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203高地奪取(3)

……………………


「全機、前方の陣地を叩け。更地にする勢いで砲撃してやれ」

『了解ッス! あたしもドンドンやるッスよ!』


 クラウスは命じ、ヘルマたちが了承して返した。


 ヴェアヴォルフ戦闘団の魔装騎士が一斉にアーバーダーン要塞の陣地に向けて砲撃し、陣地がオレンジ色の炎に包まれる。要塞のトーチカの中にあった機関銃も、対装甲砲も破壊された。


 だが、帝国植民地軍もただでアーバーダーンという要衝を渡すまいと必死に抵抗してきた。


「撃て! 撃ちまくれ! 敵の魔装騎士は不死身ではない! 当てれば落ちる! 中央アジアでの経験を無駄にするな! 撃て!」


 ここに配備されている帝国植民地軍の兵士は、本来アーバーダーン要塞を防衛しているものと、今回のサウード侵攻に当たって中央アジアで王国と戦っていたものを引き抜いて配備されたものがいる。


 今回、203高地の正面に配置されているのは後者だ。中央アジアの激戦地で実戦経験を積んだ部隊が、クラウスたちを迎え撃っている。


「クソ。敵の魔装騎士は新型ですよ。これまでの連中はこの距離で撃破できたっていうのに連中は平然と進んでくる。これじゃどうしようもない」

「だからといって連中を進ませるわけにはいかん。新型だろうが、スレイプニル型だろうが、この先は立ち入り禁止だ。この先にある高地を取られると、こっちの艦隊が敵の砲兵隊から砲撃を浴びることになる」


 口径57ミリ対装甲砲を操る兵士が愚痴るのに、上官がそう告げて返す。


 203高地の重要性は帝国植民地軍も理解している。そこから帝国海軍バーラト海艦隊の主力艦が停泊する港湾部が丸見えになるのだと。


 故にこの203高地正面の守りは厳重だ。停泊している艦艇から取り外した砲や機関銃が据えられ、トーチカと掩体壕には逆襲のための兵士たちと魔装騎士が待機している。彼らは203高地が奪取されたら取り返すつもりだ。


 だが、その前に帝国植民地軍は203高地を守り抜く構えだった。帝国海軍も停泊している艦艇から陸戦隊を編成し、アーバーダーン要塞に配備している。海軍としても自分たちの港であるアーバーダーンが落とされるのは困るということだ。


「どこかに弱点があるはずだ。ハッチか、または関節か。狙いを定めて叩くぞ」


 対装甲砲の指揮官はそう告げ、砲口を迫りくるヴェアヴォルフ戦闘団の魔装騎士に向ける。ヴェアヴォルフ戦闘団の魔装騎士は後続の歩兵部隊の盾となり、着実にアーバーダーン要塞を攻略していた。


「歩兵が魔装騎士の前方を進んでいる。連中が俺たちの様子を知らせているな。まずはあいつらを叩かなければ話にならんぞ。機関銃の準備はできているか?」

「機関銃班は準備できています」


 対装甲砲の指揮官がナディヤたちに気づいて尋ねるのに、帝国植民地軍の兵士がエーテル通信機を片手にそう報告した。


「なら、機関銃に掃射させろ。連中もこれまで攻めてきた連中と同じように、死体の山の一員に変えてやれ」


 対装甲砲の指揮官はそう命じ、別のトーチカで待機していた機関銃班がナディヤたちに狙いを定めた。


 掃射。けたたましい発砲音が響き渡り、共和国植民地軍の攻略部隊が幾重にも掘った塹壕と未だに回収されていない死体でできた壁の向こうに向けて銃弾が降り注ぐ。


 ナディヤたちは瞬時に伏せ、死体を盾にして身を守った。運の悪かった偵察分隊の兵士が銃弾を受け、血を流しながら地面に倒れる。致命傷ではないが、偵察分隊がこれ以上前進することは不可能だろう。これ以上無理に進めば、機関銃が猛威を振るい、偵察分隊は皆殺しにされる。


「機関銃班、敵の歩兵部隊は食い止めました」

「よろしい。後は後続の歩兵どもから連中の魔装騎士を引きはがすことだ。そう、後は我々の仕事だ」


 ナディヤたちが牽制されたのに、対装甲砲の指揮官は頷いて返す。


 ヴェアヴォルフ戦闘団はナディヤたち偵察分隊が機関銃で釘付けにされても前進を止めず、対装甲砲の据え付けられたトーチカに向けて前進を続ける。今のところ、彼らが対装甲砲に気づいた気配はない。


「彼我の距離500!」

「よし、撃て!」


 そして、魔装騎士と対装甲砲の距離が500メートルとなるのに、対装甲砲の指揮官が大声で砲撃を命じた。


 中央アジアの戦争では、この距離ならば確実に敵の魔装騎士を仕留められた。王国が装備するサイクロプス型も、エリス型も、この口径57ミリ対装甲砲で十二分に撃破することができた。


 これまで共和国植民地軍が投入してきたスレイプニル型もそうだ。スレイプニル型は、もっと遠い距離──距離1000メートルでも撃破できたが、今回の魔装騎士は新型だ。用心しておくに越したことはない。


 砲声が響き、いくつものトーチカに潜んだ対装甲砲が一斉に火を噴く。


 今は共和国植民地軍の砲兵隊の砲撃という妨害もない。対装甲砲は慎重に狙いを定め、ヴェアヴォルフ戦闘団の魔装騎士に向けて砲弾を放ち、それはヴェアヴォルフ戦闘団の魔装騎士に直撃した。


 だが──。


「効果なし、だと……。この距離で、そんな馬鹿な……」


 対装甲砲が放った砲弾はヴェアヴォルフ戦闘団の魔装騎士に命中したが、それは一切の効果を発揮しなかった。


 ヴェアヴォルフ戦闘団のニーズヘッグ型魔装騎士は帝国植民地軍の砲撃を豆鉄砲だとあざ笑うように前進を続け、後続の歩兵部隊も友軍の死体を乗り越えてトーチカに迫ってきている。


「指揮官殿! どうなさるのですか!」

「砲撃を続けろ! 機体のハッチは機体中央にあるはずだ! そこを狙え!」


 うろたえる兵士に指揮官が叫ぶ。


 だが、全ては無駄だ。


 ニーズヘッグ型の強化された装甲は、彼らが撃破してきたスレイプニル型とは比べ物にならない。口径57ミリの対装甲砲など蚊が刺すようなもので、生体装甲リビング・アーマーが完全に受け止め、受け流す。


「こ、このままでは……」


 対装甲砲の指揮官の額に冷たい汗が流れる。


 こちらの対装甲砲では敵を撃破できない。敵はこれまで相手にしてきたスレイプニル型とは大いに異なる。敵の装甲は重厚で、こちらの攻撃は全て弾かれてしまう。敵の弱点を狙おうにも戦訓が少なすぎて、どこを狙えばいいのか分からない。


「指揮官殿!」

「ええい! 兎に角、撃ち続けろ! 敵の魔装騎士にもどこかに弱点があるはずだ! 弱点の存在しない魔装騎士など存在しない! こちらの口径57ミリ対装甲砲はこれまでいくつもの魔装騎士を撃破してきた! 今回もそうなるはずだ!」


 部下が縋るように告げるのに、指揮官が逆上したようにそう告げる。


 これは誤りだ。帝国植民地軍が相手にしていたのはサイクロプス型という第1世代で碌な装甲のない魔装騎士と、エリス型とスレイプニル型という第1世代の装甲に毛が生えた程度の魔装騎士だ。


 対するクラウスのヴェアヴォルフ戦闘団が装備するのは第3世代。第2世代の反省を活かし、装甲強化に重点を置いた機体だ。


 故に帝国植民地軍がいくら砲撃を浴びせても無意味だった。ヴェアヴォルフ戦闘団の魔装騎士は戦場において絶対の強者として振る舞い、いかなる攻撃を無力化し、帝国植民地軍を蹂躙していった。


 これが第3世代の力だ。これまでの対装甲砲ではどうしようもならず、戦場において王者のように君臨するのが第3世代だ。


「砲弾を装填しろ! 敵を食い止めなければ、我々は敗北するぞ!」


 指揮官はそう激と飛ばし、帝国植民地軍の兵士は次々に砲弾を込める。


 だが、その全てが無駄に終わった。ヴェアヴォルフ戦闘団のニーズヘッグ型魔装騎士は戦場の王者として君臨し、居場所の分かったトーチカに向けて魔弾のように正確な砲撃を浴びせかけてくる。これでは帝国植民地軍にできることはない。


「もうだめだ! 敵は不死身だ! 撃破できるはずがない!」


 対装甲砲の兵士は混乱状態に陥り、対装甲砲を捨てて、トーチカから逃げ出した。


「臆病者め! 我々帝国植民地軍は何があろうとも降伏など──」


 指揮官が逃げ出した兵に悪態をついていたとき、トーチカの位置を把握したヴェアヴォルフ戦闘団からの砲撃が浴びせかけられた。


 まずは対装甲砲が榴弾で吹き飛ばされ、機銃陣地が焼夷弾で焼き払われる。これによって帝国植民地軍が決死の覚悟で守ろうとしてきたアーバーダーン要塞は陥落に向けて転がり落ちることとなる。


 そして、戦闘開始から6時間後。


 ついにヴェアヴォルフ戦闘団と第16植民地連隊は203高地を奪取した。既に重野砲連隊の砲撃準備は完了しており、いつでも帝国海軍バーラト海艦隊の艦艇に砲撃を浴びせることができることとなった。


 これまで共和国植民地軍第5軍が3週間の攻めあぐねていた場所を、クラウスたちは僅かに6時間で奪取した。これはやはりクラウスのヴェアヴォルフ戦闘団が、共和国植民地軍において有力な部隊であることを証明している。


「これまでは上々。後は敵がどう動くかだ。連中も要衝をただでは渡さないだろう」


 帝国植民地軍をアーバーダーン要塞は203高地から駆逐したクラウスは、次の戦いを予期してそのための準備を始める。


「観測班は既に配置についたか?」

『まだです! 現在前進中!』


 203高地から艦隊を砲撃するための砲兵隊の観測部隊は、まだ第16植民地連隊の後方から前進している途中だった。


「鈍い連中だ。さっさと仕事をしないと──」


 クラウスは203高地から眼下に広がる景色を眺める。


「艦隊が逃げ出すぞ」


 アーバーダーンの港湾部には帝国海軍バーラト海艦隊の主力艦──ツェサレーヴィチ、レトヴィザン、ポベーダ、ペレスヴェート、セヴァストポリ、ポルタヴァの6隻の戦艦が停泊していた。


 クラウスは艦隊が逃げ出すものだと思っていたが、帝国海軍はアーバーダーンに留まっていた。彼らは副砲や、機銃を取り外して要塞に設置し、水兵たちを陸に上げて陸戦隊として配備していた。


 帝国海軍はアーバーダーンを渡さない。その固い意志を示すように、艦隊は港から逃げ出さず、防衛のために動いていた。


 だが、これもどこまで続くものかは分からない。帝国海軍は203高地が奪取されたと知ったら、港からの脱出を始めるかもしれない。彼らは艦隊を保全することを優先し、母港を見捨てて逃げ出す恐れがある。


 故に艦隊が停泊している間に観測班を配置し、停泊している艦隊を重野砲連隊で砲撃し、撃破しなくてはなければならない。


「アーバーダーンそのものはここを奪ったことで無力化されたと言っていいが、艦隊を撃破した方が交渉で優位になる。撃沈せずともドック入りが必要になるほどの損害が与えられれば上等だ」


 クラウスはそう告げて、203高地から帝国海軍バーラト海艦隊の主力艦を眺める。


 戦艦の主砲が瞬いたのは次の瞬間だった。


「チイッ。敵も必死だな」


 戦艦の主砲が放たれ、榴弾が203高地に着弾した。


 帝国海軍はこのアーバーダーンを渡すまいと戦艦を動員した。奪われた203高地に向けて戦艦が主砲で砲撃を開始し、防護巡洋艦や駆逐艦も次々に砲弾の雨を高地に降り注がせてくる。砲弾で高地そのものを崩壊させるような勢いだ。


……………………

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