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おっさんがロリ姫様になった日

頭が痛い、ズキズキとこめかみ辺りが疼く。

体も熱くて、汗でベタベタするのが分かる。

寝苦しいが起きたくないので、このまま二度寝しようとした。


「おはようございます、姫様」


だが、それを許さない存在がいたようだ。

カーテンを開けたのか、瞼の上から光を感じる。

パタパタと歩く音が聞こえる。

ただ、その数は1人2人ではない。

少しずつ騒がしくなって、もう一度声がした。


「「「「おはようございます、姫様」」」」


綺麗に揃った声が頭に響く。

俺を起こそうと布団が剥がされる。

仕方なく目を開けると、ぼんやりとした視界に数人の女の人が見える。


「おはよう」


俺も、そう挨拶をする。

あれ?何か違和感がある。

声が変だ。

いまだ働かない頭で、そんなことを考えながら女の人に誘われて大きな鏡の前に連れて行かれた。

その大きな鏡に映っていたのは、なんとも可愛い少女の姿・・・女の子!?

少しずつ頭が働き始めた。

よく考えたら、さっきから姫様って呼ばれていることに気がついた。


「なんで俺、お姫様になってんだ?」


鏡に映っている少女がそう呟いた。



俺は何もしないで立ってるだけで、たぶん侍女であろう女の人達が勝手に身嗜みを整えてくれた。

櫛で髪を梳いてくれて、寝間着を脱がせ、何着も用意したドレスを充てがい、可愛らしい装飾品を選ぶ。

いつの間にか、鏡に映っていた少女が、本当のお姫様のような姿に変わっていた。


「朝食の準備ができていますので、ご案内いたします」


そう言って、侍女の1人が部屋の扉の前で待機している。


「ありがとう」


部屋を出ようとすると、既に侍女達が部屋の扉前で深くお辞儀をしていた。

あぁ、本当に自分はお姫様なんだな。

再びそう思いながら、侍女に連れらてたのは大広間だった。


「国王様に朝のご挨拶を」


侍女がそう言うと、大広間の奥に立つ衛兵らしき鎧姿が後ろの扉を開けるのだった。

扉の中は謁見室になっているのか、中央の玉座に佇む荘厳な雰囲気の老紳士がいる。

たぶん、あれが国王なのだろう。

とにかく中に入り玉座の前で挨拶をする。


「国王陛下に至りましては、本日もご機嫌麗しゅうございます」


ドレスを指先で軽く摘み上げ礼をする。

なぜか、俺は当たり前の如く動作を行う。

いまだに混乱しているが、頭と体が覚えているのか自然に振る舞うことができた。

「うむ、良きに計らえ」

と、聞こえるものだと思っていた矢先。


「おはよう、イロリ姫。今日も天気がいいのう」


王様の口から出た言葉は、些か軽薄なものだった。


「そんなに畏まらんでくれ、我が娘よ。挨拶なんて、おはようで十分であろう」


今、気軽な挨拶で国王は俺の名を呼んでいた。

イロリ姫。

頭の中で、その名前を反芻すると少しずつ記憶が鮮明になってきた。


《アヴィレイオル=クラデリカ=イロリ》


それが、俺の名前だ。


アヴィレイオル王国第3王女、それが俺の肩書きでもある。


「ふむ、2人の姉姫も既に挨拶は済んでおる。王妃と共に、先に食堂で待っておるだろう。今日は、一緒に朝食を摂るとするかのう」


そう言うと、国王付きであろう侍女達が何処からともなく現れ、国王を奥の方にに誘って行った。

とりあえず、俺も食堂に向かう。


「ご機嫌麗しゅうございます。お母様、お姉様方」

「ごきげんよう、イロリちゃん」

「おはよう、イロリ」

「ご機嫌よう、イロリちゃん」


食堂に入ると、大きく長いテーブルの端に2人の姉姫がいた。

反対側の奥には王妃でもある、お母様が座っている。

王妃と、それぞれの姉姫と挨拶を交わし、自分の席に着く。

少しして軽装になった国王が、テーブルの一番奥の席に着く。

そのまま、静かな朝食と談話を楽しんだ。



「さて、一度この状況を整理しよう」


自室に戻った俺は独り言を呟き、今の不安を吐き出す。

とにかく、俺がこの国の王女であることは理解した。

少しずつだが、イロリ姫の記憶が戻ってきたこともあり、王族としての礼儀や生活などは大丈夫とは思うが。


「俺は誰だ?」


分からん、記憶と体はイロリ姫だということは確かなんだが、この俺って人格が解らない。

イロリ姫は姫ってだけあって、幼気な少女である。

だが、俺は男なんだよなぁ。

解離性同一性障害、いわゆる多重人格なのか?


「いやいやいや、そんなことあるわけない。俺は、俺だがイロリ姫だって自覚がある」


結局答えは出ないままに時間だけが過ぎていった。

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