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203高地奪取(2)

……………………


 第七次アーバーダーン要塞総攻撃。


 共和国植民地軍によるアーバーダーン要塞への7回目の総攻撃が実施された。


 共和国植民地軍は既に6回のアーバーダーン要塞への攻撃を行っているが、進めた距離は僅かに1、2キロメートルに留まっている。彼らは猛烈な要塞砲と対装甲砲の砲撃を浴び、機関銃の掃射を受け、死体の山を積み重ねるだけで終わっていた。


 辛うじて前進することに成功した部隊は、アーバーダーン要塞の周囲に塹壕を掘り、その塹壕の中で要塞砲の砲撃を前に蹲っていた。


 そんな状況で共和国植民地軍第5軍は7回目の総攻撃を仕掛けた。


 既に敵の永久要塞に砲撃が有効ではないことは分かっている。共和国植民地軍の砲兵隊が標準装備している105ミリ野砲の砲撃はまるで意味がなく、虎の子の28センチ重野砲の直撃を与えなければ意味がないのだと。


 だが、それでも砲兵隊の砲撃は行われる。砲兵隊の砲撃では永久要塞を崩壊させることはできずとも、敵を陣地の中に押し込めることはできる。継続した砲撃で敵を陣地の中から顔を出すことができないようにし、そこを魔装騎士と歩兵部隊が突くのだ。


『すげー砲撃ッスね。これなら敵もバラバラじゃないッスか?』


 共和国植民地軍の砲兵隊が、それだけでアーバーダーン要塞を粉々にしそうなほどの砲撃を加えていくのを見て、ヘルマがそのように呟く。


「馬鹿を言え。砲撃でケリがついていたら、俺たちに泣きついたりはしない。砲撃は気休めのようなものだ。砲撃を叩き込んでいる間は敵の砲兵隊も沈黙する程度のな」


 クラウスはそのように告げて、自分たちの配置を確認する。


 クラウスたちはバシリウスが下した命令通りに203高地の前面に展開している。魔装騎士大隊56体とローゼの装甲猟兵中隊18体は、魔装騎士大隊が歩兵部隊の盾となるために前方に展開し、装甲猟兵中隊は後方で睨みを利かせている。


「さて、俺たちの仕事は203高地を奪取することだ。歩兵部隊──第16植民地連隊と連携して203高地まで前進し、こちらの重野砲連隊がアーバーダーンに停泊する帝国海軍バーラト海艦隊を砲撃できるようにする」


 作戦は以前から変わっていない。


 アーバーダーンの港湾部が見渡せる203高地を奪取し、そこを観測地点として帝国海軍バーラト海艦隊の主力艦に重野砲連隊が砲撃を加える。そのことにとってアーバーダーンを奪取しないせよ、無力化し、交渉において帝国に譲歩を迫るのだ。


「各機。歩兵部隊を適切に援護しろ。歩兵部隊もこちらを援護するはずだ。この戦いは互いに連携しなければ勝利は手に入らないからな」

『了解』


 アーバーダーン要塞にはコンクリートで強化された永久要塞に対装甲砲がハリネズミのように展開している。その対装甲砲を無力化するには、歩兵部隊の援護が不可欠だ。


 そして、歩兵部隊にとって脅威である機関銃陣地を叩き潰すには魔装騎士の力が必要になる。魔装騎士が文字通り盾になって、歩兵部隊の前進を援護するのだ。


『前進命令です、キンスキー中佐』

「よろしい。前進だ」


 そして、ついにクラウスのヴェアヴォルフ戦闘団に前進命令が下された。


「全機、前進。ここで勝利を勝ち取るぞ。俺たちの更なる金のために!」

『応っ!』


 クラウスの命令に部下たちが応じ、魔装騎士が前進を開始した。


「第16植民地連隊、前進! 戦友たちの死を無駄にするな!」

「了解!」


 ヴェアヴォルフ戦闘団の前進に続いて、第16植民地連隊が前進する。第16植民地連隊はアーバーダーン要塞攻略において、既に少なくない損害を出しているが、補充を受けて最低限の戦闘力は維持している。


「さて、どう出てくる」


 クラウスは魔装騎士の操縦席から、前方に広がる幾度にも渡った猛烈な砲撃で荒れ果てたアーバーダーン要塞を見つめる。


 要塞は今のところ沈黙しているように見える。要塞砲も、対装甲砲も、友軍の砲撃で牽制されて砲撃してくる気配はない。


 だが、第16植民地連隊の兵士たちは慎重だ。彼らは今までも敵が友軍の砲火で沈黙しているように思われて、不意を打つように攻撃してくることを知っていた。友軍の砲火が途切れた瞬間に猛烈な砲撃を浴びせかけてくるのだと。


「ナディヤ。そちらで状況は掴めているか?」


 要塞に向けてクラウスたちがじわじわと前進する中、クラウスは偵察分隊を率いるナディヤに向けて通信を行った。


『ああ。前方の様子は掴めている。今は砲撃のためか敵も沈黙している。これだけの砲火を浴びせても崩せなかったとは、敵の陣地は予想以上に固いようだな』


 ナディヤの偵察分隊は軽装備でアーバーダーン要塞の偵察を行っている。クラウスたちの前方に展開し、地上からつぶさにアーバーダーン要塞の様子を監視し、クラウスに報告していた。


「あれほどの要塞を砲撃で落とせないのは予想済みだ。あの参謀は28センチの砲を持ち出せば崩せると踏んでいたようだが、直撃させでもしない限りは効果はあるまいさ」


 クラウスはアーバーダーン要塞が砲撃では落ちないと理解していたようだ。


「敵の要塞砲と対装甲砲には警戒してくれ。それが一番の脅威だ。敵が最新の対装甲砲を持ち出していたら、こっちの装甲は抜かれる。帝国も既に口径76.2ミリの対装甲砲を開発していると聞く。そういうのが出てきたら面倒だ」


 帝国は従来の口径57ミリ対装甲砲の後継として、より対装甲能力の高い口径76.2ミリ対装甲砲を開発していた。それは次世代の魔装騎士の突撃砲に搭載される予定であり、帝国本国軍では対装甲部隊に配備されている。


 クラウスたちが装備するニーズヘッグ型魔装騎士は口径57ミリ対装甲砲に対してかなりの防御力を有しているが、口径76.2ミリ対装甲砲に対してはその装甲を抜かれる可能性があった。故にクラウスたちも第3世代を装備しているとは言え、無敵ではない。


「それから無茶はするな。この要塞は血を吸い過ぎている。敵の抵抗があるようならば、前進は停止して後退しろ。後退しても責めることはない。俺も優秀な偵察分隊を失いたくはないからな」

『理解した。無茶はしない。だが、可能な限りは前進する。それが私の役割だからな』


 クラウスが告げるのに、ナディヤが小さく笑って返した。


「ああ。頼んだぞ。第16植民地連隊は後ろから来ている。前方を監視してくれるのはお前たちだけだ」


 クラウスはそう告げると、再び荒れ果てたアーバーダーン要塞に目を光らせる。


 クラウスたちヴェアヴォルフ戦闘団は第16植民地連隊の盾となって、アーバーダーン要塞を前進する。共和国植民地軍の砲兵隊は未だに激しい砲撃を加えており、ズンズンと着弾音が響いて、土煙がもうもうと巻き上がっていた。


 これならば砲撃だけで要塞を崩せそうであるが、これまでもこれぐらいの砲撃は加えてきた。だが、砲撃ではアーバーダーン要塞は落とせなかった。カルロスも、バシリウスも、その点を読み間違い、アーバーダーン要塞の前に死体の山を積み重ねたのだ。


「結構な砲撃だ。砲弾が尽きなければいいんだが」


 クラウスは帝国植民地軍の陣地に猛烈な砲撃が加えられているのを見て、感心したようにそう呟く。


 クラウスは砲撃そのものは否定していない。砲撃は確かに永久要塞を破壊することはできないだろうが、要塞に籠る敵を牽制することはできる。砲撃が降り注いでいる間は、敵も自由には動けない。


「だが、結局は植民地軍の火力だな。4個師団が突入しているのに、これっぽちの砲撃とは。師団に含まれる砲兵隊の規模が小さ過ぎる。確か、1個師団に2個大隊だったか。少なくとも1個連隊──3個大隊はほしいところだが」


 共和国植民地軍の編成では歩兵師団は3個歩兵連隊を中核とし、2個砲兵大隊が支援に当たるようになっている。3個歩兵連隊──3000名を支援するのにたったの2個砲兵大隊──24門では、確かに規模に不安があるというものだ。


 今は師団から独立した重野砲連隊も支援に当たっているが、やはり植民地軍の編成は同規模の他国の植民地軍を相手にするか、反発する現地住民を相手にするかの規模しかないというところだろう。


『クラウス。前方2時の方向に対装甲砲だ。砲兵が砲撃を加えたが、生き残ったようだ』


 と、クラウスがそんなことを考えている間に前方を進むナディヤが帝国植民地軍の対装甲砲を発見した。


「こちらでも見つけた。トーチカの中に潜んでいるな。砲兵の砲撃であれを叩くのはことだろう。完全にコンクリートで固められてやがる」


 クラウスも敵の対装甲砲を発見した。対装甲砲はコンクリートでできたトーチカの中に潜んでおり、砲口をクラウスたちに向け、砲撃の嵐の中で狙いを定めている。


「だが、あれは57ミリだ。こちらの装甲は耐えられる」


 帝国植民地軍がトーチカから狙っているのは口径57ミリ対装甲砲だ。クラウスたちの装備するニーズヘッグ型魔装騎士の装甲ならば、距離600メートルでも弾くことができる。


 しかし、帝国植民地軍の兵士はそれを知らないのか、まだ狙いをつけているクラウスたちとの距離が1000メートルは離れている時点で砲撃を開始した。砲口が瞬き、砲撃の着弾音が激しく響く中で砲声が木霊する。


「馬鹿が。無駄なことを」


 クラウスは帝国植民地軍が砲撃を行うのを鼻で笑った。


 砲撃は1発目が明後日の方向に飛び去り、地面に命中して土煙が湧き上がる。共和国植民地軍の砲撃が牽制になっているのか、敵は満足に狙いを定められずにいるようだ。


「さて、こちらもスコアを稼がせてもらうか」


 クラウスは歩兵部隊の盾となりながら、ゆっくりとした速度で前進し、口径75ミリ突撃砲でトーチカに狙いをつける。


 砲撃。クラウスは操縦席で引き金を引き、突撃砲が高らかと砲声を響かせて榴弾をトーチカに向けて放つ。


 クラウスの放った榴弾は砲兵隊が砲撃を浴びせかける中を飛翔し、トーチカの窓からトーチカ内に突っ込んだ。この一撃の砲撃でトーチカの内部からオレンジ色の炎が噴き出し、対装甲砲は沈黙した。


 砲兵隊の砲撃はトーチカの頑丈な天井に榴弾を降り注がせるだけだったが、クラウスの砲撃は水平方向からトーチカの開けた窓を狙って突っ込ませるものだ。砲兵隊の間接砲撃ではアーバーダーン要塞を落とせないが、魔装騎士の直接砲撃ならば頑丈な要塞も崩すことが不可能ではなくなる。


『司令部より各部隊。砲兵隊は30秒後に砲撃を終える』


 そして、ついに共和国植民地軍の砲撃も終わるときがきた。共和国植民地軍も砲弾には限りがあり、無制限に砲撃を行うわけにはいかないのだ。まして、今回の総攻撃でケリがつくという保証がないのであればなおのこと。


「ヴェアヴォルフ・ワンより各機。砲兵隊のお仕事はそろそろ終わりだ。これからは敵も本気で狙ってくるぞ。要塞砲も、対装甲砲もな。こんなところで死んでくれるなよ、紳士淑女諸君」


 クラウスはやや険しい表情でそう告げると、機体を更に前方に押し進める。


『了解ッス。ここは地獄のようッスね。そこら中に死体がそのままで、そこら中に砲撃の跡。そして、自分たちを殺そうと思っている連中が山ほど待ち構えている、と。酷いものッスよ、全く』


 ヘルマはそう告げて、肩を竦めた。


 ヘルマを含めたクラウスの部下たちも前進を続けている。ヴェアヴォルフ戦闘団は第16植民地連隊の前進を支援するために広く広がっていた。だが、2体1組の原則は崩さず、クラウスの魔装騎士はヘルマが援護している。


『気を付けろ、クラウス。前方に敵の陣地が複数だ。対装甲砲はまだ確認できないが、何かしらの砲が潜んでいる可能性があるぞ』


 着々とクラウスたちが前進する中で、ナディヤが声を上げた。


「ああ。こちらでも見えている。面倒な要塞だ。帝国の連中はパラノイアのように陣地を拵えている。これはいくら砲兵隊で砲撃しても落とせないし、魔装騎士を突っ込ませても落とせないし、歩兵部隊を特攻させても落とせないだろう」


 クラウスはフウと息を吐くと、前方に広がる数多の陣地を眺める。


 帝国はこのアーバーダーンをどうやってでも守るつもりのようで、幾重ものコンクリート製の陣地が用意され、何門もの砲が据え付けられていた。


『だけれど、あたしたちなら落とせるッスね』

「その通り。俺たちなら落とせる。この3週間で出た被害をお返しするとしよう」


 ヘルマが上機嫌に告げるのに、クラウスがニイッと笑って返した。


「俺たちが歩兵の盾となり、歩兵の連中を203高地まで導く。203高地に到着すれば、帝国海軍バーラト海艦隊もこのアーバーダーンから追い出されることになるだろう」


 クラウスは帝国海軍バーラト海艦隊を撃滅するとは言わなかった。何せ、帝国海軍は自由にアーバーダーンから出港できるのだ。いくら共和国植民地軍が艦隊を観測できる203高地を確保し、砲撃を行おうとしても、艦隊は逃げ出してしまうことが可能だ。


「まずは敵の陣地を沈黙させることだ。据え付けられているのは機関銃にせよ、対装甲砲にせよ、叩かなければ前進できない」


 クラウスはそう告げて突撃砲の砲口を前方のトーチカに向ける。


 だが、クラウスが砲撃するよりも早く帝国植民地軍が砲撃を加えてきた。トーチカがチカリと光り、砲声が響く。そして、砲弾がヴェアヴォルフ戦闘団の魔装騎士めがけて飛翔してきた。


「ヴェアヴォルフ・フォー。大丈夫か?」

『大丈夫です。弾きました。これから反撃しますよ』


 砲撃の後に、クラウスがすぐさま被弾した部下に連絡を取るのに、クラウスの部下が応答した。


 その応答後、クラウスの部下が自分を狙ってきたトーチカに向けて砲撃を叩き込む。弾種は榴弾で、クラウスの砲撃と同じようにトーチカの窓から中に飛び込むと内部で炸裂した。


「上等。俺の部隊の砲撃の腕前は植民地軍でも最高のものだろう」


 狭いトーチカの窓を狙って見事に砲撃を当てた自分の部下に対して、クラウスが満足そうに頷いた。


……………………

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