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ヴェアヴォルフ戦闘団

……………………


 ──ヴェアヴォルフ戦闘団



 クラウス、ローゼ、ヘルマの3人とクラウスの部下たちは、2年間の教育部隊での訓練を受けて正式に将校に着任した。


 最初の階級は少尉。新たに部下たちを指揮することになった新米士官たちは緊張しながらも、下士官たちの力を借りて、部隊を懸命に切り盛りする。そして、ここで経験を積んで、中尉、大尉と昇進していくのだ。


 だが、クラウスは違った。


 前世で日本情報軍という軍事組織に所属していた彼には部隊を把握することなど容易であり、下士官たちを上手く使い、新米士官とは思えぬ洗練された指揮で部隊を取り纏めた。


 そんな彼は少尉として着任した翌日には中尉に昇格していた。


 読み書きができれば将校になれる植民地軍では、士官不足から、経験などを考えずに、ただ人数が不足しているからという理由で昇進させることが多々ある。


 それでも、少尉として着任した翌日には中尉になっているクラウスは植民地軍でも異例の存在だった。それだけ彼が優秀であり、魔装騎士科の教官が絶大な評価を与えていたことで、彼のスムーズな昇進が実現したのだ。


 そんなクラウスはついに野望の第一歩を踏み出そうとしていた。


「ヘンゼル・ヘルツォーク大佐殿」


 場所は植民地軍司令部のあるトランスファール共和国の首都カップ・ホッフヌング。植民地軍司令部は赤レンガ造りの建物であり、他の植民地様式の建物とは大きく異なっている。


「何だ?」


 そんな植民地軍司令部で、中年の男がメガネをクイッと正しながら、彼の副官の方を向いた。


 ヘンゼル・ヘルツォーク植民地軍大佐。


 植民地軍参謀部の作戦課長であり、植民地軍の作戦を立案している高級将校だ。植民地軍にしてはかなり優秀な人物であり、下位の将校たちからは尊敬を集めている人物でもあった。


「この後、来客の予定となっております」

「来客? 誰が来るんだったか……」


 副官が告げるのに、ヘンゼルがフムと考え込む。


「クラウス・キンスキー中尉です。彼が新しい部隊の設立に関して、大佐の承認が受けたいということでアポイントメントを取っております」

「ああ。あのひとり殺した優秀な士官か」


 クラウスの名前は植民地軍で広く知られていた。


 あのトランスファール共和国でも指折りの名家キンスキー家の子息であり、士官候補生時代から優秀な成績を残し、演習では訓練生をひとり殺害しているというクラウスの噂は植民地軍参謀部にも聞こえていた。


「この後に予定はない。一度、会って確かめてみよう。噂の士官を」


 ヘンゼルはニッと笑うと、副官にクラウスが来れば通すように命じた。


「クラウス・キンスキー中尉です。このたびは大佐の貴重なお時間をいただき感謝しております」


 クラウスはアポイントメントの時刻5分前丁度に姿を見せた。


「それで、キンスキー中尉。新しい部隊が設立したいという話だったが」

「ええ。この情勢下で、必要とされる部隊を設立したいと思っています」


 ヘンゼルが試すように告げるのに、キンスキーは僅かに微笑んでそう告げる。


「この情勢下、とは?」

「王国と帝国との植民地戦争は激化しています。植民地戦争では宣戦布告などのルールは無用。現地住民を保護するといった名目や、最初の発見者の権利などを振りかざして戦争が勃発します」


 クラウスが告げるように植民地戦争は激化していた。


 本国は植民地の争いは列強間の“本当”の外交に関わることではないとして切り離しているために、列強間は本国では平和を維持しつつ、植民地では激しい争いを続けている。


 近年起きた植民地戦争は地球のおけるアフリカ東部──クシュ地域を巡る争いで、エステライヒ共和国植民地軍も投入され、クシュの利権を争っていた。だが、最終的に勝利したのは王国で、共和国はクシュの利権を得ることができなかった。


「このような情勢下で必要とされるのは、即応性に秀でた戦力です。自分は植民地軍司令官閣下の直轄部隊を編成し、各地の植民地戦争で先手を打つことを考えております」


 クラウスがそう語るのを、ヘンゼルは静かに聞いていた。


 クラウスの告げることは間違ったことではない。これまでのエステライヒ共和国植民地軍の動きは、指揮系統の関連でどうしても鈍く、アルビオン王国やルーシニア王国に先手を打たれることが多々あった。


「問題は理解できた。それで新しい部隊というのは貴官が指揮するのか」

「ええ。信頼できる優秀な部下を集め、それで部隊を編成したいと思っています。規模としては魔装騎士大隊1個と装甲猟兵中隊1個、そして補給中隊と整備中隊がそれぞれ1個と本部管理中隊が1個と考えています」


 ヘンゼルの問いにクラウスはそう答えた。


「ただの中尉が指揮する部隊にしては規模が大きすぎやしないか」

「これぐらいの戦力でなければ、戦闘力としては不十分と考えましたので」


 普通、中尉が指揮するのは大きくて中隊程度だ。大隊を指揮することは、些か規模が大きすぎる。まして、クラウスは中尉に着任してから数ヶ月と経っていないのである。


「私としては承認しかねるな。即応力のある独立部隊の必要性は理解できるが、貴官にそれを任せるという観点からは同意できない」


 ヘンゼルはそう告げて、クラウスの傲慢の色が滲む瞳を見つめる。


「自分が新米であるから不安を覚えておいででしょうが、教育部隊では大尉から自分が指揮するのが一番であるとの推薦状をいただいております。それからこちらをご覧ください」


 クラウスはそう告げると、ふたつの書状をヘンゼルに手渡した。


「フランク・フォン・ファルケンハイン植民地軍司令官閣下とヴィクトール・フォン・レットウ=フォルベック南方植民地総督閣下から、か」


 差し出された書状のサインを見て、ヘンゼルが呻く。


 フランク・フォン・ファルケンハイン元帥は植民地軍の総司令官であり、植民地軍のトップだ。ヴィクトール・フォン・レットウ=フォルベック侯爵はエステライヒ共和国における南方植民地を統括する総督の地位にある人物。


 そんなふたりの大物の名前が記された書状をヘンゼルが開く。


「植民地軍において独立性の高く、機動力に優れた部隊の必要性は確かなものであると確信した。よって、植民地軍において発案者であるクラウス・キンスキー中尉の下、そのような部隊を設立することを承認する。各部署はキンスキー中尉が部隊を立ち上げることに全面的に協力すること」


 フランクの書状にはそう記されており、ヴィクトールの書状にも同じようなことが記されていた。


「植民地軍で実家の権力を使うのは感心しないな、キンスキー中尉」

「何のことでありましょうか。おふたりは私が部隊の必要性を説明し、それで納得いただいてこの書状を書いていただけたのでありますが」


 ヘンゼルが渋い表情でクラウスを見るのに、クラウスは飄々とそう返す。


 実際は実家の、キンスキー家の権力を使っている。


 フランクは自分が植民地軍司令官になるまでにキンスキー家から多額の献金を受けていて、キンスキー家とは非常に懇意にしていたし、ヴィクトールも南方植民地総督として献金を受け、社交界ではキンスキー家と深い繋がりがあった。


 そんなふたりがクラウスからの頼みを断れるわけもなく、彼らはクラウスの言うがままに植民地軍においてクラウスの望む部隊を設立することに同意したのだった。


「そういうことにしておいてやろう。だが、独立性が高いからといって好き勝手にやれるとは思うなよ。植民地軍でも、軍は軍だ。規律は守ってもらう」

「もちろんです、大佐殿」


 ヘンゼルがそう告げると、クラウスはニコリと演技染みた笑みを浮かべて返した。


「部隊の編成は貴官の望み通りとして、人員はこちらで決めてもいいのか?」

「いえ。できれば、私と同期の人間で構成したいと思っております。何分、自分のような若輩者が指揮する部隊ですので、あまり年齢の高い人間はその点を不快に感じるでしょうから」


 ヘンゼルは改めてクラウスが提出した独立部隊の編制を見て尋ね、クラウスはスラスラとそう告げて返した。


「若者だらけの部隊だと、他の部隊に舐められるぞ。大丈夫なのか」

「そこは実績を上げることで補いたいと思います。ああ、整備中隊だけは熟練の将兵を願います。私の知っている同期には、生憎そちらの道に進んだものはおりませんし、整備などは経験がものをいいますから」


 クラウスの同期はローゼが17歳、ヘルマが14歳だ。他も似たような年齢であり、完全に子供兵に部類されるようなものである。


 だが、それでも構わない。クラウスは戦闘部隊において下手に他所の部隊から将兵を引き抜くよりも、自分に忠誠心のある人間で周囲を固めておきたかった。その方が彼の目的を達成するためになるのだ。


「フン。どのようなものも経験がものを言うのだがな」


 ヘンゼルはそう告げながら、煙草に火を付けた。


「クラウス・キンスキー中尉。近日中に部隊編成の自由裁量と部隊の指揮権を与える。だが、あまり他の部隊と揉め事を起こすなよ。中には植民地軍の中で兵隊ごっこをやることを不快に思う人間もいるだろうからな」

「ご忠告に感謝します、大佐殿。ですが、ご安心を。すぐに兵隊ごっこではないと理解していただけるものと思いますので」


 ヘンゼルが煙草を吹かしてそう告げるのに、クラウスは僅かに口角を歪めて笑った。


「そう。すぐに。ですね……」


 クラウスに部隊編成の自由裁量が与えられ、彼がその権限で部隊を編成し、自分が部隊の指揮官となったのは、この日から僅かに1週間後のことであった。


……………………

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