帝国という国家(2)
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ルーシニア帝国帝都アルハンゲリスキー。
その宮殿の通信設備がカタカタと音を立てて通信文を吐き出し始めた。
「どこからだ?」
「はっ! トランスファール共和国カップ・ホッフヌングの第1植民地連隊の駐屯地からです」
宮廷の通信を管理しているのは軍だ。軍が軍事用の通信回線をアルハンゲリスキーから各地に広げていてた。そのうちの一部は共和国や王国の通信回線と混じり、ちょっとした情報ネットワークが構築されている。
「発信者は……エカチェリーナ皇女殿下!?」
共和国の植民地からのくだらない通信だろうと思ったら、それは皇族から通信であった。
「大佐殿。どのように書かれているので?」
「大至急。皇帝陛下とエーテル通信で話し合われたいとのことだ。皇帝陛下にお知らせし、指示を仰げ。急げ、急げ」
たった1枚の通信文で宮廷は大騒ぎになった。
結局のところはエカチェリーナを可愛がっている皇帝が、トランスファール共和国で困ったことでも起きたのかもしれないと考え、エカチェリーナとのエーテル通信に応じた。
だが、これが更に事態を掻き乱すことになる。
『お会いいただき光栄ですじゃ、父上。そちらは変わりありませんか?』
「おお。エカチェリーナよ。宮廷でそなたの姿が見えずに寂しいぞ。可愛い子には旅をさせよというが、余はこの意見には同意しかねるところだ」
エカチェリーナの姿がエーテル通信用のクリスタルに移り、彼女がクリスタルの向こうでペコリと頭を下げるのに、アレクサンドル4世が柔らかい笑みを浮かべてそう返した。
ツァーリズムによって帝国という巨大国家を支配し、共和主義者から打倒するべき巨悪と扱われる男も、娘を前にしては父親に戻るようである。
『いや。旅はする価値がありましたぞ。早速、共和国の誇る精鋭部隊ヴェアヴォルフ戦闘団の指揮官との間に友好関係を構築したところですじゃ』
「ヴェアヴォルフ戦闘団。質の悪い荒くれものだろう。そんなものとあまり関わるのではないよ、エカチェリーナ」
エカチェリーナがヴェアヴォルフ戦闘団の名前を出すと、アレクサンドル4世は露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
エカチェリーナの今回の旅行の目的が、植民地で猛威を振るヴェアヴォルフ戦闘団を調査することだとは、事前に聞かされていたので知っている。だが、アレクサンドル4世が想像した調査は、全てのものが皇族をもてなすために整えられたホテルで、礼儀をわきまえた植民地軍の高官と話をしてくるというものだ。
それが、何故かエカチェリーナは明らかに共和国植民地軍の施設内におり、背後には若い軍人──新聞で見たことがあるヴェアヴォルフ戦闘団の指揮官たるクラウス・キンスキーがいた。
アレクサンドル4世はクラウスをよくは思っていない。所詮は平民上がりの将校に過ぎず、上流階級入りをネズミのように待ち構えているような連中だと思っていたからだ。
そんな奴が可愛い娘の傍にいる。明らかに不愉快になる。
『そうそう機嫌の悪い顔をしないでいただきたいのう。キンスキー中佐には命を救ってもらったのじゃから。それも2度も、じゃ』
「い、命を!? 何があった、エカチェリーナ!?」
エカチェリーナがサラリと言葉を流すのに、皇帝が玉座から立ち上がって叫んだ。その声に控えていた使用人は侍従がビクリと驚く。
『暗殺者に狙われたのじゃ。埠頭では爆弾で殺されかかり。街中では銃を持った暗殺者たちに追い回されたというところですかのう』
「あ、暗殺者……。それは共和国の仕業か?」
娘の言葉に、アレクサンドル4世は愕然としながらも尋ねる。
『いいや。共和国は白ですじゃ。残念なことに帝国の人間がけしかけたものだと思われますじゃ。帝国政府は皇帝官房第3部の暗殺者を妾たちは共和国の軍人たちと確認しましたからのう』
「皇帝官房第3部だと。おい、すぐにオルゲルト・オルロフ伯爵を呼べ」
エカチェリーナが話を続けるのに、アレクサンドル4世はすぐに皇帝官房第3部の部長であるオルゲルトを呼び出した。
「お呼びでしょうか、陛下」
オルゲルトはさして悪びれた様子も見せず平然とアレクサンドル4世の前に姿を現した。緊急だったためか秘書は連れてきていない。
「オルゲルト・オルロフ。貴様の皇帝官房第3部は余の可愛い娘であるエカチェリーナの暗殺を試みたか?」
「な、なんのことでしょうか。我々が皇族を害するはすがございません」
アレクサンドル4世が睨むようにオルゲルトを見るのに、オルゲルトの額に汗が一筋流れる。どこでバレた。どこで皇帝に伝わった。まさか、ストロガノフ侯爵が裏切ったか。
「ふざけるでない! 私の娘が帝国の放った刺客に襲われたと証言しているのだぞ! 貴様は皇族が嘘を吐いて国を乱そうとしているとでもいうつもりか?」
アレクサンドル4世の言葉に、オルゲルトの足が震える。
俺はどうなる。流刑か。それとも大逆罪で死刑か。いや、これはストロガノフ侯爵に命じられたことだと言い切れば責任を免れるのではないか。
「エカチェリーナ。この帝国を裏切った男に何を望む」
『そうですな。妾たちがトランスファールを視察している間に妾たちに何も起きなければ免職で。もし、何かが起きた場合は大逆罪の適用をお願いしますじゃ』
罪人の罰をどうするか尋ねる皇帝に、エカチェリーナはエーテル通信機の向こうから飄々とした声でそう返した。
「よかろう。分かったか、オルゲルト・オルロフ。これ以上、エカチェリーナの身に何かが起きたりしないことを余は期待する。もし起きれば、余は一切の慈悲もなくお前を極刑に処す次第だ」
「か、畏まりました。全力で対応を行います」
アレクサンドル4世は最後にそう威圧的に告げ、オルゲルトは逃げるようにこの玉座の間を去った。
『感謝しますじゃ、父上。これでゆっくりとトランスファールとヴェアヴォルフ戦闘団を見てくることができますからの』
「うむ。だが、海外は危険だ。1日でも早く帝国に帰ってきなさい」
エカチェリーナもエーテル通信機のクリスタル越しに頭を下げ、アレクサンドル4世はまた何か別の問題──植民地特有の感染症や植民地人の反乱──に巻き込まれる前に娘が安全な帝国に戻ってくることを祈ったのだった。
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「これでもう暗殺者には怯えずともいいじゃろうて。何が起きても皇帝官房第3部の仕業になるので、連中が必死に妾たちの警護を行ってくれるはずじゃ」
エーテル通信を終えたエカチェリーナはニマニマとした笑みでそう告げる。
「証拠とかは必要なかったんですか? 暗殺者が本当に皇帝官房第3部の工作員だったという証拠がなくても、あの伯爵を処分できるんですか?」
パトリシアは不可解だという顔をして、エカチェリーナを見る。
「要らぬ。父上が黒と思えば、それは黒じゃ。それが我らが帝国を数百年に渡って統治してきたツァーリズムじゃよ」
皇帝が全権を有する。ひとりの人物が国家の全ての権力を握る。
共和国ならば、暗殺者と皇帝官房第3部との関係の証拠を集め、作戦に加担したと証言する人間を探し、それらを率いて議会でこの薄汚い陰謀を暴露し、議会の賛同が得られれば、大臣クラスの政治家の退陣を要求できるという具合だ。
だが、帝国はそのようなものを一切必要としない。皇帝が黒だと思えば、それは黒。議会の承認も、民衆の意見も必要なく、皇帝が勝手に大臣に退陣させられるし、大逆罪を適用して死刑にすることもできる。
「妾が何故共和主義者かちょっと分かったじゃろう?」
そう告げて、エカチェリーナがクスリと笑う。
「確かに帝国のやり方は問題が多いように思われます。皇帝に全権があるということは、皇帝の負担はあまりに大きいということ。そして、皇帝の勝手な決定に怒る市民の怒りが発散される場がない」
エカチェリーナの言葉にパトリシアが応じる。
ツァーリズムは皇帝による親政であるため、皇帝の負担は大きい。各種官僚組織が皇帝を支えているものの、あまり官僚たちに仕事を任せると、官僚に権力があまりに増大してしまう。それは望ましくない。
そして、国民が今の政治に不満を抱いたときに、どうすればいいのか。共和国の市民ならば政治に不満があるならば、票を入れる候補者を変える。そして、別の議員、別の大統領を選出する。
だが、帝国には選挙などない。市民が皇帝の下した判断をいくら不満に思っても、彼らには現状を変えるための手段を何ひとつ有していない。
「その通りじゃ。流石は名高い南方植民地総督の娘じゃのう。理解が早いわ」
パトリシアの回答にエカチェリーナがパチパチと拍手を送る。
「帝国は国内の不満を国威発揚によって補っているところじゃ。アナトリア戦争でのちゃちな勝利を大々的に宣伝して回り、王国との泥沼の戦いが続いている東方植民地でもちょっと活躍した人物がいれば褒め称える、と」
エカチェリーナは明らかにこの方策に満足していないというように、どこか嘲るような口調でそう帝国の政策を語った。
「だが、これももう限界が来とる。結局、いくら国家が偉大になっても今日の飯が満足に食えないものたちは納得しない。だから、不満を国外に逸らすという政策を始めておるのじゃ。いずれは自分たちの首を絞めるだろう政策をな」
エカチェリーナは国内の不満を外に逸らそうとしていると語っていた。
「世界大戦は誰もが植民地から始まると考えておるが、それは違うじゃろうな。世界大戦が始まるのは帝国からじゃ。自分たちが誘導し続けた憎悪が暴発することを恐れた帝国は、それよりも破滅的な世界大戦の道を選ぶじゃろうて。全く以て、悲しいことにな」
そこまで語るとエカチェリーナは大きく肩を落とした。
「興味深いお話ですが、どうしてそれを我々に?」
クラウスがエカチェリーナにそう尋ねる。
エカチェリーナはわざわざクラウスを指名してこの場に招いた。そして、語る必要もないだろう帝国の矛盾に満ちた内情について語って聞かせた。
その狙いはなんだ?
「既に言っただろうが、妾は共和国派じゃ。じゃが、近々王国派が共和国との関係を致命的に悪化させる行動に出ることが分かった」
エカチェリーナは小さく口角を歪め、何かを企んでいるような猫のような瞳を輝かせると、クラウスに語る。
「バルチック艦隊の戦艦と装甲巡洋艦がジャザーイルを突然訪れる。それと同時に帝国は共和国にジャザーイルの権利を寄越すようにと求めてくる。そういう陰謀が進んでおるのじゃ」
「ジャザーイルに帝国の戦艦と装甲巡洋艦が……!」
枢密院で話し合われていたことだ。バルチック艦隊から戦艦と装甲巡洋艦を出発させ、そのことによって共和国を脅迫し、ジャザーイルを獲得するという計画。それをエカチェリーナはクラウスたちに暴露した。
「海軍同士の動きは不味いですな。下手をすれば世界大戦に繋がる」
「帝国はミスライム危機で王国海軍と共和国海軍が睨み合っても戦争が起きなかったのを見て、楽観的に考えておるのじゃよ。武器で脅して、相手から物を奪うなど実に情けない話じゃが」
クラウスが顎に手を置いて考え込むのに、エカチェリーナが溜息を吐く。
「クラウス。艦隊がジャザーイルに来たらどうなるの?」
「砲艦外交になる。海軍の圧力で、共和国政府は混乱するはずだ。こちらの海軍は帝国の海軍とは戦えない。ジャザーイルに帝国の艦隊が訪れることは阻止できないだろう」
パトリシアが尋ねるのに、クラウスがそう返す。
「それで、共和国派の殿下はこの事態をどのように解決することをお望みなのでしょうか? 海軍同士が衝突して、共和国と帝国が世界大戦を引き起こすことは望んでおられないように思えますが」
「その通りじゃ。妾はことがなるべく平穏に終わることを望んでいる。平穏とは言っても、妾としては共和国を舐めている帝国上層部が目を覚ますような解決手段じゃがな」
クラウスの問いに、エカチェリーナがそう返す。
「なるほど。平穏にですか。戦艦と装甲巡洋艦を相手に、平穏にことを済ませるとなるとなかなかことですな」
帝国はバルチック艦隊から戦艦4隻と装甲巡洋艦2隻を派遣してきている。これを平穏にお帰り願うには、クラウスの言う通りなかなか至難のことだろう。
「まあ、ことがエスカレートしても妾と妾の派閥が可能な限り、世界大戦に繋がることは避ける。軍艦が沈めば難しいじゃろうが、損害を受ける程度ならば、帝国上層部も共和国の実力を思い知り、下手に共和国に手を出そうとは考えまい」
幸いなことに帝国には共和国派のエカチェリーナの派閥が存在する。彼女たちはジャザーイルの件で、共和国と帝国が戦闘に陥っても、帝国上層部に冷静な判断を求めることができる。
「戦艦と装甲巡洋艦を排除する。海軍の支援なしに……」
クラウスはジャザーイルに派遣される帝国海軍の艦隊をどう始末するかを考えていて、他の話は聞いていない。
「エカチェリーナ殿下。本当に大丈夫なのですか? 海軍は国の威信。それを撃破するということは帝国の国威を傷付け、帝国臣民たちが帝政に不満を爆発させる恐れがありますが」
対するパトリシアは帝国海軍のジャザーイルへの乗り込みから、帝国臣民の怒りが爆発し、そのことから世界大戦が勃発するのではないかと恐れていた。
「問題はない。所詮は貴族たちの計画じゃ。帝国臣民はさしたる興味を持たないだろうし、持ったとしてもどうこうすることはできぬ」
パトリシアの心配にエカチェリーナが悠然と返す。
「問題は派遣した艦隊が何らかの手段で撃破され、そのことを帝国政府上層部が不快に思うことじゃ。帝国臣民には力はなくとも、帝国政府上層部には絶大な権力があるからの」
帝国政府上層部は、帝国市民と違って政治を動かす力を持っている。彼らは彼らが計画したジャザーイルの獲得に失敗すれば、それなりの憤りを示すことだろう。それがどのような形で現れるかは不明だが。
「帝国は共和国との植民地戦争を始める。俺たちはそう簡単には、俺たちの植民地を渡すつもりはない。戦艦が来ようが、撃退してやる」
と、クラウスは自信に満ちた口調でそう告げた。
「さて、妾は帝国の内情について、そのまま明かした。次はそちらのことについて明かしてほしいものだのう」
そこでエカチェリーナの表情が、飄々とした笑みから獲物を前にした肉食獣のようなそれへと変わる。
「それはヴェアヴォルフ戦闘団を見学なさりたいといということでしょうか?」
「そうじゃ。アナトリア戦争で大勝利を収め、ミスライムでは離れ業をやってのけた人狼たちに妾は興味がある。安心せい。見聞きしたことは帝国政府には教えてやらぬからの」
クラウスが用心深く尋ねるのに、エカチェリーナがクスクスと笑ってそう返す。
「いいでしょう。2日後に駐屯地にご案内します。そこで自分の指揮するヴェアヴォルフ戦闘団について、思う存分視察を行ってください」
「ちょ、ちょっとクラウス!」
クラウスがアッサリとエカチェリーナの申し出を受けるにの、パトリシアが大混乱を起こして、クラウスにつかみかかる。
「だ、大丈夫なの? あなたの部隊は、その、いろいろと機密になってることがあるでしょう? アナトリア戦争やミスライム危機で魔法みたいに勝利した秘密が」
「最大の秘密は隠しておく。そうすれば後は普通の部隊と同じだ、まあ、錬度の高さを除けばな」
小声でパトリシアが告げるのに、クラウスも声を落として囁き返す。
最大の秘密はヴェアヴォルフ戦闘団が既に第3世代魔装騎士を導入しているということだ。今頃はニーズヘッグ型の習熟訓練が第8植民地連隊の駐屯地で行われているはずである。
それさえ機密にしておけば、ヴェアヴォルフ戦闘団は普通の魔装騎士部隊と同じだ。ただ、本国軍か、それを上回る錬度を有するという点を除くのであれば、だが。
「なら、いいけど……」
軍事に詳しくないパトリシアはクラウスのヴェアヴォルフ戦闘団は何かしらの、秘密を持っていて、それでアナトリア戦争でも、ミスライム危機でも勝利できたのだと思っている。そのためエカチェリーナがヴェアヴォルフ戦闘団を視察することを危惧しているようであった。
「今日の視察は流石にもう時間も遅いので、視察は2日後ということで。明後日になったらご宿泊先のホテルに案内のものを向かわせます」
「うむ。楽しみにしておるぞ。妾が遥々、トランスファールまで来たのはお前の部隊を見るためじゃからの」
クラウスはエカチェリーナにそう告げ、エカチェリーナはピョンと椅子から立ち上がる。
「では、明後日を楽しみにしておるぞ、キンスキー中佐。そして、今日はいろいろと迷惑をかけてすまなかったの、パトリシア嬢」
エカチェリーナは最後にそう告げてヒラヒラと手を振ると、派遣された植民地警察の警護と共に宿泊先の高級ホテル、トランスファール・セントラル・ホテルへと向かっていった。
「はあ……。つ、疲れたあ……」
エカチェリーナを笑顔で見送ったパトリシアは、エカチェリーナが去るなり崩れ落ちるように床に膝を突いた。
「貴族令嬢ってのも大変だな。暗殺されかかる皇族の接待をさせられ、その歳で世界大戦の危機に対応せにゃならんとは」
「全く。たまに自分が貴族の娘なのが嫌になるわ」
クラウスがそんなパトリシアに手を貸して立ち上がらせ、パトリシアはクラウスに身を委ねる形で立ち上がった。
「今日は本当に最悪な日よ。銃弾がバンバン飛んできて死ぬかと思ったし、世界大戦勃発のニュースを知らせる新聞の一面が頭に何度も過ぎって胃が破れそうだった」
「お疲れ様。家に帰ってゆっくり休め」
パトリシアは愚痴りながらもしっかりと自分の体をクラウスに密着させる。
「送って。家まで送って」
「自分で帰れるだろう」
パトリシアがクラウスに身を委ねたまま上目遣いに彼を見るのに、クラウスがポンポンとパトリシアの頭を撫でながら返した。
「嫌。送っていってくれないとやだ。送って」
「困ったお嬢様だな」
子供のような我が侭をいうパトリシアに、クラウスは肩を竦めると、パトリシアの手を握って、第1植民地連隊の接客室の扉に向かった。
クラウスもパトリシアに同情している。クラウスは長らく軍人だから命のやり取りには慣れているが、パトリシアは一般市民だ。それが突然、自分たちを殺そうとしてくる連中に襲われ、それも自分の身を守ると同時に、世界大戦の勃発を阻止するためにエカチェリーナの身も守らなければならなかった。
今日はパトリシアの告げるように散々な日だ。危うく世界大戦が勃発し、パトリシアがその責任を取らされるかもしれなかったのだから。
「運転手は港で蹴り落としたしな。俺が家まで送ってやるよ。車は植民地軍のジープを借りればいいだろう」
「うん。ちゃんと家まで送ってね」
クラウスはパトリシアをエスコートし、パトリシアはようやく訪れた平穏に安堵しながら、クラウスに手を引かれるままに第1植民地連隊の駐屯地を出た。
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