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203高地奪取

……………………


 ──203高地奪取



 共和国植民地軍第5軍がアーバーダーン要塞攻略を開始してから3週間。未だにアーバーダーン要塞は陥落せず、共和国植民地軍の血を吸っている。


 そんな第5軍の司令部で動きがあった。


「誰かっ!」


 第5軍の司令部はアーバーダーン要塞の前方に展開していた。第5軍によるアーバーダーン要塞攻略作戦は遅々として進んでいなかったが、それでも作戦が進んでいるのだと兵士たちに思わせるために司令部は前進した。


 そして、その司令部を訪れるものが。


「クラウス・キンスキー中佐だ、兵卒。参謀長のカーティス大佐と司令官のバスラー中将閣下はおられるか」


 第5軍の司令部を訪れたのはクラウスだ。彼はいつもの傲慢な表情で、司令部の警備に当たっている兵士にそう告げた。


「はっ! 参謀長殿と司令官閣下はおられます」

「ご苦労。通せ」


 クラウスは司令部にカルロスとバシリウスがいることを確認すると、警備の兵士を脇に退けて、司令部が設置されている天幕に足を踏み入れた。


「何だろうと前進しろと言っている! 魔装騎士がいなくとも砲兵隊が全力でそちらを支援しているのだぞ! 前進できないはずがないだろうがっ!」


 司令部ではカルロスがエーテル通信機に向けて叫んでいた。


 彼はアーバーダーン要塞の攻略が上手くいっていないことに苛立っていた。彼の計画では2週間で終わるはずの戦闘が3週間に長引き、兵士たちが次々に倒れていくことに苛立っていた。


 その苛立ちをカルロスは前線部隊にぶつけている。攻略作戦が上手くいかないのは、前線部隊の士気が不足しているからだとして、彼は前線部隊に強引に前進を指示していた。この要塞が落ちなければカルロスのキャリアが終わるのだから。


「これは大佐殿。作戦は上手くいっていないようですね」

「……キンスキー中佐。何の用だ?」


 クラウスはそんなカルロスに向けて不敵な笑みを浮かべながら声をかけた。


「そろそろ我々の出番ではないかと思ってですね。この要塞に何年もかけるつもりがなければ、我々を投入してしかるべきでしょう。いくら植民地軍でも、兵士の値段も、時間の価値も、ただではないのですから」


 クラウスはそう告げて、ヴェアヴォルフ戦闘団をアーバーダーン要塞攻略戦から外したカルロスを見る。


「前にも言ったが、君の部隊はやり過ぎている。不要な混乱を引き起こし、外交的な解決を困難にした。そのような部隊を投入するわけにはいかない」

「それが本国政府にそう言われたからでしょう。事情は変わったはずですよ」


 カルロスが渋い表情を浮かべるのに、クラウスはそう告げて返す。


「な、何を言っている。これは我々の判断で……」

「いいえ。本国政府から植民地軍が圧力を受けて我々を投入しないようにしていたことは既に分かっています。だが、その本国政府は既に意見を翻したでしょう。そちらの梯子は外されている。無意味に足掻くと傷が広がりますよ」


 うろたえるカルロスに、クラウスはそう語った。


「もういい、カーティス大佐。確かに本国政府はもうヴェアヴォルフ戦闘団を投入しても構わないと言ってきた。こちらが無意味に彼らの行動に制約を課すのは、勝利を遠ざけるだけだ」

「バスラー中将閣下! ですが!」


 ここでバシリウスが深く溜息をついてそう告げ、カルロスが縋るように彼を見る。


「キンスキー中佐。君ならば203高地を取れるかね?」

「しかるべき支援があれば。我々は植民地軍でも有数の実力がある魔装騎士部隊です。アーバーダーン要塞であろうと陥落させることは不可能ではないでしょう」


 バシリウスが尋ねるのに、クラウスはそう告げて返した。


「植民地軍でも有数の実力がある魔装騎士部隊、か。確かに貴官の部隊には実績がある。アナトリアで勝利し、ミスライムで勝利し、ジャザーイルで勝利した実績が。その実績に賭けるとしよう」


 バシリウスはそう告げると、司令部の机に置かれた地図を見下ろす。


「貴官の部隊を203高地の奪取に当てる。配置は203高地の前面だ。同地点では第16植民地連隊がまだ戦闘力を保持して活動している。彼ら及び砲兵隊と連携して、203高地を奪取してもらいたい」


 バシリウスは地図において203高地の前面に当たるアーバーダーン要塞西正面を指差しながらそう述べた。


「理解しました、中将閣下。必ずしや我々が203高地を落とし、アーバーダーン要塞の喉元に短刀を突き付けてみせましょう。これで帝国海軍バーラト海艦隊は終わりです」


 クラウスはバシリウスに敬礼を送ると、小さく笑って司令部を出た。


「閣下! これでは我々の面子は丸潰れです! このままではヴェアヴォルフ戦闘団は更に増長し、共和国にとって不利益な活動に手を染めかねません! これでは何のために奴らを後方に置いたのか……」


 クラウスが去るとカルロスがバシリウスに向けて叫ぶようにそう告げる。


「だが、もう我々には本国の後ろ盾もない。これ以上、ヴェアヴォルフ戦闘団を後方に置くことは不可能だ。そして、彼らを後方に置き、アーバーダーン要塞の攻略に予定よりも長い時間と大きな被害が生じたことで、我々は懲罰にかけられるだろう」


 カルロスの言葉に対して、バシリウスは溜息交じりにそう返した。


「懲罰!? そんな馬鹿な! 我々は本国政府の意向を汲み、かつヴェアヴォルフ戦闘団という危険な部隊が活動することを阻止したのですよ! それが何故懲罰にかけられるというのですか!」

「発生した被害を考えたまえ。1万人が死傷したのだぞ。それだけの被害を生じさせておいてお咎めなしということは考えられないだろう」


 混乱するカルロスにバシリウスは淡々と告げる。


「降格処分か。最悪の場合は不名誉除隊か。いずれにせよ懲罰は受けることになるだろう。1万人の犠牲を出すまで、貴重な実戦経験のある魔装騎士部隊を投入しなかったということの責任を問われてな」

「で、ですが、これは本国政府が……」


 バシリウスが告げるのに、カルロスがそう返した。


「本国政府は知らぬ存ぜぬを貫くだろう。彼らは文章でヴェアヴォルフ戦闘団の投入を禁じる旨を伝えなかった。本国政府がヴェアヴォルフ戦闘団の行動に制約を課した証拠は何もない。政治家というのは責任逃れの専門家だからな」

「そんな……」


 共和国本国政府はバシリウスの告げたように文章に残る形で、ヴェアヴォルフ戦闘団の投入を禁じる旨を伝えていない。彼らは口頭でカルロスとバシリウスにヴェアヴォルフ戦闘団の行動を制限するようにと伝えており、証拠となるものは残さなかった。


 故に共和国本国政府は自分たちがアーバーダーン要塞攻略における損害の責任を問われるならば、知らぬ存ぜぬという態度を取り、その責任をカルロスとバシリウスに押し付けるだろう。


「キンスキー中佐の言う通り、我々は梯子を外された。本国政府の政治家たちは我々を生贄にして責任を逃れる。あの忌々しい要塞で流れた血の責任を取らされるのは私と君というところだ。残念なことにな」


 そう告げてバシリウスは深く溜息を吐き、カルロスは絶望から沈黙した。


「せめて、あの要塞が落とせればいいのだが。それだけが我々の気を慰めてくれるというものだ」


 バシリウスはそう告げると、煙草に火をつけた。


「では、君もヴェアヴォルフ戦闘団を組み込んだ作戦の立案にかかりたまえ。彼らにはアーバーダーン要塞の要衝である203高地を落としてもらう。彼らがどのような手段で勝ってきたかは知らないが、今回も勝利をもたらしてくれることを祈るとしよう」

「……畏まりました、閣下。直ちに立案にかかります」


 バシリウスが命じるのに、カルロスが肩を落として頷いた。


 アーバーダーン要塞の攻略。それに、ついに後方の予備として待機を命じられていたヴェアヴォルフ戦闘団が投入されることとなった。


 狙いは203高地。帝国海軍バーラト海艦隊の主力艦が停泊するアーバーダーンの港湾部を見渡すことのできるそこが、この戦闘の最大の激戦地となる。


……………………

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