉しそうな声でヴァゼルを朝食に誘っていた。


「ははっ、ありがたき幸せ!イロリ姫と共に朝食を摂れるとは、恐悦至極の思いです」


さて、問題はヴァゼルだけではないのだ。

大広間を抜け食堂に入ると、王妃と2人の姉姫がいた。

ヴァゼルは、王子なだけあって俺(イロリ姫)をエスコートして食堂に入る。


「ご機嫌麗しゅうございます。お母様、お姉様方」

「ごきげんよう〜、イロリちゃん〜」

「ごきげんよう、イロリ」

「ご機嫌よう、イロリちゃん」


あれ?普通だ。

おかしい、昨日の騒動の後、ネムリスとオルディナが俺に詰め寄り、深夜まで愚痴と嫉妬の大騒ぎだったので、今朝も面倒くさいだろうと腹を括っていたのに、拍子抜けだった。


ヴァゼルは既に挨拶済みだったようで、会釈をして席に着く。

侍女が気を利かせてなのか、わざわざ俺と対面になるようにセッティングしていたようだ。

俺も席に着くと、視線が刺さる。

やはり、ネムリスとオルディナは、面倒くさい状態のままだった。


朝食を食べつつも楽しく談笑している中、王妃がイロリのことを褒めちぎり、ヴァゼルにいかに優良物件の姫なのかをアピールしていた。

姉2人も褒めているようで、俺を軽く貶めていたようだが。

ヴァゼルは、完璧な者なんていない、イロリは自分が支えると訴えると、逆に好印象になっていた。


「思っていた以上に〜、素晴らしい殿方なのね〜」

「えぇ、あの様な殿方に見初められたイロリが羨ましい反面、安心している自分がいます」


朝食が終わる頃には、姉姫達から嫉妬の気配は無くなっていた。

ヴァゼルは、国王と貿易について色々と話し合いがあると、大臣達に連れられていった。

かくいう俺は、姉姫達に手を引かれ談話室に連れ込まれ詰め寄られているのだ。


「あの、お姉様方、確かにヴァゼル様から求婚はされましたが、まだお受けするとは言ってませんよ。だいたい、急にそんなこと言われても、はいそうですかと返事できるものではないでしょう?国家間の問題でもあるのですよ。まず、私の一存でことを進めることがでますでしょうか?」


そう言い返すが。


「この申し出を断ったりしたら〜、魔族の国との貿易や〜、素晴らしい殿方との交流が無くなってしまう可能性もあるのですよ〜」

「あなたが成婚となれば、この国に利益をもたらし、国民の生活が潤うのよ。さらに、私達にも素晴らしい好機が訪れる可能性も高くなるの!」


おいおい、正論言っている様で自分達の為にってことじゃないか。

なるほど、嫉妬の気配が無くなった理由が分かった。姉姫達はこれを機に、自分達も縁を取り持ってもらおうという魂胆だな。

そんな見え透いた思惑が魔族に通用するかね?


「お姉様方、本音がダダ漏れですわよ」

「い、いや、その、ねぇ?」

「そ、そんなことを微塵も思ってませんわよ〜。殿方を紹介してもらおうなんてね〜?」


二人とも、しどろもどろになりながらも言い訳をしてくる。

それを見て侍女達がニヤニヤしている。

しかし、なんで談話室に姫付きの侍女も全員集まってるんだ?

いくら、広さがあっても数十人も集まったら狭いだろうが!

オルディナの侍女は、動くたびに鎧がガチャガチャうるさいし。


「私たちのことは気にしないでください。いえいえ、姫様達の甘酸っぱく背中がむずむずするような話を聞きたいなど微塵も思っておりません」


はじめにそう言ってきたのは、ネムリスの侍女長で、確か名前はカルシェだ。

なんとなく、ネムリスと似た者同士って感じがする。


「我々は姫様方の警護が仕事なので、ここで話されたことは聞いていないこととなっています」


そう言って、オルディナの侍女長というか騎士長、確かマーリルだったかな?が、いかにも興味がありますという顔をしていて墓穴を掘る。


「まぁまぁ、でもイロリ姫様も隅に置けないですね。魔族様の王子に見初められるなんて、魔性の女なのです」


俺の侍女長アーニャが、煽る様な言い方で話に入ってくる。

侍女長達がそんなこと言うから、他の侍女達があれやこれやと話しだし、部屋の中が賑やかになってきた。

勝手に、お茶とお菓子を用意し始め、腰を据えて話をするつもりだ。

そういうところは行動が早く、本当に優秀なのかを疑問に思ってしまう。


結局、途中から王妃と王妃付きの侍女達も参加してきて、夜更けまで淑女の時間が終わることはなかったのであった。

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