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アーバーダーン要塞攻略戦

……………………


 ──アーバーダーン要塞攻略戦



 クラウスたちがミグリンで勝利し、共和国植民地軍が帝国植民地軍サウード派遣軍団との決戦に勝利してから2週間。


 共和国本国政府の度重なる停戦協定発効までの待機命令を無視して、共和国植民地軍は進軍を継続。軍は瞬く間にメディアとの国境線にまで機動し、それから数日と経たずして、メディアにおける帝国の要衝である港湾都市アーバーダーンにまで兵力を進めた。


「これからアーバーダーンを落とす」


 クラウスたちヴェアヴォルフ戦闘団も、共和国植民地軍本隊と合流し、彼らと共にアーバーダーンに到着していた。


「アーバーダーンには海軍基地を守るための永久要塞が建造されている。要塞砲が数百門に、旧式戦艦6隻を中核とする艦隊、それに2個師団の兵力が立て籠もっている。これを落とすのは至難の業となるだろう」


 アーバーダーンには帝国海軍バーラト海艦隊の主力艦が停泊している。


 戦艦ツェサレーヴィチ、レトヴィザン、ポベーダ、ペレスヴェート、セヴァストポリ、ポルタヴァの6隻の戦艦はアーバーダーンに立て籠もり、防護巡洋艦と駆逐艦が周辺海域の巡邏任務を行っている。


「兄貴。アーバーダーンってのは落とすと問題になるんじゃないッスか?」


 と、ここでヘルマが手を挙げてそう告げた。


 アーバーダーンは帝国の不凍港であり、帝国のこれからの南方植民地政策の中心となる場所だ。そこが落ちるとなると帝国はどのような手段に訴えてでも、アーバーダーンを守ろうとするだろう。


 それには世界大戦のリスクを冒すということも含まれている。


「お前にしては真っ当な指摘だな、ヘルマ。その通りだ。俺たちがアーバーダーンを落とせば帝国はどんな手段を取ってでも、アーバーダーンを奪還するために動くはずだ。だが、その点は問題ない」


 クラウスはヘルマの指摘に満足そうに頷くと、地図を指さした。


「アーバーダーンは完全には落とさん。帝国の連中が危機感を抱く程度に陥落させるだけだ。奴らがこれから南方植民地に進出できなくなることを恐れ、根負けするまで叩くだけだ」


 クラウスはそう告げると、地図上の駒を動かした。


「現状、アーバーダーンには共和国植民地軍第5軍から6個師団が貼りついている。帝国の永久要塞は2個師団の兵力でも、3倍の規模がある敵兵力を退けられるようになっているからな。まあ、数においてはこちらは完全に満たされていると言っていい」


 クラウスがそう告げて動かした駒は共和国植民地軍の兵力を示す駒。


 サウードから帝国植民地軍を駆逐した共和国植民地軍は、アーバーダーンを最優先目標とし、全兵力の半数以上の6個師団をアーバーダーンに差し向けていた。アーバーダーンの周囲には、共和国植民地軍の大部隊が展開している。


「完全に落とす、落とさないの以前の問題としてアーバーダーンを落とす見込みはあるの? 帝国の築城技術はそれなり以上だと聞いているわ。陥落させるのは至難の業のように思えるけれど」


 ローゼは事前にナディヤたち偵察分隊が行った偵察活動で把握されたアーバーダーン要塞の情報と、他の師団の偵察部隊が行った偵察活動で把握されたアーバーダーン要塞の情報とを掛け合わせてそう告げる。


 アーバーダーン要塞はべトン陣地の永久砲台がいくつも設置され、要塞の随所には機関銃も据え付けられている。歩兵部隊をここに無策に投入すれば、機関銃と要塞砲の射撃の餌食となって、全滅するだろう。


「難しいことではない。俺たちが破城槌として働けば、それでいい。要塞砲が些か脅威になるだろうが、無理ではないはずだ」


 だが、クラウスは何ということはないという具合にそう告げる。


「そうであることを祈りたいところ。あまり時間はかけられないでしょうし」


 クラウスの言葉に、ローゼは小さく肩を竦めて返した。


 流石の帝国も、もうすでにサウード派遣軍団が壊滅したというニュースは聞いているはずだ。ならば、彼らはメディアを防衛するために、増援を送り込んでくる可能性は大いに高かった。今は2個師団が立て籠もっているだけの、アーバーダーンだが、これからどう動くかは分からない。


「敵の増援に関してはノーマンが手を打っている。奴がメディアで大規模な植民地人の反乱を扇動するはずだ。帝国植民地軍はその反乱を鎮圧するので、手一杯になって、碌に動けなくなるはずだ」


 共和国植民地省市民協力局のノーマンは、今はメディアにおける反乱工作に従事していた。彼は帝国の植民地政策に反発を覚えているメディアの市民たちに、武器弾薬を供給し、更には軍事顧問を送り込んでその戦力を増大させている。


「なら、いいわ。勝てるなら私に言うことはない。あなたの提示した情報の通りにことが進むといいのだけれど」


 ローゼはぶっきらぼうにそう告げると、再び視線を手元に地図に落とす。


「安心しろ。俺たちが負けることはありえない。今回も勝利して、ロートシルトに約束した通りにメディアを落とす。それからはロートシルトの働き次第だな。向こうが本国にどう働きかけて戦争にケリをつけるかだ。こっちには流石に外交のフリーハンドはないから、こればかりはレナーテたちに任せるしかない」


 クラウスは様々な特権を手に入れてきたが、それは植民地軍士官の範疇に限られる。軍事的なフリーハンドはあれど、外交のフリーハンドはない。それを行うのはあくまで植民地政府か本国政府だ。


 そして、レナーテはその植民地政府と本国政府に政治的な伝手がある。彼女ならば、この不毛な戦争にケリをつけることもできるだろう。


「ロートシルトの親玉をそれなり以上に信頼してるのね」

「お互いに恩恵のある関係だからな。向こうもこっちを無下にはできないし、こっちも向こうを無下にはできない」


 ローゼがそんな状況で呟くように告げるのに、クラウスが肩を竦めた。


「さて、そろそろ時間だ。俺とローゼはこれから第5軍の司令部で、アーバーダーン要塞攻略についてのブリーフィングに出席する。その結果を踏まえて、後に指示を出す。いつでも戦闘可能なようにしておけ。以上だ」


 クラウスは最後にそう告げて、部下たちを解散させた。


 日時はジャザーイル事件の勃発から既に3ヶ月近くが経とうとしている。そろそろ戦争を終わらせなければ、クラウスのヴェアヴォルフ戦闘団は不毛な戦いを戦っただけになる。


「そろそろこの戦争もお終いね。あなたはどうせ次の戦争の準備を進めているのでしょうけれど」

「まあな。どうせ俺たちは戦争屋だ。戦争をしてないと稼げない。戦争をしてなければ意味がない」


 ローゼが席から立ち上がって告げるのに、クラウスはそう返した。


「あら。私は戦争屋になったつもりはないわよ?」

「じゃあ、何だっていうんだ。ここまで血と油に塗れておいて、品行方正な貴族令嬢だとでも嘯くつもりか」


 心外だというようにローゼが告げ、クラウスは大げさに手を広げてみせる。


「酷い言い草。それならあなたに責任を取ってもらわないといけないわね。あなたのせいで身も心も穢れてしまったのだから」


 ローゼはクスリと小さく笑うと、そう告げて部屋の扉を開いた。


「何を言っているやら。ここにいるのは自分たちの自由意志だぞ。俺たちは自分たちの意志で戦争屋をやってるんだ。誰も責任など取りはしない」

「それでもお嫁に行けなくなったら、あなたに責任を取ってもらわないとね?」


 クラウスがそう告げるのに、ローゼはそう返す。


「お前は婿を貰う立場だと思っていたがな。そうじゃないと、レンネンカンプ子爵家は断絶するだろう」

「それは理想。他に選択肢がなくなったら私もお嫁に行く。一生結婚しないなんてことは嫌だから。あなたも結婚だけはしておきたいんじゃないの?」


 ローゼはレンネンカンプ子爵家の唯一の後継者だ。彼女は他の家に嫁ぐのではなく、他の家から婿を招かなければ、ローゼが今必死に再興しようとしているレンネンカンプ子爵家は断絶することになる。


「フン。結婚などどうでもいい。世間がどう思うかは知らないが、俺はそういうことは気にしない。戦争と結婚したとでも思っておくさ」


 クラウスは肩を竦めてそう告げると、部屋の外に出た。


「結婚は世間体だけの問題じゃない。人生の大事なイベントよ」

「そうかもな。だが、俺はどうでもいい。折角大金を手に入れるんだ。人生は好きに生きさせてもらう」


 そんなクラウスにローゼは渋い表情を浮かべ、クラウスはそれを受け流すと、このヴェアヴォルフ戦闘団の仮の司令部が設置されている家屋から、第5軍の司令部が設置されている家屋に向けて歩み始めた。


「酷い人ね。少しは考えてくれたっていいのに」


 ローゼはそう呟くと、クラウスに続いて第5軍の司令部に向かった。


 アーバーダーンから距離4キロ。周辺では第5軍に所属するスレイプニル型魔装騎士が戦闘準備に入り、砲兵隊が砲撃の準備を整えている。


 メディアを巡る最大の戦闘は、今まさに始まらんとしていた。


……………………

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